君よ、涙の海を渡れ

戸影絵麻

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#27

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「そ、そんなはず、ありません」

 あたしは食い下がった。

「あたしたち、真帆ちゃんがこの病院の救急車で運ばれるところ、ちゃんと見たんです」

「と言われましても…」

 初老の警備員の顔に困惑の表情が浮かんだ。

「入院患者さんのリストに、一ノ瀬真帆さんですか、その名前がないんですよ」

「偽名で入院してるのかな」

 あたしの隣で風花がつぶやいた。

「オリンピック候補のアスリートだから、世間の目から逃れるためにさ」

「う~ん、そうかも」

 ここはいったん引き下がるしかない。

 自動ドアをくぐって外に出た。

 その時になって、あたしは気づいた。

 病院の駐車場は丈高い並木に囲まれていて、外の道路と隔てられているのだが、その並木に黒いものがびっしりぶら下がっている。

「ここにもコウモリが…」

「やっぱり」

 風花がバッグの上から例の本を撫でた。

「真帆が彼らの女王さまなんだよ」

 ふいに声が聞こえたのは、その時だった。

「あの子に会いたいのか」

 振り向くと、今しがたあたしたちが出て来たドアの横に、あのフードの青年が佇んでいた。

「あ、は、はい…」

 つられてうなずくと、

「なら、こっちだ。ただし、後悔してもしらないぞ」

 フードの奥で赤い双眸を不気味に光らせて、驚き戸惑うあたしたちに、謎の青年がそう告げた。
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