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3. 雨
思い
しおりを挟む中城は複雑な気持ちだった。
あの後自席に戻った中城は、Bとの会話を思い出しながらBの真意を考えていた。
中城自身別にBやAの仲をどうこう言える立場でもなく、何変える事なんてできない。わかってる。それでも人とは自分の心にだけは嘘をつけず、頭の中だけ、そう、頭の中だけは倫理感を無効化できる唯一の領域である。
正直、AとBが仲良くなるのは嫌だった。もちろんAに対する好意からであろう。嫉妬とは認めたくないが明らかに嫉妬であった。反面、何となくBはまだAを誘えていない事やAの他人行儀なBへの態度などはっきりした部分もあり安心した面もあった。しかし、Bの真剣な眼差しを見ていると真っ直ぐなAへの気持ちは誰が見てもわかる。中城は不安と安心の入り混じった感情に忙しく揺れ動いていた。
そんな中、休憩を終えたAが中城に話しかけてきた。
「中城さん、お疲れ様です。先程はどうも。」
「お疲れ様、、」
中城の頭の中の当事者が、話しかけてきた事に一瞬現実と区別ができず言葉が止まってしまった。
「どうしました?」
少し頭を傾けながらAは不思議そうに聞いた。
「いや、別に、、、」
中城は現実に戻りながらとっさに答えた。
「Bさんの所に何聞きに言ったんですか?」
心拍数が上がり始めた中城は、
「これ、このシステム請求が月100件以上あって増え続けてるんだよ、だからまとめて合計額として計上する方法がないかなって思ってさ。」
「なるほど。」
そう答えたAは、あまり理解できていない表情を浮かべていた。中城はそんなAの顔を見ながら次の言葉が見つからず、心拍数上昇に堪えられなくなった中城は、
「そう言えばBが飲みに行きたいって言ってたよ。」
冷静に考えれば中城自身ふれたくない話題だったが、なぜか口が動いていた。
「さっきも経理部で話していた時言われました。」
その顔にはいつもの笑顔はなく淡々と話していた。
「嬉しいんですが、いつも都合悪いんですよね。Bさんに来週誘われたんですが来週は締めに当たるんで残業確定なんですよ~。」
「そうなんだ、じゃぁ、しょうがないね。」
「今週なら大丈夫なんですけどね~。」
「Bは今週都合悪いって?」
「え、わからないですけど来週誘っていただいたんで今週は厳しいのかなって思ってました。」
「そうなんだ。」
中城はできれば実現してほしくない話題をどう終わらせようか考えたが少しの沈黙に我慢できず、
「Bに今週どうか聞いてみようか?」
中城の言葉にAは笑顔を見せ、
「ほんとですか?中城さんは今週大丈夫な日あるんですか?」
その言葉に中城は一気に嬉しさが溢れ出し、テンションが上がり始めた。
「俺?俺も行った方がいいの?」
「え、もし嫌じゃなければどうですか?」
「俺酒飲めねーしなー。」飲み会を断る為に何百回と言った中城得意のセリフを今は嬉しさ紛れに得意げに言った。
「この前飲んでたじゃないですか。」
「あの時はAさんとだから嬉しくて」なんて言う事が出来たら中城の人生は変わっていただろうが、そんな気の利いたセリフは言えるはずもなく、
「あの日も1、2杯だけだよ。」
「十分ですよ。ご一緒できれば行きましょう。」
中城は自分とAの前進を感じるとともに、特別感が生まれた気がした。
「じゃぁ Bに聞いてみるよ。」
中城は何の不安も感じていなかった。
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