今よりずっと、その先で。

津崎 トコ

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4. 走り出す

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話が終わったのを見兼ねたかのように、永田 美波が茂みの向こうから顔を出した。




「ねぇ、鬼ごっこなんだから、ちゃんと逃げようよ。」



「ははっ、そうだね、逃げるとするか」
と、朝井が立ち上がった瞬間、




彼女は僕らを叩くように触った。


「「……え?」」


声を揃えて驚く僕らに、彼女はきゃははははと声をあげた。



「ねぇ、鬼誰か聞いてなかったの? 私だよ?」


彼女の笑いの沸点に届いたらしい。ひたすら彼女は笑い続けている。



「あーおかしいの。 ていうか朝井くん、ずるい。私だって新垣くんと友達になりたいんだよ」


頬を膨らませてもごもご言う彼女に、朝井は言う。


「じゃあ僕からお願いしてあげようか。 新垣、友達になってやってくれ」


「それじゃ意味無いの! 私は友達として、新垣くんを口説きたいんだよ!」


く、口説く!?



「それはそうと、鬼ごっこなんだから逃げてよね! あ、私が鬼っていうのは嘘だから!じゃあ私逃げるね!」



何か思い出したような顔をして彼女は早々と走っていった。



「嘘とか…何考えてんだろね永田さん」


朝井は軽く笑い飛ばして、先に走っていってしまった。










朝井と別れて、僕も走り出した。


鬼が誰かはわからない(クラスメイトの顔と名前を知らないからだ)。






と、考えている間にクラスメイトに僕は捕まったらしい。



「新垣、もっと逃げないと」

と、僕を捕まえた彼は言った。













鬼になった僕は、僕を見て逃げるクラスメイトらしき彼らを必死に追いかけた。



鬼に僕が加わったことをもうみんな知ってるみたいだ。






すぐそこにいた女の子を追いかけてみた。



「新垣くん、早いね、めっちゃしんどかったぁ」

と、僕が捕まえた彼女は息を切らして笑った。














みんなみんな、ちゃんと僕のことを知ってくれてたんだ。



僕は全然みんなと関わろうともせず、知ろうともしなかった。




もっともっと、この人たちと関わってみたい。





素直にその気持ちが、すとんと胸に落ちた。

















永田 美波がすぐそばにいた。


「げっ、もしかして新垣くん鬼?」

と、顔を青くしているので追いかけた。



彼女は速かった。

全然距離が縮まない。

でも、最終的には僕が勝った。



「ちょ、新垣くん、速く、ない? 」

ぜいぜいと呼吸する彼女。


「僕だって、男だよ」

思ったことを言っただけ。なのだが。



「きゃはははは! うん、そうだねぇ、きゃはは!」



と、また彼女の笑いが沸点に達した様子だ。



「でも、僕は鬼じゃないよ」


「え?」


「さっきの仕返し」


彼女は大きな目を丸くして、微笑んで言った。


「ねぇ、新垣くん」


「ん?」


「朝井くんとだけじゃなくて、私とも友達になって」


彼女はあの眩しすぎる笑顔で言った。


目が自然と細まる。




「うん、なろう。友達。友達になろう。」



僕は言葉の一つ一つを大切に絞り出した。














こうして、永田 美波との毎日が始まった。







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