ブレードステーション

カレサワ

文字の大きさ
44 / 71

報告書44「飛雨、時には考えるよりも先に飛ぶ出すのが必要な事について」

しおりを挟む
 渾身のロケットパンチが奴の右頬をえぐる。ヒビが入り、歪む面頬。

 俺は剣の腕を、ただひたすらに磨いてきた剣術使いだった。だから刀に生き、刀で戦うことこそが自分の道だと思い込んでいた。それは愚直で不器用で、だからこそそれがカッコ良いと思い、そんな殻に籠もっていたのだ。それが今の俺はどうだ、刀で斬りつけるどころか己の拳で殴ってやがる。側から見ればなんともカッコ悪い、道に外れた戦い方をしていることだろうか。だが、それで良いんだと今なら分かる。剣は……いや、スペキュレイターは俺が思っている以上に自由な生き方なんだから。

「感謝するぜドッペルゲンガー……いや、かつての俺よ」

 顔面に強烈な打撃がクリティカルヒットし、大きく後ろに仰反るドッペルゲンガー。その好機を前に、柄を持つ手の、左義手の握りが一際強くなる小太刀ヒトマルを上段に構えるーー

「お前のお陰で多くを学べたんだからな!」

 一瞬息を吸った後、一息に渾身の一撃・捨身を奴の顔面目掛けて繰り出す。命中するや否や、頭の防具状の部分をかち割り、面頬を砕き、顔面を両断し、首から胸にまで達してようやく止まる刃先。相手が人間ならもちろん即死、リソーサーと言えども……言えども……

「ごぶぁ!」

 空いた右手で勢いよく胸部を殴られる。野郎、人の動きを早速コピーしやがった!いくら何でも早過ぎだろ!大きく吹き飛んだ俺を見ると奴は、俺にトドメを刺そうと太刀を手に一歩また一歩と近づいて来やがる。

「くそっ!ふざけた顔しやがって……!」

 砕け落ちた面頬、あらわになった機械部品で構成された奴の素顔……その顔はまさしく俺だった。未だ光が灯るその目からも、俺を殺す事を微塵も諦めていないのが分かる。

「上等だ……お前を、かつての俺を倒し俺は新しい俺になる!」

 ガクつく足でなんとか立ち上がる。スキャナーからは機動鎧甲が損傷限界値である事が鳴り響くが、もうそんな事は気にしてられない。奴が……かつての俺がまだ戦う事を諦めていないんだ、今の俺が諦めるわけにはいかないだろ!

 小太刀を構える俺を見て、駆け足となるドッペルゲンガー。振りかざすその手には、確かな"死"が。俺の攻撃の出が早いか、奴の持つ"死"の俺への到達が早いか。しかし切っ先は奴の太刀の方が長く、おまけに奴の頑丈さはずば抜けている。速さと破壊力、それに伸びを併せ持つ技で無いと……!

「勝負だこの不細工面がっ!」

 左義手に持った小太刀を上段に構え、そしてその刀背に右掌を当てて一気に駆け出す。そして奴との間合いが徐々に縮まり、後一歩で奴の太刀が届く……その距離で俺は脚部の加速装置……推進機関を進行方向とは逆に噴射、当然足が突然止まった事で転ぶように身体が前に飛んだ。肝心な時に足がもつれた?いいや、違う。これが俺のーー

「ーー"飛雨"!!」

 全力疾走中にあえて転ぶ事で、進む力を全て上半身に回して前へ飛んだその瞬間、右掌で刀身を押し出すと同時にロケット噴射を伴った左義手による振り下ろし……

 それは一瞬だった。凄まじい衝撃、轟く雷鳴……

 技の後、顔面から地面に激突しそうになった所を機動鎧甲の肩部分に設置されたブースターの緊急噴射で寸前の所で止まったところで手を地面に突き、小さく屈んだ状態に身体を立て直し奴を見上げる。これでまだ奴が立っているようなら次の一撃で!

 そこで目に入ったのは、身体は縦真っ二つになり、持っていた太刀は宙に舞った後地に突き刺さる……そんな奴の……ドッペルゲンガーの姿だった。

「あばよ……かつての俺……」

 本来、腕だけでなく全身で斬るには、足による踏み込みも同時に行うのが常識とされている。が、あえてバランスを崩す事で常識を超えた速さと破壊力、それに伸びを実現する……まろび機動を動きに取り込んだ剣技・飛雨が上手く決まったようだ。全く、この機動鎧甲の性能あっての技だな……

 <<やったようじゃな……目の前で転んだ時は肝を冷やしたぞ……>>

「転んだんじゃなくて、制御された転倒ですよ。何にしてもイクノさんが調整してくれたこの機動鎧甲のお陰です」

 <<そ、そうか?それならいいんじゃが……>>

「はいはいはい!終わったなら遊んでないですぐ報告する!」

「だっ、大丈夫でしたか先輩!?」

 聞き慣れた声の方に振り向くと、そこにはチトセとササヤさんの姿が。2人ともボロボロながらも機動鎧甲に大きな損傷が無いところを見ると無事なようだ。

「チトセにササヤさん!ヒトガタの群れは片付いたのか!?とにかく無事で良かった……」

「無事なもんですか!あんたは通信を切るし、その後もぶっといビーム砲みたいのが飛んでくるしで大変だったんだから!」

「まぁまぁシャチョー、イクノさんが回収したヒトガタの記憶媒体を解析して、詳しい戦闘情報を抜き出してくれたお陰で何とか切り抜けられたんですから」

 <<なんせ大急ぎでやったからのう。次は事務所に持って帰ってゆっくり取り組みたいもんじゃ>>

 なんと、イクノさんは俺とドッペルゲンガーとの戦いのサポートと同時に、そんな事もしていたのか。天才恐るべし。

「それで?例のドッペルゲンガーは?倒したんならさっさと機体から資源を回収しちゃいましょ」

「それが……」

 チトセから目をそらしつつ背後を指差す。資源を回収するっつってもな……

「ちょっと!何よこれ!足しか無いじゃない!ボディはどうしたのよボディは!?」

「ちょっと力み過ぎて消し飛ばしちまった……すまん」

「力み過ぎたって……あー!どうすんのよ!この任務はただでさえ報酬が安いのに、収穫無しじゃ赤字よー!」

「そんな事言ったってー!」

「いえ……収穫は0じゃないみたいですよ」

 そう言いながらササヤさんが持ってきたもの。それは……

「奴の……ドッペルゲンガーの太刀……!」

 ササヤさんが差し出す太刀を受け取り、天に向けて持ったそれを、鍔元から切っ先まで見上げる。未だ激しく荒れ狂う紫電のようなプラズマを帯び、とても人が作ったとは思えない電のような刃文を持つその刀身からも、これが尋常じゃない業物だと言うのが分かる。

「僅かですが、元の持ち主だったリソーサーの情報が残留してました……"持っていけ"だそうです……」

「奴が……俺に……?」

 清く負けを認め、自らを滅した者に太刀……魂を贈るだと……?勝負に勝ったのは俺かもしれないが、その心意気には完敗だな。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...