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1章 始まりの街

9話 ボスゴブリン

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爆竹が鳴り響いた瞬間、建物内が騒がしくなった。

ーーだが、ちょっと待て…

「多くないか?」

建物内の音がどんどん大きくなっていく
それはもう轟音だ

「「「"ギャギャギャギャギャギャ"」」」

何体ものゴブリンがゾロゾロと入り口から這い出てくる。
だが、いつものゴブリンとは違う

皆、武器を持っている。
粗末な武器ではなく、ナイフやハンマー、ノコギリなど武器と呼べるものを装備している。
おそらくホームセンターなどから盗んできたのだろう

だが面白い……それくらいじゃないと強くなれない

俺は新調したナイフを握りしめ、構える。
このナイフはハイス鋼を使用した高硬度のナイフで普通に買えば数十万はする高級ナイフだ。
お金は世界が平和になれば払うつもりだ。

よし!さぁ、突撃だ!

 俺はナイフを片手に低姿勢でゴブリンの群れに一気に近づく。集団戦の場合は敢えて、懐に入る事で敵の連携を妨げ、攻撃の方向性を予想しやすくなる。

あの本の教えだ。

 俺を囲んだゴブリンの攻撃が360度から襲ってくる。
だが、取り囲める人数は限られている。そのため1度に襲い来る攻撃も限定される。

 全神経を集中させ、ゴブリンの攻撃を避け、確実に急所を斬って行く、
 敵の血を使った目潰し、敵の攻撃を利用した同士討ち、使えるテクニックは全て駆使して、ゴブリンを順に始末して行く。

 同じ場所には絶対留まらず、動き続ける。

 10分程は戦い続けただろうか?ようやく最後の1体を倒すことに成功した。お陰で高級ナイフの刃はボロボロだ。流石に斬り過ぎた

辺りには無数の魔石が散らばっている。
だが、今は拾うことはできない。

何故なら

「ギャァアアアオオオ!!」

 通常の倍ほどある背丈のゴブリンが建物から現れたからだ。通常のゴブリンより濃い緑色、筋肉質な身体、何より手には数十キロはあるだろう鉄の角材を持っている。

見るからにパワー型ってわけか
今までのゴブリンであれば身体的優位はこちらにあったが、このボスゴブリンの場合はおそらく負けている。

俺はカバンから予備のナイフを取り出し装備する。

よし行くぞ!速攻

前への倒れこみからノーモーションの加速
ボスゴブリンの懐に飛び込む

しかし、途中、直感が警鐘を鳴らした。
ーー急停止、横に飛び地面を転がる。

俺がいた場所には、鉄の角材が土煙を上げ、振り下ろされていた。

背筋に冷たいものが走る……
もし、当たっていれば確実に死んでいた。反応が速すぎる。
改めて襲い来る恐怖

その恐怖の所為か俺はボスゴブリンの懐に飛ぶこむ事が出来ず、闘いは膠着状態に入っていた。

ボスゴブリンのパワーと反応速度により懐に入れない
俺の体力が多いといえど、長引けば敵の増援など不確定要素が多い

決めなければ……

「グワァォァァァァォァ!!」

その時、ボスゴブリンが叫び声を上げた。
地面が軽く震えるほどの咆哮

何事だ!仲間を呼んだのか?
俺はそう考え、一瞬周りを警戒したがどうやら違う
変化があったのは"ボスゴブリン"の方だ!

ボスゴブリンの肌の色が緑から赤黒く変化している。
顔はより凶暴さを増し、牙も爪も鋭く伸び、眼は血走っている。

俺は後悔している。
特に何もしてないのに強くなったじゃないか…
普通は相場は大ダメージを負って追い込まれてからじゃないのか!
ちっ無理をしてでも早めに倒しておくべきだった

だが、俺の心は恐怖を含みながらも

「最強への道に強者の闘いは必須だよな」

 血が沸き立つのを感じていた。
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