君よ、涙の海を渡れ

戸影絵麻

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#23

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 医者みたいなその男性がそう声を張り上げると、更に白衣の人たちが現れて担架で真帆ちゃんを運び去った。

「ムチャ手回しがいいじゃん」

 風花がつぶやいた。

「まるでこうなることを、初めから予想してたみたいだね」

 視界の隅を黒い影が横切ったのは、その時だ。
 
 あれはー。

 あのフードの青年だった。

 真帆ちゃんが消えた奥の通路に、混乱に紛れてするりと滑り込む。

「あたしたちも行ってみよう」

 あたしは風花の手を引いて立ち上がった。

「行ってみるって、どこへ?」

「裏口。真帆ちゃんがどこに運ばれるか、何かヒントがつかめるかもしれない」

 外に出ると、雨はやんでいた。

 なのにあたりが薄暗いのは、コウモリたちの大群が空を埋め尽くしているせいだ。

「げ、やば。どうなってんの?」

 空を見上げて風花が絶句する。

「そんなの、あたしにもわかんないよ!」

 建物の角を回った、ちょうどその時だった。

 あたしたちの目の前に、一台の救急車が、サイレンも鳴らさず、ぬうっと鼻づらを突き出した。

「三ツ星中央病院?」

 横っ腹の文字を読んで、風花が口に出す。

 んー、三ツ星って?

 えっと。

 えーっと。

 どこで聞いたんだっけ?

 通り過ぎる救急車を見送りながら、あたしは妙な違和感を覚えないではいられなかった。 
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