【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
38 / 248
王都ルミエラ編

38話 にゃんこもかわいいですけどね

しおりを挟む
「――ご趣味は」
「最近はちょろミュラ観察ですかね」

 わたしが即答するとミュラさんが黙りこくりました。週末の王宮の入り口あたりの部屋です。背後から笑いの気配がありました。同席衛兵さんの心をつかめたようです。「――いろいろ言いたいことはありますが、ひとまずあなたのことではなく」とミュラさんがおっしゃいます。

「あの――麗しい御婦人のことです」
「あのうるわしいごふじん」

 若干ミュラさんがもじもじしています。無表情を作るのがとてもたいへんでした。唇を引き結んでも口角がどうしても上がります。どうしようおもしろい。ちょろミュラおもしろい。この空間にただふたりだけじゃなくてよかった。
 背後の衛兵さん。あなたはこの会話の証言者となるのです。そう、そして生き延びた際にはあまねく全地へと広く宣べ伝えるのです。ともにこの試練の時を乗り越えましょう。『絶対に笑ってはいけないinエリメダ宮』、始まります‼
 
「レア・バズレールさんという美しいお名前のあの方は、どんなご趣味をお持ちなのか、と」
「なんでそれわたしに聞くんですか」
「この前聞けなかったからに決まっているでしょう」

 やっぱり聞こうとしてた‼ ファインプレー出るところだった‼ おっしいいいいいいいいいいいい‼
 思わず舌打ちしてしまったわたしを見てミュラさんが眉をひそめます。すみません。わたしとしたことがぬかった。正しい観戦姿勢ではなかった。見守る者としての自覚が足りなくて申し訳ない。これからはすべてのプレーを好き嫌いせずありのままに正々堂々と出歯亀ることを誓います‼

「で、どうなんですか」

 わたしの望ましくない態度については不問にしてくださるようです。ちょろミュラさん心が広い。いやむしろ心に余裕がなさそう。がんばれ。わたしは少し考えるような素振りをしながら、重々しく口を開きました。

「――はたしてそれをわたしの口からお伝えしてよいものなのか、わたしには判断をつけかねます。それに、レアさんはきっと直接聞いてくれることを喜ぶのではないでしょうか」

 ミュラさんが驚愕の表情をします。なんで他人への聞き取り調査で自分のことを把握されるのを喜ぶ人がいると思っているんでしょうかこの人。ちょろい上にコミュ障か。そうなのか。それで王太子書記官は務まるんでしょうか。しっかりしろ。

「――しかし、それではお話するきっかけがつかめないではないですか……」
「え、むしろぜんぜん話したこともない人に、『やあ! 趣味は〇〇なんだってね!』って話しかけるつもりなんですか?」
「なにか問題が?」
「問題しかないですよ????」
「女性の感性は難しいですね……」
「わたしにはミュラさんの思考回路の方が複雑すぎて難しいです」
「不肖ながらルミエラ大学を卒業しました」
「そういうことじゃねえんだよなあ?」
 
 背後が音もなく騒がしいです。衛兵さんがんばれ。わたしは笑うよりもむしろつっこみスピリッツが湧いてきてしまいました。この人どうにかしなきゃ。じゃないとレアさんが挙動不審者に絡まれちゃう。そしてけんもほろろにあしらっちゃう。そうするとちょろミュラさんが打ちひしがれちゃう。……あれべつにそれでもいっか?

 とくにミュラさんに義理立てすることはないことに気づきました! でもおもしろいので煽っておこうと思います!

「いいですか、ミュラさん。女性というのは自分の個人情報が勝手に他の人の手に渡ることを好みません。まして、レアさんのような麗しい御婦人ならなおのことです」

 丸メガネの中の青い瞳が力を持ちました。多少背筋を伸ばして「伺いましょう」とミュラさんがおっしゃいます。

「そもそもここでこんな風に、レアさんのことでわたしたちが密談していること自体、いいことじゃありません。陰口とどう違うんですか。レアさんにしてみれば、内容関係なく『やだあ、きもちわるーい!』って感じですよ」

 すごくショックを受けています。青天が霹靂ったんでしょう。多少メガネが曇った気がします。わたしはかまわずに言葉を続けました。

「――なので、話の種がほしいというのであれば。……もうミュラさんは、レアさんの嗜好をご存じだと思います」

 ミュラさんの瞳が揺れます。めっちゃ動揺しています。「そ、それは、どういうことですか」としどろもどろです。

「アシモフたん」

 びくっとミュラさんの体が跳ねます。この人本当に機密事項とか扱う秘書官務ま(ry

「レアさんが溺愛している、レアさんのペットです。わたしがいっしょに住むときも、アシモフたん同居が条件でした」

 ミュラさんが猫派なのはこの前の反応でよくわかりましたとも。しかしね、レアさんスキスキーでもアシモフたん嫌ーとか、片手落ちもいいところですよ。詰めが甘いどころの話じゃありません。ので、「好きなものがいっしょという共通点があると、自然と会話ってはずみますよね」とダメ押ししつつ、はっきりと言いました。

「飼ってみたらどうですか。犬」

 ミュラさんが天を仰ぎました。おもろーい。そしてわたし性格わるーい。びっくりー。でも一番効果的だと思うんだよなあ、本当に。
 ミュラさんがなぜあそこまでわんこを怖がったのか理由はわかりません。でもとりあえず同じ空間にいるのはだいじょうぶそうでしたし。そもそもレアさん犬好きなのは本当ですし。レアさんとお近づきになりたいなら避けては通れぬよ、わんこ! がんばれ、ちょろミュラさん!

 帰るとき、衛兵さんがめっちゃにこにこしながら見送ってくれました。ねー、たのしかったねー、ミュラさん百面相。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...