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#56 恐怖の手術②
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結束バンドでベッドに固定された僕の両方の手首に、乙都と蓮月が消毒液を塗りつける。
「あの…カテーテルの代わりに、性器に何かするって、どういうことですか?」
両手にビニール手袋をはめ、僕の陰部を洗い始めた先生に、おずおずと僕は訊く。
今すぐ手術しないと血管が詰まって24時間以内に死ぬとか、先生の言葉はいちいち物騒きわまりない。
「メンテしてないからさ。メンテをさぼったオルガはよくこうなる」
言いながら、陰部を洗い終えた先生は機材の調節にかかる。
アームにとりつけられた大きな鉄の箱みたいな機械を、看護師たちに手伝わせて僕の裸の胸に押しつけたのだ。
「メンテ? オルガ? 何のことです?」
「少年、キミが記憶の多くを失っているらしいことはそこのオトから聞いているが、残念ながら今は事情を話している時間はない。無事手術が終わったら、病棟内を自由に動けるようになる。そうなれば、自然に思い出すだろうよ」
先生が機械をいじると、傍らの事務机の上のモニター画面に白黒の映像が映った。
握りこぶしくらいの大きさの、ほおずきのような形の臓器がぎこちなく動いている。
あれがどうやら僕の心臓らしい。
「この前詰まったのがここ。そして今、こことここも詰まりかけている。あと、尿道の一部もな」
心臓を取り巻く枯れ枝のような血管を指差して、先生が言う。
「そ、それ、治せるんですか?」
重ねて僕はたずねた。
恐怖で声が震えていた。
「普通は中にステントというものを入れて、血管や尿道を拡張する。あるいは開胸して血管のバイパス手術を施すかだが…。ところが、あいにく今は夜だ。この深夜のICUには、そうした普通の手術の準備がない。夜のフェーズでは、それに従ったやり方でやらなければならないんだよ」
「昼と夜で、治療法が違うってことですか?」
そんな話、聞いたことがない。
いったいこの人は、何を言っているのだろう。
「見ての通り、夜のICUには我々しかいない。この時間帯にここを使うのは、一般の人間にとっては、いわば自殺行為だからだ。それに、ここへ来るまでに見ただろう。昼間の世界の常識では考えられないようなことを。夜の病棟は、昼間と根本的に世界が違うんだ。日が暮れたら、夜世界のルールに従うしかないんだよ」
「夜世界…?」
モンスター化した患者たちや、生きた事務器具がパレードする狂気の世界…。
そんなところで手術を受けたら、僕の躰はどうなってしまうのだろう?
「無駄口はここまでだ。もう動くな。麻酔はないから地獄のように痛いと思え」
女医が平然と恐ろしいことを口にした。
「準備完了です。一番生きのいいのを三匹、選出しておきました」
蓮月が、サイドテーブルの上に水を浸した洗面器のようなものを置く。
ピチャン。
中で何かが跳ねる音がした。
乙都に向かい、目顔でうなずく先生。
「では、行きますね」
その中から乙都がつかみ出したものを目の当たりにして、僕は思わず喉の奥でひっと小さな悲鳴を上げた。
ま、マジ、かよ。
移植って、ま、まさか、それを…?
そ、そんな、あ、あり得ない!
「あの…カテーテルの代わりに、性器に何かするって、どういうことですか?」
両手にビニール手袋をはめ、僕の陰部を洗い始めた先生に、おずおずと僕は訊く。
今すぐ手術しないと血管が詰まって24時間以内に死ぬとか、先生の言葉はいちいち物騒きわまりない。
「メンテしてないからさ。メンテをさぼったオルガはよくこうなる」
言いながら、陰部を洗い終えた先生は機材の調節にかかる。
アームにとりつけられた大きな鉄の箱みたいな機械を、看護師たちに手伝わせて僕の裸の胸に押しつけたのだ。
「メンテ? オルガ? 何のことです?」
「少年、キミが記憶の多くを失っているらしいことはそこのオトから聞いているが、残念ながら今は事情を話している時間はない。無事手術が終わったら、病棟内を自由に動けるようになる。そうなれば、自然に思い出すだろうよ」
先生が機械をいじると、傍らの事務机の上のモニター画面に白黒の映像が映った。
握りこぶしくらいの大きさの、ほおずきのような形の臓器がぎこちなく動いている。
あれがどうやら僕の心臓らしい。
「この前詰まったのがここ。そして今、こことここも詰まりかけている。あと、尿道の一部もな」
心臓を取り巻く枯れ枝のような血管を指差して、先生が言う。
「そ、それ、治せるんですか?」
重ねて僕はたずねた。
恐怖で声が震えていた。
「普通は中にステントというものを入れて、血管や尿道を拡張する。あるいは開胸して血管のバイパス手術を施すかだが…。ところが、あいにく今は夜だ。この深夜のICUには、そうした普通の手術の準備がない。夜のフェーズでは、それに従ったやり方でやらなければならないんだよ」
「昼と夜で、治療法が違うってことですか?」
そんな話、聞いたことがない。
いったいこの人は、何を言っているのだろう。
「見ての通り、夜のICUには我々しかいない。この時間帯にここを使うのは、一般の人間にとっては、いわば自殺行為だからだ。それに、ここへ来るまでに見ただろう。昼間の世界の常識では考えられないようなことを。夜の病棟は、昼間と根本的に世界が違うんだ。日が暮れたら、夜世界のルールに従うしかないんだよ」
「夜世界…?」
モンスター化した患者たちや、生きた事務器具がパレードする狂気の世界…。
そんなところで手術を受けたら、僕の躰はどうなってしまうのだろう?
「無駄口はここまでだ。もう動くな。麻酔はないから地獄のように痛いと思え」
女医が平然と恐ろしいことを口にした。
「準備完了です。一番生きのいいのを三匹、選出しておきました」
蓮月が、サイドテーブルの上に水を浸した洗面器のようなものを置く。
ピチャン。
中で何かが跳ねる音がした。
乙都に向かい、目顔でうなずく先生。
「では、行きますね」
その中から乙都がつかみ出したものを目の当たりにして、僕は思わず喉の奥でひっと小さな悲鳴を上げた。
ま、マジ、かよ。
移植って、ま、まさか、それを…?
そ、そんな、あ、あり得ない!
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