上 下
13 / 35

13.予兆

しおりを挟む



同年9月29日



文化祭一日目だった。


お店は大盛況して、猫の手も借りたいくらい忙しかった。













当日は朝9時から文化祭がスタートするので、クラス内では8時に集合した。

1時間で、最後の確認をした。


塗装が外れていないか、ルールは全員把握済みか、シフトは滞りなく回せるか、万一トラブルがあった時も対処できるか。



万一の為に、クラス全員入っているグループチャットの通知をオンにして、いつ誰とでも連絡がつけるようにする。



「それじゃ、皆何かあったら連絡してきて下さい。 文化祭1日目、楽しもーう!じゃあかいさーんっ!」


と、永田 美波が威勢よく声をあげて、うぉーと言うクラスメイト達の声が響いた。


文化祭初日が始まった。




僕は今日はシフトは入っていない。


だからもしもの時の緊急対応役を任された(学級代表2人に)。



最近はクラスメイトとよく話すようになった。



2人が僕を緊急対応役に推薦すると、皆は待ってましたと言うかのようにすぐに快諾した。


僕は驚いた。


いつの間に彼らに信用されるようになったのだろう。




緊急対応役は僕ともう一人、佐々木 唯ささき ゆいという名の女子の2人だ。


佐々木さんも彼女の推薦だ。


数回話した印象は、THE おんなのこ。

雰囲気がふわふわしてて、おっとりした大人しい女の子だ。


男子にも人気があるらしく、僕は多数の男子から羨まれた。




初日は朝井とまわる約束をした。



「あれから、どう?」


「何にもないよ」

何もなくはないのだが、朝井に説明すると絶対に面倒くさい。


「つまんないなー、告白しないの?」


「…する」


「いつ?」


「………明日の後夜祭」



「…思ったより早いな。 ちゃんと言葉決めた?」


「…うん」


「じゃあ大丈夫だよ。新垣なら大丈夫」


朝井は僕の肩をぽんぽんと叩いた。

朝井はいつだって僕の味方で、僕の背中を押してくれる。



「いつもありがとう。 僕は朝井のお陰でいろんな事ができた」

「急にどうしたんだよ」

彼は軽く笑った。


「なんとなくだよ。 朝井は彼女いないの?」


「なんだよそれー。 僕はいるよ」


僕は目を見開いた。


「え、いるの? なんで教えてくれないんだよ」


「言う機会なかったからだろ。この学校の人じゃないし、知ってもしょうがないかなと思って」


「そうなんだ…」


朝井は確かに顔は男前だし、背が高く、優しい。


クラスの女子数名からモテていることも、実は僕は知っている。



「話変わるけど、新垣って笑わないよな」

「僕?」

「でも嬉しいんだなって感じは伝わってくるし、他の表情は結構豊かだけど、笑った顔だけ、見たことない」


そう言われれば、最後に人前で顔の口角をあげたのはいつだろう。


僕だってお笑い番組を見れば笑うし、面白いことは笑う。


でも確かに嬉しいことは笑わない。


心の中では喜んでいるのだが。




「……僕にもわからないよ。 」




朝井がそうだよな、と返してこの話は終わり、最初の目的地に到着した。













僕と朝井は色んなところに偵察をついでに行った。


1年生の飲食店、2年生の出店、3年生の舞台。


本当に様々なジャンルがあって、面白かった。



毎年、高校の文化祭とは言えないほどの高クオリティ。




「店の回し方が上手いな。 うちもこうすりゃよかったんだな」


と、朝井は律儀にメモを取る。


今更メモしてどこで使うんだよ…と思ったが、彼のことだ、来年度に活かして下さいとか言って生徒会に引き渡すんだろう。




僕らは次の3年生の舞台へ向かう所だった。




僕の携帯の着信音が鳴った。



着信は、佐々木 唯。


しおりを挟む

処理中です...