ビリンガム伯爵家・あるひそかな愛

つこさん。

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第二話 本当の強さ

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 僕がまだ幼く、オーリアという道を見いだせていなくて、その必要も感じていなかったころ、父が僕に言い遺した言葉がある。

「ダーレン、だれかを批判したくなったらね。その人がどうしてその考えに至ったか、まずは考えてみるんだ」

 繰り返されたその教えは、今も僕の芯を形作っていて、僕は思慮深い人間だとの評判を得た。

「言葉を急いてはいけないよ。考えてみてもわからないときはね、それは君の手にあまることだから、なにも言わないのがいいんだ」

 そうしてなにも言えなくて、自らを退かせてしまった父を、それでも僕は愛している。

 僕は僕を嘆いたりはしない。多くの人が哀れむとしても、悲観するのはとうの昔にやめたんだ。父の言葉を繰り返し思い出しては、父が僕や母、そして他の愛していたはずの人々を手放したのはやさしかったからではなくて、本当のやさしさにたどり着けていなかったからなんだと考えたりもした。そうだ、とても。本当のやさしさは、鋼鉄のように強いから。――それでも僕は父を愛しているよ。そう自覚できたのは、最近だけれど。
 僕がなにも言えないとき、僕はどうするだろう。それを絶えず自問している。

 父の言葉を抱えながら、父のようにはならないと僕は誓った。
 季節は春を迎えていた。オーリアは今年、十六歳になる。

「ダーレン、あのね。お願いがあるのよ」

 そわそわとしながら、オーリアは僕にそう言った。ある程度は覚悟していて、ある程度は予測していて、そのくせどんな心の準備もできていない。僕は弱い人間だ。本当のやさしさを身につけることなんか、きっとまだまだ無理なんだろう。それでも彼女の前でだけは、だれよりも強くありたいんだ。それはもしかしたら、父も僕たちへと感じていたことかもしれない。

小さなオーレリアタイニィ・オーリア、今度はどんなお願い?」
「あのね、いっしょにお買い物に行ってほしいの」
「先週も行ったよ?」
「それとは、別よ」

 ああ、オーリア。君は君のままでいて。僕の服のすそを握って、おぼつかない足取りの小さなころを、昨日のことのように憶えている。

「あのね……プレゼントを選びたいの」
「自分で選べばいいじゃないか」
「違うの! わたくしじゃわからないから……男性へ差し上げるものよ」

 ああ、オーリア。わかっているよ、君はとてもきれいになった。

 誰に? とは僕からは聞けない。従者としての立場をわきまえているからだと思いたい。君がきれいになって、僕にはどうしようもなくて、作り笑顔が得意になった。
 君が幸せであることを、心から願っている。

 知っている。僕は弱い人間だ。本当に強い人間は、自分にだってやさしくできるんだ。
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