【死神と黒猫】~触れたくても触れられない、触れたら死んでしまうから。孤独な死神と不吉だと忌み嫌わる黒猫のちょっと切ないお話~【完結】

みけとが夜々

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触れられない死神と触れられたい黒猫

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 僕の手には不思議な力がある。

 僕は友達が欲しかった。
 世界中を旅しても、僕はいつも独りだった。

 小鳥がいたから優しく撫でてみた。
 その小鳥は息絶えてしまった。

 象の長い鼻を撫でた。
 その象も息絶えてしまった。

 ライオンの立派なたてがみを撫でた。
 そのライオンも息絶えてしまった。

 僕の顔は骸骨で、真っ黒なマントを羽織っている。
 みんなを怖がらせないよう脱ぎたいのだけれど、それは叶わなかった。
 これが僕の姿だった。

 僕が触れるものは全て死んでしまう。
 草木は枯れ、生き物は天に召される。

 僕はたくさんの動物たちを見て、家族や仲間、友情や絆に憧れた。
 だけど、僕は僕が怖かった。

 僕は森を出て街に行ってみた。
 黒猫が人間たちに石を投げられていた。
 僕はそのうちの一人に触れた。
 やはり息絶えてしまった。

 彼の仲間たちは驚き、黒猫を『死神だ、不吉な猫だ』と言い殴ったり蹴ったりした。

 僕は見ていられなくなって、黒猫を虐める全ての人間に触れた。
 黒猫は不思議そうな目をして僕を見ていた。
 どうやら、この黒猫だけは僕が見えるようだった。

 僕は黒猫に触れたかった。
 だけど触れられなかった。
 僕に初めて気付いてくれた黒猫を失うのが怖かった。

 僕は、僕の手が嫌いだ。
 黒猫が走り去っていくのを、ただついて回った。
 黒猫は、まるで僕のようだった。
 孤独でいつも寂しそうだった。

 夜になり、街が静まり返った頃。
 黒猫は暗い路地へと消えていった。
 僕は無我夢中で追いかけた。
 黒猫は人気のない場所で眠っていた。

 僕は黒猫のすぐそばまで近寄った。
 寝顔を撫でたかったけど、やはり触れられなかった。
 僕は黒猫の真似をして、丸くなって隣で眠った。

 この日以来、僕は黒猫がどこへ走ろうと、高い場所へ登ろうと、ついて行った。
 黒猫が行くところへなら、どこへだって行った。

 土砂降りの雨が降り、黒猫は隠れる場所を探しながら震えていた。
 僕は両手をめいっぱい広げて、自分を傘に見立てた。
 寒そうな黒猫を雨から守りたかった。

 やがて僕たちは、無言の交流をするようになった。
 決して触れ合うことはないけれど、お互いの目を見て微笑み合った。
 僕たちは孤独から解放された。

 屋根に一緒に座り、満月を眺めた。
 こんなに美しい月は初めて見た。
 春が来て、冬が来て、そうして時間はどんどんと過ぎ去ってゆく。

 僕はずっと黒猫のそばから離れることはなかった。
 触れないように慎重に距離を保ちながら、何年も一緒に過ごした。
 僕の心は満たされていた。

 ある日、黒猫は僕に近寄ろうとした。
 年老いたその体は、足に力が入っていなかった。
 倒れても、倒れても、何度も立ち上がりふらつく足で僕に近寄った。

 黒猫は頭を撫でてほしそうにした。
 僕が拒んだその時、声がした。

「いつもそばにいてくれてありがとう。私にとってあなたは特別よ。あなたのお陰で寂しくなかった。お願い、頭を撫でて」

 初めて聞いた黒猫の声。
 神様からのプレゼントだと思った。
 もう、最期だから。

 黒猫はとても弱っていて、苦しそうだった。
 黒猫は甘えるように、僕の手に鼻を付けた。
 僕は黒猫を失いたくなかった。
 それでも咄嗟に抱き締めてしまった。

 温もりを初めて知った。
 涙を初めて流した。
 僕は黒猫を愛していたのだと、初めて知った。

「ありがとう。生まれ変わってもまたあなたと出会いたい。あなたが寂しくないように、ずっとそばにいるわ。ずっとその手に触れられたかった」

