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28話 それから
しおりを挟む先程の行いを思い出し、さくらは羞恥に頬を染めた。夜会といい、今回といい、レオンに迫られると、頭で考えるより先に身体が反応してしまう。いや、自分から誘うことも多々あるのだが……。
チラリとレオンに目をやると、彼もまた、ションボリと項垂れ、今から叱られるのを待つワンコのようだ。
「すまない。勝手に嫉妬して、欲望のまま君を抱いてしまった」
「嫉妬?」
「ミュゼや、毎日のように君に会いに来る騎士達のせいで余裕が無かった。それに、一度ミュゼのことを可愛いと言っただろう……?」
「確かに言いました。でも、私の中ではレオン様が一番可愛いくて格好良いです!」
「私が可愛い……!?」
レオンは頬を染め、慌てふためく。ワタワタと手を動かす様が可愛くて、さくらはやはり今日も夫にキュンキュンしてしまう。
「お気付きかもしれませんが、レオン様が頬を染めて恥ずかしがる姿が……ムズムズムラムラして堪らないのです……。残念な嫁でごめんなさい……」
――墓場まで持って行こうと思っていたのに、とうとう暴露してしまった。
「そうか。そんなこと生まれて初めて言われたから、なんと言って良いか分からないが……。私もサクラが恥ずかしがる姿はとても愛らしいと思っている」
「他には何が不安ですか?」
「……もしも君を見つけたのが自分では無かったら。もしもあの時、君があのような化粧をしていなかったら……。私達は出逢うことなく、サクラは別の男と幸せに過ごしていたのだろうと思った」
レオンの瑠璃色の瞳が影を落とす。さくらはレオンの前に佇むと、少し背伸びをして、彼の頬を包み込む。そのままゆっくりと彼を引き寄せ、額をコツリと合わせた。
「私も……、もしも私を見つけてくれたのが、レオン様ではなかったらどうなっていたのだろうと、……何度も考えました。でも、『もしも』など無いのです。今生きているこの時が、変わる事のない、後戻りすることのできない現実なのです」
「サクラ……」
「沢山の分岐点で、沢山の選択肢があって、沢山の未来があったのかもしれないけれど……。レオン様と過ごす今が、とても幸せです」
さくらはレオンの首に手を回すと、ギュッと抱きつく。
これからも沢山の出会いがあって、彼に不安を与えてしまうこともあるだろう。
ふと、リリアナの『ありのままのロイド様を愛するだけです』と幸せそうに笑った顔を思い出す。あの時はどこか遠い世界の出来事のような、他人事のような、そんな気分だった。でも今は違う。
「だから、レオン様のこと、私がもっっっっと幸せにしますね」
「………なら、私は更に上を目指そう」
レオンは眩しいものを見つめるかのように瞳を細め、笑みを溢す。
「さて。仕事に戻ろうか」
「はい!」
それから。
執務机を見る度に不埒な行いをしてしまった事を思い出し、レオンとさくらが挙動不審になる度、何も知らないセイロンは小首を傾げるのだった。
…☆☆…
後日、クラレンス邸の一室で、特効薬の試作が行われた。
ミュゼは領地の薬師を同行させており、さくらは作り方の工程を伝えた。まあ、工程と言っても、薔薇の実から種を抜き取り、涼しい場所で自然乾燥させるだけなのだが。
薔薇の実に含まれる、原因不明の病を治す為の成分は熱に弱いので、なるべく熱を加えない事。酸っぱいもの全てに、その成分は含まれている訳では無い事。また、美肌効果や疲労回復、便秘解消等の効果がある等、知りうる知識をザックリと伝えていく。
「これで病に苦しむ領民が、沢山助かれば良いんだけどな」
「そうですね。ミュゼ様は領民の方々を大切にしてらして、本当に素晴らしいです。ミュゼ様の治める地に住む方々は幸せですね」
「やっぱりサクラ夫人、僕とベラード公爵領に……「いかないよ」」
後ろから包み込むように抱きしめられ、見上げるとレオンの顔が眼前にあった。その顔はどこかスッキリしていて、朗らかだ。
「最後まで言わせてくれても良いのにな」
「目の前で妻が他の男に誘惑されているのは見逃せないな」
「クラレンス卿……。なんだか前と雰囲気が違うね。なんだか、余裕を感じるんだけど」
「……そうかもしれないね。サクラは私をもっともっと幸せにしてくれるらしいから、今後が楽しみなんだ」
「もしかして! 僕のおかげで絆が深まっちゃったとか?」
ミュゼは不満全開の顔でブーブー文句を言う。レオンはそんなミュゼをクスリと笑う。
「そうだね。ミュゼ、感謝する」
「えー。感謝してるなら僕の前でイチャイチャしないでよ。まだ僕一応子供だよ? 目の毒……」
「そうです! レオン様、いたいけな青少年の前で、大人がイチャイチャしてはいけません!」
さくらはモソモソと身じろぎし、レオンの手から逃れる。すると、レオンは何か気が付いたのか、耳に口を寄せた。
「サクラ。頬が真っ赤だ。私の妻は可愛いな」
「……っ!!」
――耳が溶ける! いや、寧ろ全身溶けちゃうぅ!!
さくらは何も言えず、口をパクパクさせる。そんな二人のやり取りを、ミュゼと薬師は辟易とした表情で見つめた。
「二人とも。あとは僕が領地に帰ってからにしてよね」
「へっ? いつ領地に戻るのですか?」
「明日には帰るよ。一刻も早く効果の確認がしたい。それから、お茶として飲むのか、丸薬にするのか。価格や流通経路。レシピを公開するか否か。……考えることは山積みだからね」
そう言ってニコリと笑うと、ミュゼは予告通り、翌日王都を発った。
後日。
原因不明の病に薔薇の実から作られた特効薬の効果は絶大だったとレオンから聞き、さくらは喜びと共に大きく安堵した。
港には活気が溢れ、特効薬の販売は国内のみに留まらず、国外にも及んだ。
ミュゼは丸薬を作ると共に、お茶は美容効果を目的として、貴族を中心に販売を開始した。特に美肌効果という謳い文句に、貴族令嬢達は反応し、売れ行きも上場のようだ。
ミュゼの功績は国内全土に知れ渡り、次期公爵としての基盤は確固たるものとなった。
「でも、サクラが発案であると公表しなくて、本当に良かったのかい?」
「はい。病に苦しむ方の元へ赴いて、領民の方々を救ったのは紛れもなくミュゼ様ですから」
「そうか……。君は本当に欲が無いな」
「レオン様は、私が大きな功績をどんどん残して、大活躍するのがお望みですか? んー。無い知恵を振り絞れば、もう一滴くらいはアイデアが出るかな……」
「君が私の隣で幸せに暮らしてくれれば、それで良いよ」
うんうん唸っていると、彼の腕にスッポリ包まれて、口付けを落とされる。レオンのことをもっと幸せにすると言ったのに、彼からは与えられてばかりだ。
優しく彼はさくらを抱きかかえると、寝室へと足を運ぶ。ギシッとベッドを軋ませながら覆い被さる彼の瞳の奥には情欲が灯り、今日も二人は慈しみ合うのだった。
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