56 / 248
マディア公爵領編
56話 MA JI KA ☆
しおりを挟む
――みなさん、罪を犯したことはありますか。
刑法で裁かれるもの、そうでないもの。表層に見えるもの、そうでないもの。日々わたしたちは、大きくても小さくても、罪を犯す。
たとえば、殺人。それはすべからく法律に則り扱われるべき罪。たとえば、偽証。それも明らかになれば裁かれるでしょう。たとえば、怠惰。それは罪に含まれますか? 自身の怠惰ゆえに生じた不利益は、あなたを咎めるでしょうか。……場合によってはあなたは罪に定められないでしょう。
そう。罪とは、とてもあやふやでありながら、そのじつ確かな手触りを持つ深みの泥濘。はまってしまえば、這い出せそうでそうではない。力を込めてあがけばあがくほど、深く沈み込んでしまう、泥濘。
わたしは、罪を犯しました。それはだれかにとっては笑い事で、だれかにとっては蔑むことで、だれかにとっては取るに足りないことなのでしょう。……知っています。
それでも。わたしは、罪を犯しました。そう告白します。そのあがきは、あるいはわたしの心のため。わたしの奥底にある気持ちの救済のため。――そうやって生きていくほかない。そう思ったことはありませんか。
……わたしは、嘆く。その泥濘の深さを思い。
「――たべものを粗末にしてしまったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
七回表のトイレタイムで、わたしは個室で叫びました。隣の個室からガタンと音がしました。もったいないおばけはアウスリゼにもいるのでしょうか。わかりません。生息区域ではない気がします。しかしそもそもが生息をしていない気もします。ということは区域も関係ないのではないでしょうか。まじか。……来る。きっと、来る。あああああああああああああ。
いえ信じてないですよ? べつにおばけとか。寝ぼけた人が見間違えたに決まっているじゃないですか。ははは。
手を洗っていると、肩になにかがそっと触れました。
「ぎゃああああああああああ」
「……なぜ?」
レアさんでした。まぎらわしいなあーもうー。今日はいっしょの部屋で寝る刑に処します。しかたないなあーもうー。
「下のお店に、おいしそうなの売ってた! 行こ!」
「いいですね~」
……三回裏に粗末にしてしまったお好みピザのお店でした。だよねー、おいしそうよねー、わかるー。さっきとは違う方向のお手洗いに来たはずなのにー。なんででしょうねー。スタジアムの造りがきっと左右対称なんですねー。はいー。
何人か並んでいたのでその後ろにつきます。レアさんが「なんかねー、さっきそこら辺にいた人が言ってたんだけどー」とおっしゃいました。
「四回くらい? のときにー、三塁側のプレミアムシートに居た子どもがー、誘拐未遂されたんだってー」
「……へええええええええ!」
「それでー、観客の黒髪女性が助けたらしいんだけどー、なんか名乗り出てないとかでー」
「ソウナンダー」
「なんか、被害者いいとこのお嬢様だったみたいよ? 尋ね人になるかもねー」
「ヘエエエエエエエ」
可及的速やかに帰宅したいです。いま三対三でめちゃくちゃこの後気になりますけど。そんな民間のごたごたに関わっているヒマはわたしにはないわけですよ。わたしにはグレⅡシナリオを書き換えるという使命があるのです。はい。とりあえず席に戻ってお好みピザを食べました。んまい。チーズたっぷりのもちもちお好み焼きっぽいピザでした。結果は引き分けで延長戦にもつれ込んだのですが(ファピーは七回で終了ですが、オープン戦でも延長戦はやるみたいです)、最後までいたら帰りの道が渋滞になりそうですねーみたいなことを言ったら、「あらあ、そうねえ。結果は新聞でわかるし、今のうちに帰っちゃう?」とレアさんがおっしゃいました。よっしゃ。売店でコメッツブルーエーローズのティミー選手のユニフォーム……は売り切れだったので、この前練習場でいっしょに肉巻きおにぎりを食べた、背番号24番リュシアン・ポミエ選手のを買いました。いっぱいありました。
やっぱりわたしたちみたいに早めに帰ろうとされる方は少なくないみたいです。駐車場へ向かう人がけっこういました。なにごともなくぶーんとお家に帰りました。ぶーん。
