君よ、涙の海を渡れ

戸影絵麻

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#10

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 パンケーキを二枚重ねたような水族館のそのフォルムは、人気SF映画に出てくる宇宙船そっくりだった。

 パンケーキの後ろには円筒形の胴体が伸び、空に向かって斜めに突き出た二本の支柱で尾翼を支えている。

 平日の夕刻だけあって、来客はまばらだった。

 ただ、それはどうやら時間帯のせいだけではなさそうだ。

 玄関ホールの脇に、『イルカショー中止のお知らせ』なる立て看板が出ていたのである。

「どうしたんだろ。おーちゃんに何かあったのかな」

 あたしがイルカのおーちゃんを最後に見たのは、もう一年以上前。

 元気だった真帆とこの水族館を訪れた時のことだ。

 ガラス張りの巨大水槽の中を悠然と泳ぐバンドウイルカのおーちゃんを眺めながら、真帆ちゃんは心の底から願っているみたいに、

 -うち、イルカになりたいー

 そうつぶやいたのだ。

「なに? コウモリがうるさくって、全然聞えないよ」

 風花が苛ついた声を出し、背後を振り向いた。

 つられて今来たほうを振り返ると、無数の黒い影がキイキイ泣きわめきながら空を飛び交っていた。

 コウモリ?

 風花に言われてやっとわかった。

 考えてみればそうだ。

 こんな時間帯に鳥が空を飛ぶはずがない。

 あの不安定な独特の飛び方―。

 空を埋め尽くそうとする黒い影の正体は、おびただしい数のコウモリだったのだ。
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