君よ、涙の海を渡れ

戸影絵麻

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#28

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 病院の秘密棟の出入口はすべて監視室の管理下にある電子ロックだが、そんなものは俺にとって造作もない。

 要は内部に味方をつくればそれで済むからだ。

 幸い俺は、種族保存の必要性から、成熟した人間の雌に取り入ることに長けている。

 意識しなくても向こうから近づいてくるのだから尚更だ。

 こんなことでその種族的特性を発揮するのは気が引けたが、好奇心には勝てなかった。

 しもべたちの関心を引きつけてやまないあの娘の正体は、いったい何なのだろう。

 実物を実際にこの目で見たのは、五輪テスト大会が初めてだ。

 だが、ひと目見て、違和感に気づいた。

 もし俺の読み通りならば、人間たちはあり得ないほどの愚行に手を染めたことになる―。

 病院関係者の女にターゲットを絞った。

 数からすれば看護師が手頃だったが、病院近くの高級バーで張っていると、幸運にも女医が引っかかってきた。

 蚊は食事の際、血液が固まらない成分を分泌し、吸血をやりやすくする。

 ただその場合、副作用として痒みが残り、結果的に人間に嫌われることになる。

 俺の場合はその逆だ。

 俺の意志にかかわらずー。

 そう。

 犬歯から注入するのは催淫剤だから、噛まれた女は一時的に奴隷状態に陥ってしまうというわけだ。

 毎日のように俺と交渉を持たないと、禁断症状が出てしまうのである。

 そんなわけで、決行の準備は整った。

 後は、あの人間の少女たちがやってくるのを待つだけだった。

 
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