たかがゲームの福音書

カレサワ

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第1章 南方でダンジョン巡り

第8話「聖地巡礼3試練」

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 アニメやマンガの世界ではお馴染みの試練。それらの中では、主人公のパワーアップイベントとして扱われているし、大抵のゲームの試練も失敗したら初めからやり直せば良いだけ。でも、失敗の代償は高く長くつく試練と言うのもあるから、苦しいものね。

 シナイ山山頂で、すばらしいものをマロさんと彼の3人で見た私達はその後下山し、麓の聖カトリアナ修道院に戻ってきた。私達はすっかり仲良くなったマロさんに、この巡礼の旅に最後まで同行しないか誘ってみた。
「マロは、ほかに行ってみたいところがあるので、こんど、いっしょに行こうお」
それは残念。マロさんにはなんだか多くの事を学んだ気がしたため、是非ご一緒したかったが、無理強いもできないので私達はお互いフレンド登録をしてここで別れる事にした。
「ばいばい」
そう言って去っていくマロさんを見送る私達。また一緒にすばらしいものを探しに行きたいな。
「さーて、お次は試練の山の麓にあるエリコの村ですってよ奥さま」
誰が奥さまだ。ここからエリコの村まではそれなりの距離があるが、まあ馬車ならそんなには掛からないだろう。
「言っておくけど、行くのはエリコの村だけだからね。もし試練の山山頂にまた何かあるとしても、絶対行かないからね!」
明日は休日とは言え、彼の思い付きに付き合っていたら時間がいくらあっても足りない。
「え~マグりんも山頂の景色に感動してたじゃ~ん」
「試練の山は今日行かなくても、その内また来るでしょ!」
試練の山は、単なるダンジョンでは無く、西部地域から中央部地域に国境越えすることができる2つのルートの内の1つであるため、遅かれ早かれまた来ることになるのだ。
「へいへーい。まあとにかく出発しよか」
そうして私達は、修道院の馬屋で呼び寄せた彼の馬車で、一路エリコの村を目指すことした。

 流石に、おんぼろ馬車でも徒歩で行くよりもずっと早く試練の山の麓、国境の村エリコに到着した。流石に交通が不便な聖カトリアナ修道院に比べて、ここエリコの村は首都からも比較的近く、国境越えの補給地点ということもあってか、多くのプレイヤーで賑わっていた。
「思ってたより人が多いね」
首都イスカリオテほどでは無いが、道行く多くのプレイヤーと、銀行内から通りまで溢れている露店には驚いた。
「マグりん、ここにも募集広場があるよん」
そういう彼の目線の先の中央広場には、確かにP T募集チャットが乱立していた。
「また野良PT行ってみたいな。前のは少し大変だったけど……」

 そんな話を彼としていたら、「村正」という名の男キャラが、私達の側に寄ってきてジャンプをし始めた。初期装備の布の服なあたり最近始めた初心者っぽいが、何か用だろうか。
「初心者なんですが、何かアイテムをくれませんか」
第一声でいきなり物乞いをするこの失礼さ、いわゆるクレクレ厨という奴か。無視して先に進もうと、彼にtellしようとしたが、それよりも先に彼が発言してしまった。
「一見まごうことなきクレクレ厨だけど、何か訳ありみたいだな。どしたん?」
クレクレ厨にクレクレ厨と言うのもあれだが、訳なんて楽してアイテム手に入れたい以外あるわけ無いと思うんだが。
「近くのリトルシープを倒しても全然稼げないから露店のアイテムも買えなくて、お腹が空いて、ストレス値がすぐいっぱいになって、まともに狩もできなくて、もうダメぽです」
なるほど……確かにこのゲーム、最初は稼ぎも少なく狩の準備費用を捻出するのも大変だったなぁ。
「ええかぁ村坊、高くて買えなければな、自分で作るんじゃ。郷に入れば郷に従え、ゲームに入ればシステムに従えじゃぞ」
急に彼の口調が胡散臭いキャラを作り始めた。なんだ、ゲームに入ればって。

 そして、彼はその初心者にリトルシープからルートできるヒツジの肉を料理スキルで焼く方法、村の近くのブドウ畑からブドウを収穫スキルで採取し、醸造スキルでグレープジュースを作る方法を教えたのだった。
「これでな、最初の内は自給自足で凌ぐんや。稼ぎが安定してきたらな、料理や醸造のスキルは下げるなり残すなり好きにすればええんじゃ」
一通り説明をした後、その初心者には大変感謝されながら別れたが、私は彼に素朴な疑問を投げかけた。
「どうせだったら、持ってる揚げパンでもあげれば早かったのに、なんでわざわざ自分で作るところから教えたの?」
「人はな、揚げパンのみで生きる訳ではないんじゃぞ」
そのキャラの口調まだ続けるのか。まあでも、彼の言いたいことは何となく分かる気がした。発言内容は意味不明だが。

