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#19 肉欲の疼き②

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 和夫が指定してきたのは、夜の8時だった。
 面会時間が終わる時刻である。
 もちろん、救急病棟の出入り口を使えば、夜でも病院の出入りは可能なのだが、琴子にはその意図がわからなかった。
「消灯前だから、病棟をうろついてる患者はまだけっこういるし、この時間帯は医者や看護師の人数も少ないから、かあさんも安心できると思ってさ」
 病室に赴くと、琴子の問いに和夫はそう説明した。
 なるほど昼間に比べればスリルは少ないかもしれないが、その分、露出をじっくり楽しめるかも…。
 仮面をつけ、脱いだコートをハンガーにかけながら、琴子は思った。
 下着姿でのウォーキングをすっかり楽しみにしている自分が、我ながら滑稽ではあった。
 が、夫の態度に手酷く傷つけられた琴子にとって、この体験は自信回復の唯一の手段といってよかった。
 少なくともここでは琴子は女神でいられるのだ。
 和夫をはじめとして、みんながこの体を賛美してくれるのだから…。
「ルートはきのうと同じでいい。あ、ただし、リハビリルームに立ち寄るのを忘れないで」
 和夫の声を背に聞きながら、廊下に出た。
 仮面のおかげで、自分でも驚くほど平静な気分を保つことができた。
 きょうの琴子の下着は、赤い総レースのブラとショーツのセットである。
 ブラはパットが入っていないだけに、嫌でも乳首が目立つ。
 ショーツも、局部に裏地のないレースのみのTバックだから、目を凝らして見れば性器の隆起がわかるほどだ。
 ふだんなら、とても恥ずかしくて身に着けられない、セクシーでアダルトな下着である。
 が、人気のない廊下に仮面をつけて立つことで、琴子は別の自分に変身したような気分に浸っている。
 まるで潜在意識の下で抑圧されていた淫らで貪欲な原初の自我が、夜の訪れとともに外に現れたかのような…。
 

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