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sp1.光の街
しおりを挟むいつもは目覚ましが無くても起きられる僕が、目覚ましをかけたのにも関わらず、寝坊した。
楽しみで寝られなかった訳じゃない。
遠足の前日はぐっすり眠るタイプだからだ。
じゃあ、なんで寝坊したんだろう?とまで考えて、それが僕なりの楽しみな証拠なんだなと思い至って、急いで準備を始めた。
楽しみだからって、寝坊するのはまずい。
今日は、初めてのデートなんだから。
里紗と付き合って、1ヵ月。
お互い忙しいのと、試験が重なったのもあって、ちゃんとした1日のデートは初めてだった。
「おはよ、蒼くん。早いね」
ダッシュしたおかげか、里紗より早く着けた。
「…実は今日寝坊しまして…」
「寝坊?蒼くんが?」
「いつもは目覚ましかけなくても目が覚めるのに、今日はかけてても目が覚めなくて…」
「楽しみで眠れなかったとか?」
「ぐっすり寝ても、これだったよ。僕が楽しみにしてる時ってこうなんだって初めて知ったよ…」
素直に僕が話すと、里紗は笑った。
「え、なになに、今の何が面白かった?」
「ううん、あっさり、楽しみにしてたって言われたから嬉しかった」
当たり前じゃないか、と心の中で呟いて、里紗の笑顔を見る。
まだ一緒にいて1ヵ月しか経ってないけど、彼女のそばはすごく心地いい。
いつか彼女と喧嘩するまで仲良くなりたいと強く願って、彼女の頭を撫でた。
今日の目的は、「ぶらぶらすること」だった。
それが里紗のしたいことだった。
「ゆっくり、見たいものを見ながら蒼くんとお話したかったから」
彼女はそう言った。
僕らはいろんな話をした。
話が尽きなかった。
途中途中で休憩に入ってお茶をしたり、お店に入ったりした。
時間はあっという間だった。
「ふぁー楽しかったねぇ」
里紗が大きく伸びをして嬉しそうに笑った。
「うん、すごく楽しかった」
僕も笑顔で返した。
すると彼女は僕の顔を覗き込んで、
「…そんな楽しそうな蒼くん、初めて見た。その笑顔、私が貰ったんだ」
と、少し優越感を含んだ顔になった。
「…僕ってそんなに笑わない?」
高校の時から言われてて、ずっと気になってたことを吐き出す。
「笑うよ。笑うけど、いつもの5倍は楽しそうに笑ったから」
「なんだ、里紗のおかげか」
何も考えずに口を滑らす。
「…照れるよ」
里紗の頬が赤くなった。
僕はまた嬉しくなって笑った。
「…どこかの国の人の名言にさ」
里紗は脈絡もなくそう言って、
「『笑顔はここに互いを思いやり分かち合える人がいることを知らせる光です』って言葉があるの」
彼女は僕に向き直る。
「私は、君の《互いを思いやり分かち合える人》になれてる、ってことでいいのかな?」
僕が今まで人前で笑えなかった理由。
ここまで心を許し合える相手がいなかったからか。
でも今僕は、そんな相手を捕まえたのか。
赤くて大きい夕日が、僕を柔らかに照らした。
「…それがいい」
僕はそう言って彼女の手を握って、帰路についた。
Fin.
出典:kinarino.jp
「笑顔からすべてがはじまる。幸運を引き寄せる“笑顔にまつわる英語の名言・格言集”」より
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