雑草の背伸び

honjya

文字の大きさ
10 / 13
3. 雨

思い

しおりを挟む

中城は複雑な気持ちだった。
あの後自席に戻った中城は、Bとの会話を思い出しながらBの真意を考えていた。
中城自身別にBやAの仲をどうこう言える立場でもなく、何変える事なんてできない。わかってる。それでも人とは自分の心にだけは嘘をつけず、頭の中だけ、そう、頭の中だけは倫理感を無効化できる唯一の領域である。
正直、AとBが仲良くなるのは嫌だった。もちろんAに対する好意からであろう。嫉妬とは認めたくないが明らかに嫉妬であった。反面、何となくBはまだAを誘えていない事やAの他人行儀なBへの態度などはっきりした部分もあり安心した面もあった。しかし、Bの真剣な眼差しを見ていると真っ直ぐなAへの気持ちは誰が見てもわかる。中城は不安と安心の入り混じった感情に忙しく揺れ動いていた。
そんな中、休憩を終えたAが中城に話しかけてきた。
「中城さん、お疲れ様です。先程はどうも。」
「お疲れ様、、」
中城の頭の中の当事者が、話しかけてきた事に一瞬現実と区別ができず言葉が止まってしまった。
「どうしました?」
少し頭を傾けながらAは不思議そうに聞いた。
「いや、別に、、、」
中城は現実に戻りながらとっさに答えた。
「Bさんの所に何聞きに言ったんですか?」
心拍数が上がり始めた中城は、
「これ、このシステム請求が月100件以上あって増え続けてるんだよ、だからまとめて合計額として計上する方法がないかなって思ってさ。」
「なるほど。」
そう答えたAは、あまり理解できていない表情を浮かべていた。中城はそんなAの顔を見ながら次の言葉が見つからず、心拍数上昇に堪えられなくなった中城は、
「そう言えばBが飲みに行きたいって言ってたよ。」
冷静に考えれば中城自身ふれたくない話題だったが、なぜか口が動いていた。
「さっきも経理部で話していた時言われました。」
その顔にはいつもの笑顔はなく淡々と話していた。
「嬉しいんですが、いつも都合悪いんですよね。Bさんに来週誘われたんですが来週は締めに当たるんで残業確定なんですよ~。」
「そうなんだ、じゃぁ、しょうがないね。」
「今週なら大丈夫なんですけどね~。」
「Bは今週都合悪いって?」
「え、わからないですけど来週誘っていただいたんで今週は厳しいのかなって思ってました。」
「そうなんだ。」
中城はできれば実現してほしくない話題をどう終わらせようか考えたが少しの沈黙に我慢できず、
「Bに今週どうか聞いてみようか?」
中城の言葉にAは笑顔を見せ、
「ほんとですか?中城さんは今週大丈夫な日あるんですか?」
その言葉に中城は一気に嬉しさが溢れ出し、テンションが上がり始めた。
「俺?俺も行った方がいいの?」
「え、もし嫌じゃなければどうですか?」
「俺酒飲めねーしなー。」飲み会を断る為に何百回と言った中城得意のセリフを今は嬉しさ紛れに得意げに言った。
「この前飲んでたじゃないですか。」
「あの時はAさんとだから嬉しくて」なんて言う事が出来たら中城の人生は変わっていただろうが、そんな気の利いたセリフは言えるはずもなく、
「あの日も1、2杯だけだよ。」
「十分ですよ。ご一緒できれば行きましょう。」
中城は自分とAの前進を感じるとともに、特別感が生まれた気がした。
「じゃぁ Bに聞いてみるよ。」
中城は何の不安も感じていなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...