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王都ルミエラ編
47話 ただの旅行だとおもいました?
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次の日。
朝からどたばたとしています。準備は抜かりなくしていたつもりですが、いざ長期間家を留守にするとなると、あれもこれもといろいろ確認しておかなきゃってなるもんですね。午前中いっぱい家のことで走り回りました。
そして。以前わたしはグレⅡ世界に蒸気機関車はないと言ったな。あれは嘘だ。ありました。ゲームに出てこなかっただけで。駅もわたしが住んでいた区ではなかっただけで、ちゃんと王都ルミエラにもありました。思い込み良くない! すみません。
ミュラさんが見送りに来てくださいました。手ずから蒸気自動車を運転して、駅まで送ってくださいます。オリヴィエ様は、あらかじめ見送れないことを詫びてくださり、「旅先の様子を教えてください」と言ってくださいました。なんと。文通。文通の約束です。しぬ。情緒がしぬ。ミュラさんはぜったい遊びに来てくださるっておっしゃってましたが、さすがにオリヴィエ様だとその明言は難しいらしくて。要人中の要人ですからね。しかたがないです。
冬季リーグの話も、詳しく教えてほしい、とお願いされてしまいました。「弟が……大のファピー好きでね」とおっしゃったのですが、なにそれ公式裏設定⁉ オリヴィエ様に弟君がいらっしゃる⁉ お兄さんはまあ、はい。いらっしゃるの知ってますけど。十四歳だそうです。ショタ版オリヴィエ様なんでしょうか。……滾りますね。どうにか一度でいいんで物陰からお姿拝見したいものです。
「ソノコー! 行けるー⁉」
自室の窓の鍵をしっかり確認して、カーテンを閉めました。レアさんがドアから覗いて声をかけてくれます。「はい、行けます!」と言ってから、わたしは前の家みたいに文机の頭に飾ってある子犬の置き物に、「じゃあ行ってくる! 留守は頼んだ!」と言いました。
レアさん、キョトンとした顔で「なあにい? なにに言ったの?」とおっしゃいました。
「うーんと。前の家にいたとき、プレゼントしてもらった子犬の小物です」
「……ふーん」
中に入ってきて、わたしの隣に立ってご覧になります。レアさんがちょっと黙ってから「だれがくれたの?」とひとこと静かにおっしゃったので、少しだけ迷ってから素直に言いました。
「前の家の、お隣りさんです」
きれいな沈黙が落ちました。きれいって感じたんです。レアさんが子犬を見つめながらちょっと口元だけ微笑んで、「……いいなあ」っておっしゃったんです。
ミュラさんが、「他になにか運ぶものはー?」と階下から声をかけてくれました。「ないでーす!」とわたしが応えました。レアさんはくるっと身を翻して、モデル顔負けのウォーキングで階段を降りて行かれます。わたしもそれに普通ウォーキングで続きました。
ミュラさんの自動車は、コンサートのときに乗った白リムジンもどきにちょっと似ていました。顔のあたり。同じメーカーなんだそうです。さすが高給取り。アシモフたんはコンバたんをたすき掛けで背負って、「なになに、どこ、どこ行くの⁉」って感じです。でも初めての自動車には軽くびびっていました。かわいい。イネスちゃんは何度も乗せてもらっているのか、助手席で慣れた様子です。彼女っぽい。ミュラさんはサンデードライバーなのかと思っていたらぜんぜんそんなことはなくて、すっごく運転お上手。意外な真実です。
区をみっつまたいでルミエラ駅へ。お昼のルミエラはどこも活気づいていて、人々は少し厚めのコートを羽織っていました。わたしたちも冬を迎えるコーデです。わたしは新調した冬靴を履いています。足首を覆えるブラウングレーのミドルブーツ。それに膝丈でアイボリーのダブルコート。レテソルは雪が積もらないっていう話でしたけど、いちおうね。レアさんはゴージャスに冬の女王って感じです。伝われ。
ミュラさんはホームまでわたしたちのバッグを持って見送りにきてくれました。なんか申し訳ないですね。イネスちゃんともここでお別れですが、たぶんアシモフたんはわかってません。「なに、なに、なにするの⁉」ってかんじでちょっとそわそわ。
今生の別れっていうわけじゃないのに、やっぱりなんだか物悲しくなるものですね。「ミュラさん……ありがとう。お世話になりました」としみじみ言うと、「なんですかそれ、帰って来ない気ですか」と真顔で返されました。いえ、そんなことはないんですけど。
ルミエラのお家は、ときどきミュラさんが見回ってくれるそうです。その他にセコムとかアルソックみたいなのにも加入したそうで。わたしは金目のものないですけどね。帰ってきたら大惨事、とか嫌ですもんね。
ホーム内ではどこでもお別れの空気がただよっていました。楽しそうであったり悲しそうであったり。いろんなドラマがありますね。
ミュラさんから荷物を受け取り、わたしたちも自分の車両に乗り込みます。レアさんが「ありがとっ」と言ってミュラさんのほっぺにちゅーしました。ミュラさんが銅像化しました。元気でね。
さて、マディア公爵領レテソル。グレⅡクロヴィスサイドのシナリオの土地。
