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報告書44「飛雨、時には考えるよりも先に飛ぶ出すのが必要な事について」
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渾身のロケットパンチが奴の右頬をえぐる。ヒビが入り、歪む面頬。
俺は剣の腕を、ただひたすらに磨いてきた剣術使いだった。だから刀に生き、刀で戦うことこそが自分の道だと思い込んでいた。それは愚直で不器用で、だからこそそれがカッコ良いと思い、そんな殻に籠もっていたのだ。それが今の俺はどうだ、刀で斬りつけるどころか己の拳で殴ってやがる。側から見ればなんともカッコ悪い、道に外れた戦い方をしていることだろうか。だが、それで良いんだと今なら分かる。剣は……いや、スペキュレイターは俺が思っている以上に自由な生き方なんだから。
「感謝するぜドッペルゲンガー……いや、かつての俺よ」
顔面に強烈な打撃がクリティカルヒットし、大きく後ろに仰反るドッペルゲンガー。その好機を前に、柄を持つ手の、左義手の握りが一際強くなる小太刀ヒトマルを上段に構えるーー
「お前のお陰で多くを学べたんだからな!」
一瞬息を吸った後、一息に渾身の一撃・捨身を奴の顔面目掛けて繰り出す。命中するや否や、頭の防具状の部分をかち割り、面頬を砕き、顔面を両断し、首から胸にまで達してようやく止まる刃先。相手が人間ならもちろん即死、リソーサーと言えども……言えども……
「ごぶぁ!」
空いた右手で勢いよく胸部を殴られる。野郎、人の動きを早速コピーしやがった!いくら何でも早過ぎだろ!大きく吹き飛んだ俺を見ると奴は、俺にトドメを刺そうと太刀を手に一歩また一歩と近づいて来やがる。
「くそっ!ふざけた顔しやがって……!」
砕け落ちた面頬、あらわになった機械部品で構成された奴の素顔……その顔はまさしく俺だった。未だ光が灯るその目からも、俺を殺す事を微塵も諦めていないのが分かる。
「上等だ……お前を、かつての俺を倒し俺は新しい俺になる!」
ガクつく足でなんとか立ち上がる。スキャナーからは機動鎧甲が損傷限界値である事が鳴り響くが、もうそんな事は気にしてられない。奴が……かつての俺がまだ戦う事を諦めていないんだ、今の俺が諦めるわけにはいかないだろ!
小太刀を構える俺を見て、駆け足となるドッペルゲンガー。振りかざすその手には、確かな"死"が。俺の攻撃の出が早いか、奴の持つ"死"の俺への到達が早いか。しかし切っ先は奴の太刀の方が長く、おまけに奴の頑丈さはずば抜けている。速さと破壊力、それに伸びを併せ持つ技で無いと……!
「勝負だこの不細工面がっ!」
左義手に持った小太刀を上段に構え、そしてその刀背に右掌を当てて一気に駆け出す。そして奴との間合いが徐々に縮まり、後一歩で奴の太刀が届く……その距離で俺は脚部の加速装置……推進機関を進行方向とは逆に噴射、当然足が突然止まった事で転ぶように身体が前に飛んだ。肝心な時に足がもつれた?いいや、違う。これが俺のーー
「ーー"飛雨"!!」
全力疾走中にあえて転ぶ事で、進む力を全て上半身に回して前へ飛んだその瞬間、右掌で刀身を押し出すと同時にロケット噴射を伴った左義手による振り下ろし……
それは一瞬だった。凄まじい衝撃、轟く雷鳴……
技の後、顔面から地面に激突しそうになった所を機動鎧甲の肩部分に設置されたブースターの緊急噴射で寸前の所で止まったところで手を地面に突き、小さく屈んだ状態に身体を立て直し奴を見上げる。これでまだ奴が立っているようなら次の一撃で!
