やさぐれ女は救世の勇者様に愛されすぎている

つこさん。

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1話 ハッピーエンド

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 街は祝祭の喧騒に包まれていた。人々は老いも若きも色とりどりの旗を振り、建物の窓から撒かれた金銀の紙吹雪が石畳の路へ舞い降りる。空は晴れ渡り、今日という日を太陽が祝福していた。
 パレードが中央通りを進む。それは世界中にはびこる瘴気の根源を払い、凱旋し、『勇者』の称号を王から戴いた英雄、ターヴィ・ライティオを讃えるためのものだった。彼の馬車の前後を固める騎士たちは、胸を張り、誇り高く進んでいる。
 ターヴィは笑顔を浮かべ、歓声に応えながら手を振っている。金糸の髪が風になびき、月の光を溶かしたかのように輝いている。深い暗赤色の瞳は、昼と夜の境目と言われるほどの色合いで、群衆の間を何かを求めるようにさまよう。
 セルマは物陰からそれを眺めた後、踵を返して街の外れへ向かって歩き始めた。
 もうここに用はない。次の場所へ流れていく。セルマは街を、そして国を出ることに、なんの感慨も抱かなかった。

 三年だった。十代の初めに傭兵稼業を始め、多くの仕事をこなしてきたが、これほど長期にわたったヤマは他になかった。国から報奨は受け取ったものの、すぐに物品へと換え、当面必要なだけの現金を手元に残す。日銭だけの生活に慣れたセルマには、『勇者の右腕』などという立場も肩書きも必要なかった。彼女は今年、二十八になる。

 初めて会ったとき、ターヴィはたしかまだ二十にも満たなかったはずだ。学生だった彼は、その才気を買われて国から徴用されたのだ。
 線が細く美しい面立ちで、こんなひ弱そうな男が長旅と『浄化』作業に堪えられるかと疑った。だが、若者の成長は早い。三年のうちに彼はセルマの上背を超え、腕も脚も太く逞しくなった。そして今や、救世の勇者だ。
 セルマは、ターヴィの白い肌とは対象的に褐色の肌を持つ。適当に短く切った髪と瞳も暗褐色で、華やかなターヴィとはまるで違った。美しさもなければ、女らしさも感じられない。愛嬌のかけらもない。長年の渡り鳥のような生活に慣れきったセルマのすれた性格も、もう直しようがなかった。脱落するなら早いうちにと思って、それを本人へ伝えた事もある。それでもターヴィは、何が何でも食らいついてきたのだ。

「――まあ、それなりに楽しかったよ。元気で」

 セルマは賑わう人だかりを縫って歩きながらつぶやいた。それを拾う者はなかった。
 街の関所に近づくにつれ、喧騒は次第に遠ざかっていく。それでも、街のどこもかしこもお祝いの様相だ。
 世の中は喜びに溢れていた。めでたしめでたしだ、とセルマは思った。
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