なにができるとかわかりませんけど。レアさんがシナリオから弾かれて、たぶんジルが行くことになった理由があるはず。わたしは、そこでなにができるだろう。オリヴィエ様のために。
朝からどたばたとしています。準備は抜かりなくしていたつもりですが、いざ長期間家を留守にするとなると、あれもこれもといろいろ確認しておかなきゃってなるもんですね。午前中いっぱい家のことで走り回りました。
そして。以前わたしはグレⅡ世界に蒸気機関車はないと言ったな。あれは嘘だ。ありました。ゲームに出てこなかっただけで。駅もわたしが住んでいた区ではなかっただけで、ちゃんと王都ルミエラにもありました。思い込み良くない! すみません。
ミュラさんが見送りに来てくださいました。手ずから蒸気自動車を運転して、駅まで送ってくださいます。オリヴィエ様は、あらかじめ見送れないことを詫びてくださり、「旅先の様子を教えてください」と言ってくださいました。なんと。文通。文通の約束です。しぬ。情緒がしぬ。ミュラさんはぜったい遊びに来てくださるっておっしゃってましたが、さすがにオリヴィエ様だとその明言は難しいらしくて。要人中の要人ですからね。しかたがないです。
冬季リーグの話も、詳しく教えてほしい、とお願いされてしまいました。「弟が……大のファピー好きでね」とおっしゃったのですが、なにそれ公式裏設定⁉ オリヴィエ様に弟君がいらっしゃる⁉ お兄さんはまあ、はい。いらっしゃるの知ってますけど。十四歳だそうです。ショタ版オリヴィエ様なんでしょうか。……滾りますね。どうにか一度でいいんで物陰からお姿拝見したいものです。
「ソノコー! 行けるー⁉」
自室の窓の鍵をしっかり確認して、カーテンを閉めました。レアさんがドアから覗いて声をかけてくれます。「はい、行けます!」と言ってから、わたしは前の家みたいに文机の頭に飾ってある子犬の置き物に、「じゃあ行ってくる! 留守は頼んだ!」と言いました。
レアさん、キョトンとした顔で「なあにい? なにに言ったの?」とおっしゃいました。
「うーんと。前の家にいたとき、プレゼントしてもらった子犬の小物です」
「……ふーん」
中に入ってきて、わたしの隣に立ってご覧になります。レアさんがちょっと黙ってから「だれがくれたの?」とひとこと静かにおっしゃったので、少しだけ迷ってから素直に言いました。
「前の家の、お隣りさんです」
きれいな沈黙が落ちました。きれいって感じたんです。レアさんが子犬を見つめながらちょっと口元だけ微笑んで、「……いいなあ」っておっしゃったんです。
ミュラさんが、「他になにか運ぶものはー?」と階下から声をかけてくれました。「ないでーす!」とわたしが応えました。レアさんはくるっと身を翻して、モデル顔負けのウォーキングで階段を降りて行かれます。わたしもそれに普通ウォーキングで続きました。
ミュラさんの自動車は、コンサートのときに乗った白リムジンもどきにちょっと似ていました。顔のあたり。同じメーカーなんだそうです。さすが高給取り。アシモフたんはコンバたんをたすき掛けで背負って、「なになに、どこ、どこ行くの⁉」って感じです。でも初めての自動車には軽くびびっていました。かわいい。イネスちゃんは何度も乗せてもらっているのか、助手席で慣れた様子です。彼女っぽい。ミュラさんはサンデードライバーなのかと思っていたらぜんぜんそんなことはなくて、すっごく運転お上手。意外な真実です。
区をみっつまたいでルミエラ駅へ。お昼のルミエラはどこも活気づいていて、人々は少し厚めのコートを羽織っていました。わたしたちも冬を迎えるコーデです。わたしは新調した冬靴を履いています。足首を覆えるブラウングレーのミドルブーツ。それに膝丈でアイボリーのダブルコート。レテソルは雪が積もらないっていう話でしたけど、いちおうね。レアさんはゴージャスに冬の女王って感じです。伝われ。
ミュラさんはホームまでわたしたちのバッグを持って見送りにきてくれました。なんか申し訳ないですね。イネスちゃんともここでお別れですが、たぶんアシモフたんはわかってません。「なに、なに、なにするの⁉」ってかんじでちょっとそわそわ。
今生の別れっていうわけじゃないのに、やっぱりなんだか物悲しくなるものですね。「ミュラさん……ありがとう。お世話になりました」としみじみ言うと、「なんですかそれ、帰って来ない気ですか」と真顔で返されました。いえ、そんなことはないんですけど。
ルミエラのお家は、ときどきミュラさんが見回ってくれるそうです。その他にセコムとかアルソックみたいなのにも加入したそうで。わたしは金目のものないですけどね。帰ってきたら大惨事、とか嫌ですもんね。
ホーム内ではどこでもお別れの空気がただよっていました。楽しそうであったり悲しそうであったり。いろんなドラマがありますね。
ミュラさんから荷物を受け取り、わたしたちも自分の車両に乗り込みます。レアさんが「ありがとっ」と言ってミュラさんのほっぺにちゅーしました。ミュラさんが銅像化しました。元気でね。
さて、マディア公爵領レテソル。グレⅡクロヴィスサイドのシナリオの土地。
なにができるとかわかりませんけど。レアさんがシナリオから弾かれて、たぶんジルが行くことになった理由があるはず。わたしは、そこでなにができるだろう。オリヴィエ様のために。
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