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#54 仮面の息子
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正直、琴子は、仮面をつけた和夫が不気味でならなかった。
仮面は通気性のある素材でできているらしく、和夫は家に帰ってもずっとそれをつけたままだった。
だからといって、仮面を取れと強要する勇気も琴子にはなかった。
仮面の下には、ケロイドで引き攣れた更に無残な顔が隠れているのだ。
今更のように、己の過失の重さに打ちひしがれそうになる。
私はこの子の人生を台無しにしてしまった。
いくら償っても、償い切れるものではないだろう・・・。
そう思うと、これから始まる家族だけの生活が怖かった。
いつも不機嫌な正一は、どうやら浮気をしているらしい。
息子の和夫は今は上機嫌だが、心が壊れてしまったのか、琴子を性欲の対象としか見ていない。
そんなふたりにはさまれて、果たしてやっていけるのだろうか…。
一般病棟で知り合った安田や鶴松老人たちが懐かしかった。
高木少年でも梶田でも、あの篠崎医師でもいい。
誰かひとりでも、そばにいてくれたら・・・。
が、それは叶わぬ夢だった。
所詮、あれは行きずりのパーティみたいなものだったのだ。
私たちの人生は一瞬ある一点で交わり、また別々に離れてしまった。
こうなったら、私ひとりでなんとか修羅場を切り抜けるしかないー。
和夫は帰宅すると同時に自室に引きこもり、久しぶりのゲームに興じているようだった。
いきなり無理難題を吹っ掛けられるかと思い緊張していただけに、そんな和夫の様子に琴子はほっと胸を撫で下ろした。
が、修羅場の第一幕は、その夜、やってきた。
酒の匂いをぷんぷんさせて夜遅く帰ってきた正一が、折悪しく部屋から出てきた和夫を見て、怒鳴り始めたのである。
「なんだ、その仮面は? 気味が悪いにもほどがある!」
「包帯よりマシだろ。それともゾンビみたいな素顔を晒せって言うのか」
一度も見舞いにすら行かなかったくせに、正一の怒りはあまりにも理不尽なものだった。
が、和夫も和夫で、わざと父親を嘲るようにニタニタ笑っている。
「その仮面をかぶったまま、学校へ行くつもりか?」
「高校なんてやめてやるよ。今は在宅のまま単位が取れるネット高校とかあるしさ」
「俺は息子を引きこもりに育てたつもりはない」
「俺だって、あんたの世話になった覚えなんてないよ」
一触即発の危機を、琴子は身体を張って止めるしかなかった。
「やめて。あなたも和夫を悪く言わないで。やっと退院できたところなのに」
「もういい、飲み直してくる」
縋りつく琴子を振り払って、正一が立ち上がった。
「いいか、和夫。その化け物じみた顔、今後一切俺に見せるな」
荒々しくドアを叩きつけて、外に出て行ってしまう。
「ごめんね、和夫」
床にうずくまり、琴子はしくしく泣き出した。
「みんな、みんな、かあさんが悪いんだよね・・・」
仮面は通気性のある素材でできているらしく、和夫は家に帰ってもずっとそれをつけたままだった。
だからといって、仮面を取れと強要する勇気も琴子にはなかった。
仮面の下には、ケロイドで引き攣れた更に無残な顔が隠れているのだ。
今更のように、己の過失の重さに打ちひしがれそうになる。
私はこの子の人生を台無しにしてしまった。
いくら償っても、償い切れるものではないだろう・・・。
そう思うと、これから始まる家族だけの生活が怖かった。
いつも不機嫌な正一は、どうやら浮気をしているらしい。
息子の和夫は今は上機嫌だが、心が壊れてしまったのか、琴子を性欲の対象としか見ていない。
そんなふたりにはさまれて、果たしてやっていけるのだろうか…。
一般病棟で知り合った安田や鶴松老人たちが懐かしかった。
高木少年でも梶田でも、あの篠崎医師でもいい。
誰かひとりでも、そばにいてくれたら・・・。
が、それは叶わぬ夢だった。
所詮、あれは行きずりのパーティみたいなものだったのだ。
私たちの人生は一瞬ある一点で交わり、また別々に離れてしまった。
こうなったら、私ひとりでなんとか修羅場を切り抜けるしかないー。
和夫は帰宅すると同時に自室に引きこもり、久しぶりのゲームに興じているようだった。
いきなり無理難題を吹っ掛けられるかと思い緊張していただけに、そんな和夫の様子に琴子はほっと胸を撫で下ろした。
が、修羅場の第一幕は、その夜、やってきた。
酒の匂いをぷんぷんさせて夜遅く帰ってきた正一が、折悪しく部屋から出てきた和夫を見て、怒鳴り始めたのである。
「なんだ、その仮面は? 気味が悪いにもほどがある!」
「包帯よりマシだろ。それともゾンビみたいな素顔を晒せって言うのか」
一度も見舞いにすら行かなかったくせに、正一の怒りはあまりにも理不尽なものだった。
が、和夫も和夫で、わざと父親を嘲るようにニタニタ笑っている。
「その仮面をかぶったまま、学校へ行くつもりか?」
「高校なんてやめてやるよ。今は在宅のまま単位が取れるネット高校とかあるしさ」
「俺は息子を引きこもりに育てたつもりはない」
「俺だって、あんたの世話になった覚えなんてないよ」
一触即発の危機を、琴子は身体を張って止めるしかなかった。
「やめて。あなたも和夫を悪く言わないで。やっと退院できたところなのに」
「もういい、飲み直してくる」
縋りつく琴子を振り払って、正一が立ち上がった。
「いいか、和夫。その化け物じみた顔、今後一切俺に見せるな」
荒々しくドアを叩きつけて、外に出て行ってしまう。
「ごめんね、和夫」
床にうずくまり、琴子はしくしく泣き出した。
「みんな、みんな、かあさんが悪いんだよね・・・」
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