そこで目に入ったのは、身体は縦真っ二つになり、持っていた太刀は宙に舞った後地に突き刺さる……そんな奴の……ドッペルゲンガーの姿だった。
「あばよ……かつての俺……」
本来、腕だけでなく全身で斬るには、足による踏み込みも同時に行うのが常識とされている。が、あえてバランスを崩す事で常識を超えた速さと破壊力、それに伸びを実現する……まろび機動を動きに取り込んだ剣技・飛雨が上手く決まったようだ。全く、この機動鎧甲の性能あっての技だな……
<<やったようじゃな……目の前で転んだ時は肝を冷やしたぞ……>>
「転んだんじゃなくて、制御された転倒ですよ。何にしてもイクノさんが調整してくれたこの機動鎧甲のお陰です」
<<そ、そうか?それならいいんじゃが……>>
「はいはいはい!終わったなら遊んでないですぐ報告する!」
「だっ、大丈夫でしたか先輩!?」
聞き慣れた声の方に振り向くと、そこにはチトセとササヤさんの姿が。2人ともボロボロながらも機動鎧甲に大きな損傷が無いところを見ると無事なようだ。
「チトセにササヤさん!ヒトガタの群れは片付いたのか!?とにかく無事で良かった……」
「無事なもんですか!あんたは通信を切るし、その後もぶっといビーム砲みたいのが飛んでくるしで大変だったんだから!」
「まぁまぁシャチョー、イクノさんが回収したヒトガタの記憶媒体を解析して、詳しい戦闘情報を抜き出してくれたお陰で何とか切り抜けられたんですから」
<<なんせ大急ぎでやったからのう。次は事務所に持って帰ってゆっくり取り組みたいもんじゃ>>
なんと、イクノさんは俺とドッペルゲンガーとの戦いのサポートと同時に、そんな事もしていたのか。天才恐るべし。
「それで?例のドッペルゲンガーは?倒したんならさっさと機体から資源を回収しちゃいましょ」
「それが……」
チトセから目をそらしつつ背後を指差す。資源を回収するっつってもな……
「ちょっと!何よこれ!足しか無いじゃない!ボディはどうしたのよボディは!?」
「ちょっと力み過ぎて消し飛ばしちまった……すまん」
「力み過ぎたって……あー!どうすんのよ!この任務はただでさえ報酬が安いのに、収穫無しじゃ赤字よー!」
「そんな事言ったってー!」
「いえ……収穫は0じゃないみたいですよ」
そう言いながらササヤさんが持ってきたもの。それは……
「奴の……ドッペルゲンガーの太刀……!」
ササヤさんが差し出す太刀を受け取り、天に向けて持ったそれを、鍔元から切っ先まで見上げる。未だ激しく荒れ狂う紫電のようなプラズマを帯び、とても人が作ったとは思えない電のような刃文を持つその刀身からも、これが尋常じゃない業物だと言うのが分かる。
「僅かですが、元の持ち主だったリソーサーの情報が残留してました……"持っていけ"だそうです……」
「奴が……俺に……?」
清く負けを認め、自らを滅した者に太刀……魂を贈るだと……?勝負に勝ったのは俺かもしれないが、その心意気には完敗だな。
俺は剣の腕を、ただひたすらに磨いてきた剣術使いだった。だから刀に生き、刀で戦うことこそが自分の道だと思い込んでいた。それは愚直で不器用で、だからこそそれがカッコ良いと思い、そんな殻に籠もっていたのだ。それが今の俺はどうだ、刀で斬りつけるどころか己の拳で殴ってやがる。側から見ればなんともカッコ悪い、道に外れた戦い方をしていることだろうか。だが、それで良いんだと今なら分かる。剣は……いや、スペキュレイターは俺が思っている以上に自由な生き方なんだから。
「感謝するぜドッペルゲンガー……いや、かつての俺よ」
顔面に強烈な打撃がクリティカルヒットし、大きく後ろに仰反るドッペルゲンガー。その好機を前に、柄を持つ手の、左義手の握りが一際強くなる小太刀ヒトマルを上段に構えるーー
「お前のお陰で多くを学べたんだからな!」
一瞬息を吸った後、一息に渾身の一撃・捨身を奴の顔面目掛けて繰り出す。命中するや否や、頭の防具状の部分をかち割り、面頬を砕き、顔面を両断し、首から胸にまで達してようやく止まる刃先。相手が人間ならもちろん即死、リソーサーと言えども……言えども……
「ごぶぁ!」
空いた右手で勢いよく胸部を殴られる。野郎、人の動きを早速コピーしやがった!いくら何でも早過ぎだろ!大きく吹き飛んだ俺を見ると奴は、俺にトドメを刺そうと太刀を手に一歩また一歩と近づいて来やがる。
「くそっ!ふざけた顔しやがって……!」
砕け落ちた面頬、あらわになった機械部品で構成された奴の素顔……その顔はまさしく俺だった。未だ光が灯るその目からも、俺を殺す事を微塵も諦めていないのが分かる。
「上等だ……お前を、かつての俺を倒し俺は新しい俺になる!」
ガクつく足でなんとか立ち上がる。スキャナーからは機動鎧甲が損傷限界値である事が鳴り響くが、もうそんな事は気にしてられない。奴が……かつての俺がまだ戦う事を諦めていないんだ、今の俺が諦めるわけにはいかないだろ!
