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#79 東病棟ナース・ステーションの謎④
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蚯蚓そっくりなこの躰で移動するには、Sの字に胴を動かすのが一番だった。
尺取り虫のように上下に蠢動するという手もあるが、スピードは蛇の前進方法に近いこちらの方が断然速いのだ。
僕の両手はすっかり退化して、今や萎びた枯れ枝のようになってしまっている。
だから、移動にはまるで役に立たない。
その代わりに円筒形の胴は太く頑丈になり、おびただしい結節のおかげで床を這うことが可能になった。
下半身では、蛆虫にふさわしく、両足が融合して、先細りになった長い尾に変形していた。
髪はすべて抜け落ち、丸坊主になった頭部は流線形に前に飛び出している。
全身の変化とともに目の位置がその先端に寄ったため、前方がよく見えるようになっている。
床すれすれを這い進む僕の目に、ナースステーションのカウンターが見えてきた。
コンドウサンと蓮月が倒れた今、僕は独力で乙都を救わねばならないのだ。
しかも、醜く変化してしまった、蛆人間のこの躰で…。
この躰が元に戻るかどうか、わからない。
可能性があるとしたら、泰良瑞季医師だ。
深夜のICUで彼女がおこなったあの手術。
あれが僕の変身のきっかけになったことは、あの時の先生の台詞からも明らかだからである。
先生は、僕の詰まった冠動脈と尿道を生体血管とやらに置き換えることで、僕の命を救おうとした。
ところが、手術は成功したものの、その副作用で”妖蛆化”なる怪奇現象が始まってしまったらしいのだ。
ここに囚われている乙都なら、あるいは先生の行方を知っているかも知れなかった。
先生は、部長とやらに会う用事で外出しているのだという。
乙都は、確かそんなことを言っていたのではなかったか。
ならば、先生は、要件を終えて、そろそろこの病院に戻ってきているのではないかー。
周囲は賑やかで、ひどく混雑していた。
事務机や来客用ソファ、観葉植物の植木鉢などが周囲を埋め尽くし、パレードを繰り広げているのだ。
そのせいで、ナースステーションのドアは開いていた。
中から動く椅子たちが次々に出てくるからだった。
僕は椅子やら机やらの行進をやり過ごすと、それが途絶えた隙を狙って中に滑り込んだ。
事務机も椅子もロッカーもなくなったナースステーションの内部は、ひどくガランとしていて、体育館みたいに広々として見えた。
その何もないスペースに、黒いナース服に身を包んだダークナースたちが集まり、大きな輪を作っている。
その輪の中央にあるものを見て、僕は絶句しないではいられなかった。
天井から、乙都が吊り下げられているのだ。
乙都は、昼間の青い研修生用のナース服姿のままだった。
パンツルックスタイルの、露出度の少ない清楚な格好である。
その昼間の乙都が、気を失い、がっくりと首を折ったまま、両手首を拘束され、天井から吊るされているのだ。
「オト…」
思わず声に出してうめいた時だった。
「つーかまえた!」
突然背後で場違いに明るい声がして、何かが僕の躰を持ち上げた。
「思った通り、やっぱり来てくれたんだね!」
「だ、誰だ?」
筒状の首をねじってなんとか振り向くと、
「ふふっ、私、誰だかわかる?」
と、影絵のような真っ黒な顔が、ふたつの目を光らせて、じっと僕の顔をのぞきこんできた。
尺取り虫のように上下に蠢動するという手もあるが、スピードは蛇の前進方法に近いこちらの方が断然速いのだ。
僕の両手はすっかり退化して、今や萎びた枯れ枝のようになってしまっている。
だから、移動にはまるで役に立たない。
その代わりに円筒形の胴は太く頑丈になり、おびただしい結節のおかげで床を這うことが可能になった。
下半身では、蛆虫にふさわしく、両足が融合して、先細りになった長い尾に変形していた。
髪はすべて抜け落ち、丸坊主になった頭部は流線形に前に飛び出している。
全身の変化とともに目の位置がその先端に寄ったため、前方がよく見えるようになっている。
床すれすれを這い進む僕の目に、ナースステーションのカウンターが見えてきた。
コンドウサンと蓮月が倒れた今、僕は独力で乙都を救わねばならないのだ。
しかも、醜く変化してしまった、蛆人間のこの躰で…。
この躰が元に戻るかどうか、わからない。
可能性があるとしたら、泰良瑞季医師だ。
深夜のICUで彼女がおこなったあの手術。
あれが僕の変身のきっかけになったことは、あの時の先生の台詞からも明らかだからである。
先生は、僕の詰まった冠動脈と尿道を生体血管とやらに置き換えることで、僕の命を救おうとした。
ところが、手術は成功したものの、その副作用で”妖蛆化”なる怪奇現象が始まってしまったらしいのだ。
ここに囚われている乙都なら、あるいは先生の行方を知っているかも知れなかった。
先生は、部長とやらに会う用事で外出しているのだという。
乙都は、確かそんなことを言っていたのではなかったか。
ならば、先生は、要件を終えて、そろそろこの病院に戻ってきているのではないかー。
周囲は賑やかで、ひどく混雑していた。
事務机や来客用ソファ、観葉植物の植木鉢などが周囲を埋め尽くし、パレードを繰り広げているのだ。
そのせいで、ナースステーションのドアは開いていた。
中から動く椅子たちが次々に出てくるからだった。
僕は椅子やら机やらの行進をやり過ごすと、それが途絶えた隙を狙って中に滑り込んだ。
事務机も椅子もロッカーもなくなったナースステーションの内部は、ひどくガランとしていて、体育館みたいに広々として見えた。
その何もないスペースに、黒いナース服に身を包んだダークナースたちが集まり、大きな輪を作っている。
その輪の中央にあるものを見て、僕は絶句しないではいられなかった。
天井から、乙都が吊り下げられているのだ。
乙都は、昼間の青い研修生用のナース服姿のままだった。
パンツルックスタイルの、露出度の少ない清楚な格好である。
その昼間の乙都が、気を失い、がっくりと首を折ったまま、両手首を拘束され、天井から吊るされているのだ。
「オト…」
思わず声に出してうめいた時だった。
「つーかまえた!」
突然背後で場違いに明るい声がして、何かが僕の躰を持ち上げた。
「思った通り、やっぱり来てくれたんだね!」
「だ、誰だ?」
筒状の首をねじってなんとか振り向くと、
「ふふっ、私、誰だかわかる?」
と、影絵のような真っ黒な顔が、ふたつの目を光らせて、じっと僕の顔をのぞきこんできた。
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