 やがて黒猫は僕の腕の中でゆっくりと目を閉じた。
 僕は黒猫が冷たくなるまで抱き締め続け、そっと口づけをした。

 花が好きな者は花を摘む。
 花を愛する者は水をやる。
 この違いが分かった時、僕はようやく愛の意味を知った。

 僕は黒猫のことが誰よりも大切だった。
 自分よりも大切だと思える存在に初めて出会えた。
 僕はずっと幸せだった。
 幸せをくれた黒猫は、僕より幸せだっただろうか。

「ごめんね、待ってられないや。僕が迎えに行くよ。今行くから。すぐに行くから。必ず君を探し出すから」

 僕は自分で自分を強く抱き締めた。
 初めて自分を愛せた瞬間だった。
 愛する黒猫を抱き締めたこの手を、誇りに思えた。
 喜びと悲しみが混ざって、声を出して泣いた。

 僕は、これから黒猫を迎えに行く旅に出る。
 待っててね。愛してたよ。

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感想 13

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みんなの感想(13件)

桜 こころ🌸

はじめまして!
黒猫と死神という組み合わせに惹かれました。
すごく素敵な物語です。
応援しています

2024.07.22 みけとが夜々

桜 こころ様
感想ありがとうございます🙇‍♀️
桜先生の作品も読みに行かせていただきます🌸

解除
あらお☆ひろ

「みけとが夜々」先生、遅くなりましたが投票させてもらいましたよー!
赤井翼の弟子4号の「あらお☆ひろ」でーす!

「やさしい死神」さんですよね~!
もちろん「黒猫ちゃん」も超やさしい!
もう、「大好き」!💓
ほかのメンバーと同じく、バケツ一杯泣きました!( ノД`)シクシク…

赤井先生の「JK心亜ちゃん」の続編の「OL心亜ちゃん」の脚本任されたんで「死神さん」を勉強中です!
死神出てくる作品見まくり、読みまくり!
個人的には「鎌倉物語」の映画に出てくる女の死神さんが好き(笑)。

まあ、赤井先生の死神さん「こてこての大阪ギャルコンビ」なんで、「みけとが夜々」先生の「死神さん」みたいにしっとりとはしてないんですけどねー(笑)。
でも、残命7日でお迎えに行くんですけど
「絶対に自殺はさせない」!
っていう死神なんで心亜ちゃんと良いチームにしたいと思ってます(笑)。

あと「ペンギンちゃん」も「かわいそワンコ」ももちろん読んでますよー!
「そーそーのぶのぶ」と違った短編もいいですね!
時間ができたら、他の作品も読ませてもらいますねー!

やさしい「死神さん&黒猫ちゃん」に「投票」させてもらいました!
順位上がっていっぱいいっぱいたくさんの人に読んでもらえますように!
みけとが夜々先生、ぱにゃにゃんだー!
ヽ(^。^)ノ

2024.07.15 みけとが夜々

あらお☆ひろ様
感想ありがとうございます!
赤井先生のお弟子さんなんですね😳
こてこてギャルコンビの死神さんもとても気になります✨
脚本制作応援しております!!
投票もありがとうございます😊
先生のとこの続編心亜ちゃんも読みに行きますね📕✨

解除
ぷりん
2024.07.14 ぷりん

読み直しさせてもらいました。
可哀想なワンコちゃんの話の後だったんで和ませていただきました。
ワンコの方でRBFCの方が書いていましたが「死」は避けられないけど「殺」は避けられますもんね。
2作に投票しています。
先生の作品が広まりますように‼️
ぱにゃにゃんだー‼️

2024.07.14 みけとが夜々

ぷりん様
おかえりなさいませ🤗
あちらの作品は確かにヘビーでどんよりした気持ちになりますが、それが現実で起きているというのが嘆かわしいですね💦
死神さんでほっこりしてもらえたのなら良かったです!
命ある限り、いつか死は訪れますが、「殺」は避けたいですね……本当に🥲

解除

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