臓物少女

戸影絵麻

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#7 第一の刺客③

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 怪人に粉砕されてズタボロになった引き戸を、後ろ手に少女が閉めた。
 真ん中に縦に亀裂が入った板戸が曲がりなりにも入口を塞いだので、少女と怪人の姿は見えなくなった。
「あの子の名は、天津紗英・・・。私が人肉厨房のラボから連れ出した最新型バイオノイド零式だ」
 瀕死の佐平がうずくまったまま、明を見上げた。
「アキラ、彼女を頼む。あの子こそが、人類の最後の希望・・・」
 そこまで言ったところで、げぼっと佐平が血反吐を吐いた。
 皺に埋もれた小さな眼の中で、命の残り火が揺れている。
「どうせ、私は余命わずかだった。あの化け物にやられずとも、近々死ぬ運命だったのだよ。だが、私には頼れる者といえば、アキラ、お前しかいない。どうか、くれぐれも、紗英を守って、人肉厨房の手から人類を救ってくれ」
 ばた。
 うつ伏せに這いつくばる佐平。
 背中から腹を貫通した傷口から、じわりと鮮血の海が広がった。
「おい、そんなとこで死ぬなよな! だいたい、なんなんだ、その、バイオノイドって?」
 近寄って顔をのぞき込むと、父は目を見開いたまま、完全にこと切れていた。
「マジかよ・・・」
 どうする?
 悲しみは湧いてこない。
 この男とは、もう10年も会っていないのだから、ある意味それも当然だ。
 そんなことより、今ヤバいのはあの化け物だろう。
 ”あまつさえ”とかいうふざけた名前のあの娘。
 私に任せて、とか勇ましい啖呵を切って出てったけど・・・。
 バイオノイドか何か知らないが、あんな小娘があの指の化け物にかなうわけがない。
 亡き父の遺志を継ぐわけではないが、ここは彼女に加勢して、なんとかあの怪人をやっつけないと・・・。
 キッチンでは煮込み過ぎて水が蒸発し、圧力鍋の底でザリガニがフライになっていた。
 震える手に包丁とフライパンを持ち、くるりと踵を返して玄関に向かう。
「い、今行く・・・」
 板戸の向こうにそう声をかけた、次の瞬間だった。
 打てば響くように返事が返ってきた。
「来ないで。絶対に戸を開けないで! 勝負はもう、ついてるから」
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