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翌日ー。
お昼休みが来ると、あたしは急いで隣のクラスにでかけた。
賑やかな教室内を見渡すと、はたして、風花はいた。
窓際の席で、文庫本を読みながら、ひとりでお弁当を食べている。
いつもながら、堂々たるボッチぶりだ。
周りのクラスメイトたちも、彼女はそういうものだとわかっているからか、ことさら話しかけようともしない。
が、別にいじめに遭っているとか無視されているわけではなく、近くを通る子たちと時折挨拶を交わしている。
小滝風花は、同じ中学からこの城ケ崎東高校に来た、唯一の元同級生である。
「あのさ、風花、見た?」
人混みをかきわけて近くまで行くと、机の前に立って単刀直入にあたしは訊いた。
ん?
もの問いたげに、文庫本から風花が顔を上げる。
丸顔に、ピンクのフレームのメガネが可愛らしい。
こう見えて、風花は成績優秀だ。
学年順位はいつも一桁だし、読んでいる本も、哲学書だったりして、難しい。
成績は低空飛行、活字といってもラノベしか読まないあたしとは大違いだ。
「見たって、何を?」
「スポーツニュース」
「もしやあれか」
本を閉じ、背筋を伸ばす風花。
普段なら、美術部のあたしと文学部の風花の間で、スポーツの話題が出ることはない。
その風花が反応を示したということは、彼女も知っているのだ。あのニュースを。
「真帆ちゃんのこと。ゆうべ、ニュースでやってたでしょ」
「水泳の日本選手権だっけ」
「オリンピック出場枠がどうとか、とも」
「めでたい話、と言いたいところだけど」
「あり得ない」
「私もそう思った」
難しい顔つきで、風花が腕を組んだ。
「真帆が交通事故に遭ったのは、ちょうど一年前の5月。スイミングスクールの帰り、自転車で横断歩道を渡っている時に、左折してきた大型トラックに巻き込まれ、脳に重傷を負う。そのまま病院に運ばれるも、植物人間状態で、ずっと面会禁止」
「それに、あたし、聞いたんだ。真帆ちゃんが入院してから、10日くらいしてからかな。お見舞いに行ったら、ICUの前で、お医者さんが真帆ちゃんの両親と立ち話してるの。真帆ちゃん、大脳の怪我がひどくて、おそらく…」
話しているだけで、目に涙があふれてきた。
あの頃の悲しみが堰を切ったみたいに蘇る。
事故の一報を聞いた時のショック。
駆けつけた病院で、泣きじゃくる真帆ちゃんのママの姿を見た時。
そして、残酷すぎる主治医のあのひと言…。
「今朝の新聞にも出てた。奇跡の復活とかなんとか」
風花が遠い目をする。
「本来なら、喜んでしかるべきなんだろうけど、なんかしっくりこない。そうなんでしょ?」
「うん」
「真帆、退院したのかな」
「だろうね。もう、おうちに戻ったのかも」
「会いに行きたい。でも、独りでは怖い、か」
風花はなんでもお見通しだ。
「あは…そういうこと。お願いできるかな?」
泣き笑いの顔で、あたしは肩をすくめてみせた。
お昼休みが来ると、あたしは急いで隣のクラスにでかけた。
賑やかな教室内を見渡すと、はたして、風花はいた。
窓際の席で、文庫本を読みながら、ひとりでお弁当を食べている。
いつもながら、堂々たるボッチぶりだ。
周りのクラスメイトたちも、彼女はそういうものだとわかっているからか、ことさら話しかけようともしない。
が、別にいじめに遭っているとか無視されているわけではなく、近くを通る子たちと時折挨拶を交わしている。
小滝風花は、同じ中学からこの城ケ崎東高校に来た、唯一の元同級生である。
「あのさ、風花、見た?」
人混みをかきわけて近くまで行くと、机の前に立って単刀直入にあたしは訊いた。
ん?
もの問いたげに、文庫本から風花が顔を上げる。
丸顔に、ピンクのフレームのメガネが可愛らしい。
こう見えて、風花は成績優秀だ。
学年順位はいつも一桁だし、読んでいる本も、哲学書だったりして、難しい。
成績は低空飛行、活字といってもラノベしか読まないあたしとは大違いだ。
「見たって、何を?」
「スポーツニュース」
「もしやあれか」
本を閉じ、背筋を伸ばす風花。
普段なら、美術部のあたしと文学部の風花の間で、スポーツの話題が出ることはない。
その風花が反応を示したということは、彼女も知っているのだ。あのニュースを。
「真帆ちゃんのこと。ゆうべ、ニュースでやってたでしょ」
「水泳の日本選手権だっけ」
「オリンピック出場枠がどうとか、とも」
「めでたい話、と言いたいところだけど」
「あり得ない」
「私もそう思った」
難しい顔つきで、風花が腕を組んだ。
「真帆が交通事故に遭ったのは、ちょうど一年前の5月。スイミングスクールの帰り、自転車で横断歩道を渡っている時に、左折してきた大型トラックに巻き込まれ、脳に重傷を負う。そのまま病院に運ばれるも、植物人間状態で、ずっと面会禁止」
「それに、あたし、聞いたんだ。真帆ちゃんが入院してから、10日くらいしてからかな。お見舞いに行ったら、ICUの前で、お医者さんが真帆ちゃんの両親と立ち話してるの。真帆ちゃん、大脳の怪我がひどくて、おそらく…」
話しているだけで、目に涙があふれてきた。
あの頃の悲しみが堰を切ったみたいに蘇る。
事故の一報を聞いた時のショック。
駆けつけた病院で、泣きじゃくる真帆ちゃんのママの姿を見た時。
そして、残酷すぎる主治医のあのひと言…。
「今朝の新聞にも出てた。奇跡の復活とかなんとか」
風花が遠い目をする。
「本来なら、喜んでしかるべきなんだろうけど、なんかしっくりこない。そうなんでしょ?」
「うん」
「真帆、退院したのかな」
「だろうね。もう、おうちに戻ったのかも」
「会いに行きたい。でも、独りでは怖い、か」
風花はなんでもお見通しだ。
「あは…そういうこと。お願いできるかな?」
泣き笑いの顔で、あたしは肩をすくめてみせた。
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