君よ、涙の海を渡れ

戸影絵麻

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#25

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 決行は次の日曜日にした。

 日曜日なら、病院も手薄で、中を探索しやすいと思ったからだ。

 風花とは病院の最寄りの駅で待ち合わせた。

 三ツ星中央病院へは、地下鉄の駅の構内から直接行けるようになっているのだ。

 待ち合わせ場所に行くと、風花は先に来ていて、柱にもたれ、本を読んでいた。

「ごめん、待った?」

 声をかけると、例のド派手なピンク色の眼鏡を指で押し上げて、あたしを見た。

「いや、たいして。私もさっき来たとこだよ」

「なに読んでるの?」

 風花の手元に視線をやり、あたしはたずねた。

 風花が手にしているのは、地下鉄の中で読むような文庫本ではなく、ハードカバーの大きな本だ。

 背表紙にラベルが貼ってあるところを見ると、図書館で借りたのだろう。

「ちょっと気になることがあってさ」

『哺乳類のエコーロケーション』

 見せてくれた表紙には、そんなタイトルが印刷されている。

「エコーロケーションって?」

「ほら、水族館の入口で、会ったでしょ。あのへんな青年」

「ああ、あれ?」

 レンタル倉庫の前で空を見上げていたあの人だ。

 まるでコンテナ倉庫に住んでるみたいな感じだった。

「彼の言葉が気になって」

「女王さまがなんとかってやつ?」

「そうそれ」

 コウモリたちは、女王さまを探してる。

 フードの青年は、そんなようなことをあたしたちに告げたのだ。

「私さ、思ったんだけど」

 風花があたしを見上げて、声を低めた。

「彼が言ってた女王様って、一ノ瀬真帆のことじゃないのかな」

 
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