 その後、露店を見て回ってきたいと言い出した彼の思い付きを特別に許した私は、その間浴場で汗を流してくることにした。汗と言っても、ゲーム内の汗だが。

 野良PTの募集広場を通って浴場に行こうとする私に、「こんにちわ(≧∀≦)」と話しかける吹き出しが見えた。振り返るとそこには、以前野良PTで一緒だった、ナギさんことNagiKirimaさんが立っていた。
「マグさんお久しぶりです(≧∀≦)」
このゲーム、かなりの人数のプレイヤーがログインしているはずだが、世界は案外狭い。
「今、北のヘルモン山に行く野良PTを募集してるんですが、魔法スキル+料理とか、ネタ構成の寄生虫ばっかりでまともな人が来ませんよ(^^;」
スキル構成によってはPTを蹴られる、やはり実在していたのか……ガチ構成ならなんでも良いと言う訳でもないと思うけど。
「ヘルモン山はマジな人以外こないで欲しいですねε-(´∀`; )マグさん一緒に行きませんか(・・?)」
マジな人とは一体。
「私もプレイヤースキルはからっきしですので遠慮させてもらいます」
私は効率なんて全然気にしない、と言ったら嘘になる。しかし、そんな私でも効率第一のPTに参加する気にはなれなかった。
「工兵スキルがあれば大活躍できると思うので、試しに一緒に行きましょう(≧∀≦)」
「試すのも試されのもあまり好きでは無いので。人を待たせてますから、これで失礼します」
工兵スキルあっての私じゃ無いっての。

 山の麓らしい風情ある岩風呂で汗を流したところ、またまた話しかけられた。吹き出しの方を見ると、いかにも高価そうな防具を身につけた「フォーミダブル」という名前の男キャラがそこにはいた。話しかけられた内容は、初めは単なる世間話であった。私も初対面であったので丁寧語で対応していた。
「聖地巡礼クエストしてるんだw俺もそれこの前クリアしたよw移動ばっかりの退屈なクエストだったけどw」
退屈と言われても、今のところそうでも無い。
「うんうん、ですよね」
まぁ世間話だしここは合わせておくか。
「ところでマグのスキル構成何?w」
「えぇと、「弓」「罠」「工兵」「包帯」で防御は「回避」頼りです」
いきなり私をマグ呼びもどうかと思うが、まぁいいか。
「俺このゲーム結構長いしw北方でもそこそこ有名なんだけどw包帯よりも薬調合の方が回復効率いいよw」
知らなかったそんなの……でも包帯の方が狩人っぽいしなぁ。
「そうなんですか。勉強になりますー」
それからの彼の話は止まる気配が無かった。所属旅団<1stSSF>は北方で砦を3つも所有しているからマイハウスもあるとか、今装備している火術魔導師防具一式(最上高品質)はいかに高価かといった話を散々聞かされた。
「今度2人で狩に行かない?w稼げる狩場教えるよw」
彼の話は正直言って俺sugeeeばかりだが、稼げる狩場ってのは魅力的だ。
「本当ですか。是非ご一緒したいですね」
2人で狩に行くくらいなら彼といつもやってることだし、稼げる狩場という単語に惹かれた私は、深く考えもせず軽い気持ちで返事をしてしまった。

 その後、彼と合流した私はクエストを進めるため、教会の司祭NPCに話しかけた。
「人の子、エグザ・プラヤエルスはこの地で、自らに宿る聖霊を狙う悪魔による、3つの試練に立ち向かいました。

 1つ目は、人々を救うために来たのなら、その聖霊で人々にパンを望むだけ与えてやれば良いではないかと言う悪魔の問いかけでした。エグザは、望むものをただ与えるだけでは、人々を救ったことにはならないと答えました。

 2つ目は、もし本当に聖霊が宿るのであれば、試しに力を示してみせよとの悪魔の問いかけでした。エグザは、聖霊は人々を救うためにあり、力を誇示するためでは無いと答えました。

 3つ目は、もし、私に聖霊を渡すのであれば、代わりに巨万の富を差し上げようという悪魔の問いかけでした。エグザは、聖霊とは自らの信仰、生き方そのものであり、金銭に代えることはできないと答えました。

 次なる聖地はエグザが悪霊を追い払った地、ゲネブ砂漠です。父と子と聖霊によりて、ロギン」
この司祭NPCの言葉を聞き、私はドキリとした。特に3つ目、自らの生き方は金銭に代えることはできないと言う言葉は、まるで私に突きつけられているように感じた。
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