【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
18 / 248
王都ルミエラ編

18話 わたしかわいいんですってよ!!!

しおりを挟む
「ひっでー‼ もてあそんだの⁉ 俺の純情な気持ち踏みにじるの⁉」
「は? あなたが純情だったことがこれまで一度でもあったとでも? もてあそんだどころか、そもそもあなたはただのお隣さんですが????」
「こんなに分かり合ってるのに‼」
「わたしアベルさんのことなにも知りません」
「知ってるじゃん」

 にっこーと笑いながら、わたしの顔を覗き込んでアベルが言いました。

「知ってるじゃん、俺のこと。ソノコは」

 感情が読めない飴色のその目をまともに見返してわたしは言います。

「『アベル・メルシエ』さんです」
「大正解」

 うれしそうにアベルは笑顔を深めました。バレてますね。『ジル・ラヴァンディエ』を知っていることバレてます。まあいいんですけど。その方が気が楽ですし。

「ざんねーん。いっしょに住めたら、ソノコともっと相互理解し合えるかなーって思ったのに」
「べつにわたしアベルさんのこと理解したくないですし」
「ひっでー、もっと俺に興味持ってよ!」
「無理です。それに、わたしのことなんでも知ってるって言ってたじゃないですか。もう十分ですよ」
 
 にやあ、とアベルが笑います。こわいこわいちょうこわい。なにそれやめて。

「知ってるよ? ――だから、もらったパンも食べたじゃん?」

 テーブルに腕を着いて首を傾げて言います。こっわ。めっちゃこっわ。今すぐ吐き出せと言いたい気分です。不用意に餌付けしたわたしがバカでした。元いたところに返してきなさい過去のわたし。手遅れ感しかなくて当分夢でうなされそう。

「――でもさー、ソノコの気持ちと、考えてることはわかんない。いっつも意味わかんない発言するし。こんなにかっこいい俺がそばにいるのにぜんぜんなびいてくんないし。変な計算するし。ときどき夜ひとりで泣いてるし。俺に隠してること、たくさんあるし」

 隠してることがあるのはお互い様じゃないでしょうか。そもそも、群馬のこと話したってしかたないでしょうに。
 ため息をついてそっぽを向きました。
 ――まあ、見透かされるのがこわかったんですよ。

「ソノコ……君いったい誰?」

 リシャールと同じ質問すんなし。アイデンティティについて考えてまうわ。わたしは最初からぜんぶ説明しているのに、これ以上なにが必要だっていうんでしょうか。わたしは意味もわからずここにいて、必死で生きてる。それだけ。
 いやあ、わかりますよ。アベルはそれも承知しているんでしょう。その上でわたしに尋ねているんでしょう。わたしはそれに対する答えを持ちません。いつか答えられるかどうかもわからない。
 
 ので、言いました。今のわたしのそれなりの誠意で。

「わたしは園子。それ以外の誰でもありません」

 アベルは少し考えて、「うん、そうだろうね」と言いました。どこまで読まれているのかわからなくて怖い。
 わたしはね、ここにいても、群馬県前橋市大手町3丁目の2DK住みの三田園子なんです。

 今日は公衆浴場には行きませんでした。開いているの日中だけなので、あさイチで仕事前に行くか、昼に時間を作るかなんですよね。わたしのここでの少ない楽しみのひとつです。朝に行こうと、アベルを追い払って早めに寝ました。誰が泣くか!
 起きても、トイレ掃除をして着替えて、さくっと家を出ました。朝ごはんよりもお風呂! シャワー入るんです! べつにアベルに会いたくないからまこうとしたとか、そんなんじゃありません。

 汗拭きタオルで体を拭いて、洗って固く絞りました。首にかけておけば昼までには乾きます。いつもそれしきです。ドライヤーなんてものはないので、髪も自然乾燥。最初のうちはごわつきが気になりましたけど、コンディショナーがない生活にも慣れました。洗いっぱなしで現場に向かいます。以前のように通行人の視線も気になりません。
 こうやってわたしはここの生活に、この世界に、組み込まれていくのでしょうか。群馬に置いてきたすべてを忘れて。

 結局、変わらないんですよ。生きるためにすることは。寝て起きて、ごはんたべて、仕事して、お風呂入って。その繰り返し。じゃあどっちに居ても同じかっていうと、それは別の話で。
 いつだって気にかかっています。なろう小説みたいに割り切って異世界生活謳歌するとか、できるもんじゃありませんよ。それはまあ、わたしがわたしのままこうしてここに居るからでもあるんでしょうけども。帰ったらひさしぶりにグレⅡ二次書いてやろうとは思っています、はい。帰れたらですけど。せつないね。
 
 アベルは今日は来ませんでした。オレリーちゃんに「ソノコ、またきて、あした! あしたきて!」と昨日言われたので、乾いた髪の毛をひとつにまとめてお昼にお店へ向かいました。

「ソノコ、きた!」

 めちゃくちゃいい笑顔で迎えられました。「おにい、おにいいるから!」と手を引いてくれたテーブルにはトビくん。やだうれしい、プレゼントした服着てくれてる。ちょっとおっきい。「ひさしぶりー、元気だったー?」と声をかけたら、「うん、うん、ソノコは?」と聞いてくれる。「元気だよー、仕事も始めてねー」と、近況報告に花が咲きました。

「というわけでさあ、たぶん引っ越すことになるんだよねえ」

 ぐちっぽい話になってしまいました。でもわたしこういう話できる人ここにトビくん以外いないんで。ありがとうトビくん。だいすきトビくん。トビくんはちょっと考えながら、「……まだ五カ月くらい先だよね? ヤニックさんとか、他の社員さんとかに、ソノコが困ってるって伝える。だいじょうぶ、ちゃんといいところ見つかる」と言ってくれて。じーんとしました。じーん。

「トビくんやさしい、ありがとう。いろんな人が親切にしてくれて、ルミエラっていいところだなあってつくづく思ってる」
「それは、ソノコだからだよ」

 じっと目を見て言われました。やだイケメン。ショタイケメン。

「みんな、ソノコだから親切にするんだ。おれとか、ヤニックさんとかにはみんなしないよ。ソノコだからだ」
「おにいはね、ソノコをおにんぎょうさんってよぶのよ!」

 片付け物を運びながらオレリーちゃんが言い捨てて行きました。「ばか、なに言うんだよ!」とトビくんが真っ赤になります。「なになに、なんで? わたしお人形さんみたい?」と身を乗り出して聞きました。ええ、もう本当に前のめりで。

「うん……前に、仕事でヤニックさんに百貨店連れて行ってもらったときに見た、お人形さんみたいだ」
「かわいい?」
「かわいい」

 人前じゃなかったら抱きついていましたね、ええ。
 また今度いっしょにごはん食べようね、と言ったら、「今度っていつ?」と聞いてくれて。かわいい。

「じゃあ来週の今日」
「わかった、約束」

 握手して別れました。ほくほくで現場に戻って業務についたら、椅子の隣にアベルがしゃがんで「浮気反対」とつぶやきました。なに言ってんだこいつ。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...