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マディア公爵領編

51話 感動の再会ですよ……

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「これ、この靴。全色全サイズ持ってきて。ああ、その彼女が見ているものも」

 さすがです。さすが冬の女王から衣替えした夏秋の女王。もう店員さんが空気感で従っています。フィッティング用の椅子に優雅に腰掛けて、足元にずらりと靴が並ぶのを待っています。わたしも椅子を勧められました。座るとわたしの目の前の売り場の床にも次々と靴が並べられて行きます。手に持った靴のやり場を失いました。うかつに触るんじゃなかった。「お預かりします」と店員さんがおっしゃったので預けました。そしてしゃがんで店員さんがおっしゃいます。「フィッティングをしてよろしいですか?」と。はい、と答えました。
 なんと‼ 履いている靴を脱がしてくれて、まるでわたしがシンデレラみたいに商品の靴を履かせてくれました‼ ぎゃー、お姫様ごっこ‼ お金かかるお姫様ごっこ‼
 結局ですね、わたし群馬では22.5センチの足だったんですが、アウスリゼ基準では16だとわかりました。子どもサイズだそうです。でしょうね。同じフロアの他のお店ならすぐにそのサイズを用意できるとのことで、夏秋の女王のフィッティングが終わったらそちらへ、という流れになりました。え、べつにわたし靴買うって言ってないですけど????
 女王は七足お求めになったようです。サインひとつでキャッシュレスでお家に届けてくださるとかすてき。いつ出てくるんでしょうか「ここからここまでいただくわ」のセリフ。わくどきですね。
 群馬にいたときは、22.5センチは普通に売っていました。でもアウスリゼでそのサイズの大人靴を求めるのは難しいみたいです。わたしが以前仕事用に買った白いバレエシューズは、どうやらお子さま用だったみたいですね。どうりで売り場がちょっと離れていたわけです。そして小さい靴も売っているお店に行くと、もうすでに売り場全体が16サイズの靴で埋まっているのでした。女王の権力が強すぎる。
 レアさんが「かわいー! 似合うー!」って言ってくれたのを、『自分で』買いました。はい。なんでもレアさんのご厚意でいただけませんので。はい。赤エナメルのポインテッドトゥヒールなんですけど、つま先部分にバラの花っぽい型抜き模様が入ってるんですよ。通気性ばっちりで、レテソルでも履き回せます。かわいい。ちょっといいお買い物できて、気分上々です。
 で、その後もいろんなお店に寄りました。お洋服もそうなんですけど、お茶やコーヒーの専門店、それに諸外国の珍しいものを集めたお店。「ここからここまで」は食材店で発動しました。なにかレアさんの琴線に触れたみたいです。いっぺんじゃなくて毎週品を変えてすこしずつ届けてくれることになりました。オイシックスかな?
 ちなみに、いちおうわたし食費として毎月50リゼをレアさんにお支払いしています。ぜったい毎日のおいしいお食事はそれで賄えないんですけど。あんまり高く見積もってお渡しすると受け取ってもらえないんです。家賃すらまだ一度も受け取ってもらえてないですし。いいんでしょうかこんなんで。まあリシャールの懐から出ているお金でやりくりしているんでしょうけど。

 と、いうことで、お昼から午後にかけてお買い物を堪能しました。それなのに手ぶらです、さすがです‼ 女王のお買い物さすがです‼
 お茶をしにティールームへ行きました。そこで交通局でオープン戦チケットをもらってきたことをお伝えしたら、「最高ー! 行こう行こうー!」て言ってもらえました。で、キャンプ所見たいねー! てなって、かっこいい蒸気自動車に乗ってぶーんと現地に到着です。
 ファピー冬季リーグは、西地区と東地区に分かれていて、レテソルをキャンプ地にしているのはその中でも西地区三チームのうちふたつです。ひとつがコメッツブルーエーローズで、そこにラキルコンバタンのティモシー・ロージェル選手が所属しています。そちらに来ました。レアさんの推し選手のアウスリゼ代表ヴィクトル・ピトル選手は、今回冬季リーグには参加表明しなかったんですよね。残念。

 もう夕方ですが! めっちゃみんな自主トレみたいのしてます。さすがです。紅白戦みたいのはもう終わっちゃったみたいです。ブルペン見たいねー、と言って室内練習場に入りました。ら、並んでいます。二十人くらい。しかも入り口のところに案内板が出ていて、『見学は二十五分の完全入れ替え制です。係員の指示に従ってください』と。さすがだなあ、人気あるんだ。
 わたしたちの回で今日の見学は終わりでした。ティミー選手は見学席からは一番遠いところで投げ込みをされていて、人差し指くらいの大きさでしか見られませんでした。が、手前側の選手へ投手コーチが指導している声が聴こえたりして、めちゃくちゃたのしかったです。これですよこれ。試合とはまた違うライブ感。
 こうやってキャンプ所の見学ってじつは初めてなんですよねー。行ってみたいと常々思っていましたけど、普通の試合だってこれまであんまり現地へ見に行ったりもできませんでしたしね。そもそも冬季リーグって日本になかったですし(今年から沖縄でやるって言ってたよなー、今頃真っ最中かなあ)、こちらのファピーはちょっと野球とはルールも違うみたいですけども。でも応援する感覚は同じです。ぶっちゃけ勝っても負けてもたのしい‼ わりとミーハー観戦者なので。

 見学OKのキャンプ所なので、ちょっとした観光名所みたいな感じなんでしょうか。なんと入り口の通りに屋台がいくつか出ているんですよ。お昼しっかり食べちゃったんでお腹はすいてないですけど、せっかくなんで寄ってみました。お肉をなにかにぐるっと巻き付けて、炙ったようなやつ。握りこぶしくらいの大きさです。肉巻きっていう名前らしいです。まんまですね。レアさんはフランクフルトを買ってました。
 ベンチに向かい合って座って食べます。油紙に包まれてそのまま渡されたんですけど、かぶりつく感じでいいんでしょうか。レアさんはソーセージを噛んだときに肉汁が飛んで「あちっ」ってなってました。かわいい。で、わたしも肉巻きに噛みついたんです。思ったよりは柔らかくて、すぐに一口分噛み切れました。そして、そのまま硬直しました。

 ――これは……‼

 ゆっくりと噛みしめました。がっつきたかったですけどなんかもう感激でむせそうで。噛みついた断面に目を落としました。……白い。……泣く。泣きました。

「ちょ……ソノコ⁉ なに、だいじょうぶ⁉」

 レアさんが椅子から腰を浮かせました。すみません。もうずたぼろに泣けます。おいしい、ちょうおいしい。もぐもぐもぐもぐ。どれくらいぶりだろう。グレⅡ世界にはないと諦めていた。おいしい。……お米‼
 肉巻きって、肉巻きおにぎりでした。ごはん。しろいごはん。うれしい。レアさんがめっちゃおろおろしてますけど、もぐもぐをやめられませんでした。おいしい。ちょっと芯があるけど。おいしい。

「なに、お腹すいた? もっと買ってくる?」
「おいしくて……」

 鼻をすすりながらようやく応えました。おみやげに買って帰ろう。なんなら毎日このキャンプ来よう。そう思いながらもぐもぐしていたら、頭上から声がかかりました。

「――やあ、ソノコじゃないか! いったいどうしたんだい⁉」
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