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sp3.ツインズ
しおりを挟む「5年記念、おめでとー」
俺が玄関の扉を開けるやいなや、 花笑がやや棒読みでクラッカーを鳴らした。
「……うん、おめでとう」
俺は呆然としたままケーキを掲げる。
「わ、またケーキ買ってきてくれたの」
「いや記念日だし」
しかも記念日にはケーキを、って言ったのそっちだし。
忘れたら怒られるし。
とは、言えず、喜んでお皿を用意する彼女を無言で見つめる。
俺、誠の彼女、花笑と付き合って今日で5年。
大きな喧嘩も、数ヵ月の遠距離恋愛(彼女の留学)も乗り越えて、なんだかんだここまで来た。
でも何か、安定しすぎて刺激がない。
こういう時に男は浮気をするんだろうなと思いつつ、俺には生憎そんなことをやってのける自信が足りなさすぎる。
花笑の好きなチーズケーキと、俺の好きなガトーショコラを2人で頬張りながらテレビを見る。
「紗玖良、結婚したらしいよ。石原くんと」
「えーそうなんだ。石原ずっと笹村のこと好きって言ってたもんな。そりゃおめでたい」
「披露宴行く? 6月7日」
「仕事次第かな。花笑は?」
「私も仕事次第。紗玖良に連絡してそれでいいか聞いとくよ」
「ありがとう」
「あ、あとさ今日泊まってって」
「りょーかい、明日の仕事大丈夫?」
「明日は大丈夫。誠の着替え、多分そこのタンス入ってるし使って。誠明日休みだったよね?」
食べ終わったお皿を洗いながら彼女はタンスを指差す。
「うん休み。家の掃除、しとこーか?」
「助かる。明日からしばらく泊まりになるかもなんだよね。埃溜まっちゃったら面倒だから有難い」
俺も彼女も仕事がバリバリ忙しい。
だから2人で出かけるのも月に3回くらいだし、それが全部夜ご飯を食べるだけってことも普通にある。
でも、さっきある言葉を聞いて思った。
結婚したら、少しは2人の時間が長くなるだろうか。
俺も花笑ももう29歳だ。そろそろ頃合なのかもしれないが、いまいち一歩踏み出すきっかけが掴めない。
結婚かぁ、なんだかなぁ。
花笑の家のお風呂を借りて、リビングに出た。
「お先にお風呂頂きましたー」
「はーいご飯できてるよ」
そう笑う花笑の向かい側に座った。
その瞬間、ビリっときた。
今日の食卓には豪勢な食事が並んでいて、メインは俺の大好物のハンバーグに肉じゃが、サラダにはドレッシングじゃなくてオーロラソースがかかっているし、付け合わせはよくあるフライドポテトじゃなくてジャーマンポテト。
食の変わった俺の好みを完璧に揃えた食事だった。
「花笑これ…」
すると花笑は笑ってこう言った。
「へへ、5年記念日だから頑張っちゃった。全部誠の好きなもの! いつも部屋の掃除とか頼んじゃってるし、忙しいのに絶対月に3回は時間作ってくれるし、すごく感謝してるの。いつもありがとう誠。これからもよろしくね」
結婚かぁ、いいなそれ。
俺に必要なのは、美味い食事でも可愛い彼女でも寂しさを埋めてくれる相手でもない。
ただ君がそこにいることが、必要なんだ。
絡まってた糸が完璧にほどけた。
「花笑、俺と結婚してください」
Fin.
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