小太刀を構える俺を見て、駆け足となるドッペルゲンガー。振りかざすその手には、確かな"死"が。俺の攻撃の出が早いか、奴の持つ"死"の俺への到達が早いか。しかし切っ先は奴の太刀の方が長く、おまけに奴の頑丈さはずば抜けている。速さと破壊力、それに伸びを併せ持つ技で無いと……!
「勝負だこの不細工面がっ!」
左義手に持った小太刀を上段に構え、そしてその刀背に右掌を当てて一気に駆け出す。そして奴との間合いが徐々に縮まり、後一歩で奴の太刀が届く……その距離で俺は脚部の加速装置……推進機関を進行方向とは逆に噴射、当然足が突然止まった事で転ぶように身体が前に飛んだ。肝心な時に足がもつれた?いいや、違う。これが俺のーー
「ーー"飛雨"!!」
全力疾走中にあえて転ぶ事で、進む力を全て上半身に回して前へ飛んだその瞬間、右掌で刀身を押し出すと同時にロケット噴射を伴った左義手による振り下ろし……
それは一瞬だった。凄まじい衝撃、轟く雷鳴……
技の後、顔面から地面に激突しそうになった所を機動鎧甲の肩部分に設置されたブースターの緊急噴射で寸前の所で止まったところで手を地面に突き、小さく屈んだ状態に身体を立て直し奴を見上げる。これでまだ奴が立っているようなら次の一撃で!
そこで目に入ったのは、身体は縦真っ二つになり、持っていた太刀は宙に舞った後地に突き刺さる……そんな奴の……ドッペルゲンガーの姿だった。
「あばよ……かつての俺……」
本来、腕だけでなく全身で斬るには、足による踏み込みも同時に行うのが常識とされている。が、あえてバランスを崩す事で常識を超えた速さと破壊力、それに伸びを実現する……まろび機動を動きに取り込んだ剣技・飛雨が上手く決まったようだ。全く、この機動鎧甲の性能あっての技だな……
<<やったようじゃな……目の前で転んだ時は肝を冷やしたぞ……>>
「転んだんじゃなくて、制御された転倒ですよ。何にしてもイクノさんが調整してくれたこの機動鎧甲のお陰です」
<<そ、そうか?それならいいんじゃが……>>
「はいはいはい!終わったなら遊んでないですぐ報告する!」
「だっ、大丈夫でしたか先輩!?」
聞き慣れた声の方に振り向くと、そこにはチトセとササヤさんの姿が。2人ともボロボロながらも機動鎧甲に大きな損傷が無いところを見ると無事なようだ。
「チトセにササヤさん!ヒトガタの群れは片付いたのか!?とにかく無事で良かった……」
「無事なもんですか!あんたは通信を切るし、その後もぶっといビーム砲みたいのが飛んでくるしで大変だったんだから!」
「まぁまぁシャチョー、イクノさんが回収したヒトガタの記憶媒体を解析して、詳しい戦闘情報を抜き出してくれたお陰で何とか切り抜けられたんですから」
<<なんせ大急ぎでやったからのう。次は事務所に持って帰ってゆっくり取り組みたいもんじゃ>>
なんと、イクノさんは俺とドッペルゲンガーとの戦いのサポートと同時に、そんな事もしていたのか。天才恐るべし。
「それで?例のドッペルゲンガーは?倒したんならさっさと機体から資源を回収しちゃいましょ」
「それが……」
チトセから目をそらしつつ背後を指差す。資源を回収するっつってもな……
「ちょっと!何よこれ!足しか無いじゃない!ボディはどうしたのよボディは!?」
「ちょっと力み過ぎて消し飛ばしちまった……すまん」
「力み過ぎたって……あー!どうすんのよ!この任務はただでさえ報酬が安いのに、収穫無しじゃ赤字よー!」
「そんな事言ったってー!」
「いえ……収穫は0じゃないみたいですよ」
そう言いながらササヤさんが持ってきたもの。それは……
「奴の……ドッペルゲンガーの太刀……!」
ササヤさんが差し出す太刀を受け取り、天に向けて持ったそれを、鍔元から切っ先まで見上げる。未だ激しく荒れ狂う紫電のようなプラズマを帯び、とても人が作ったとは思えない電のような刃文を持つその刀身からも、これが尋常じゃない業物だと言うのが分かる。
「僅かですが、元の持ち主だったリソーサーの情報が残留してました……"持っていけ"だそうです……」
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