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#3 能力

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 コンビニの店員にねちねちと文句を言われ、解放されたのは30分以上経ってからのことだった。
 ほとほと疲れ果ててしまい、気分もすぐれなかったが、それでも芙由子は心の底から安堵していた。
 トラブルをを未然に防ぐことができたのだ。
 そのことだけは、間違いない。
 他人の”悪意”を見る。
 それを、能力と呼ぶべきかどうか、芙由子にもわからない。
 物心つく頃には、すでに身に備わっていた。
 DVの権化のような父のもとで育った数年間が、幼い芙由子にその”力”を授けたのかもしれない。
 その後両親が離婚し、祖母に預けられることになっても、その”力”は消えなかった。
 人を傷つけるほどの悪意。
 それが芙由子には、見える。
 ちょうどさっき、コンビニで遭遇した男の場合のように。
 見たくなくても、見えてしまうのだ。
 そんな力、ちっともありがたいとは思わない。
 むしろ、芙由子にとっては、心労の種である。
 だが、あの日、その考えは大きく軌道修正せざるを得なくなった。
 思い出すと、今でも胸が張り裂けるように痛む。
 私に、もっと、勇気があったら。
 苦渋の念とともに、そう思う。
 ”力”は、自分の身を守るためだけに存在するのではない。
 使い方によっては、人の命をも、救うことができるのだ。
 ついさっき、あのコンビニで、店員の命を救ったように。
 あの時、それに気づいてさえいれば、あんなに多くの人が、死なずに済んだかもしれないのに…。

 コンビニの駐車場を横切り、ガランとした国道を渡った。
 黒々とした畑の向こうに、ささやかな住宅地が見える。
 芙由子の家は、その一角にある。


 
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