アシモフたんが荒ぶっていました。ちょっとお出かけでひとりにしすぎたでしょうか。お庭で遊ぼー、とマディア父さんを使って言ってもご機嫌を直してくれません。お怒りが解けるのを待ちましょう。
いっしょにごはんを作りながら、レアさんに今日は三階の屋根裏部屋で一緒に寝ましょうと提案しました。きょとん、としてから「いいわねえ! そうしよう!」と言ってくれました。やった。
おはようございます! 昨日はお布団を三階に持ち寄って、キャンプみたいにレアさんといっしょに寝ました。朝起きたらアシモフたんもいました。かわいい。ついでにお布団干そうかなーと思ってルーフバルコニーに出ました。めっちゃ広いんですよ、たぶんダンスパーティができる。嘘です、できません。ああー、新しい朝が来た感じがしますねー。希望の朝ですねー。端っこの日だまりに、にゃんこが丸まっていました。黒にゃんこ。にゃんこー。なにも興味なさそうにそっぽを向きながらちょっとずつ近づいていくと、なにもかもを見透かしたかのような瞳でじっと見つめられました。ちょっと心をえぐられました。そっぽ向いたまんま撫でようと手を伸ばしたらすっと歩いて行ってしまいました。つれない。ねこ太さんつれない。
布団を干しました。レアさんもごそごそ起きていらして、「あたしもー」とおっしゃって隣に干しました。風も強くないのでこのままでだいじょうぶだと思います。
ところでラ・リバティ新聞社はこちらにも支店があって、そこから朝刊を配達していただいています。顔を洗ってから外のポストまで新聞を取りに行きました。ちょうどお隣のポールくんがお散歩から帰って来たところだったのでごあいさつ。おはようございますー。
レアさんがちゃっちゃと手早く朝食の用意をしてくれていました。「ソノコー、昨日の試合の結果なんて書いてあるー?」と聞かれたので、スポーツ欄を見ようと新聞を開きました。
で、そのまま硬直しました。
----------
休日の午後にあらわれた黒髪の天使‼
――少女を救って球場を去った、女性の素性を探る――
----------
刑法で裁かれるもの、そうでないもの。表層に見えるもの、そうでないもの。日々わたしたちは、大きくても小さくても、罪を犯す。
たとえば、殺人。それはすべからく法律に則り扱われるべき罪。たとえば、偽証。それも明らかになれば裁かれるでしょう。たとえば、怠惰。それは罪に含まれますか? 自身の怠惰ゆえに生じた不利益は、あなたを咎めるでしょうか。……場合によってはあなたは罪に定められないでしょう。
そう。罪とは、とてもあやふやでありながら、そのじつ確かな手触りを持つ深みの泥濘。はまってしまえば、這い出せそうでそうではない。力を込めてあがけばあがくほど、深く沈み込んでしまう、泥濘。
わたしは、罪を犯しました。それはだれかにとっては笑い事で、だれかにとっては蔑むことで、だれかにとっては取るに足りないことなのでしょう。……知っています。
それでも。わたしは、罪を犯しました。そう告白します。そのあがきは、あるいはわたしの心のため。わたしの奥底にある気持ちの救済のため。――そうやって生きていくほかない。そう思ったことはありませんか。
……わたしは、嘆く。その泥濘の深さを思い。
「――たべものを粗末にしてしまったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
七回表のトイレタイムで、わたしは個室で叫びました。隣の個室からガタンと音がしました。もったいないおばけはアウスリゼにもいるのでしょうか。わかりません。生息区域ではない気がします。しかしそもそもが生息をしていない気もします。ということは区域も関係ないのではないでしょうか。まじか。……来る。きっと、来る。あああああああああああああ。
いえ信じてないですよ? べつにおばけとか。寝ぼけた人が見間違えたに決まっているじゃないですか。ははは。
手を洗っていると、肩になにかがそっと触れました。
「ぎゃああああああああああ」
「……なぜ?」
レアさんでした。まぎらわしいなあーもうー。今日はいっしょの部屋で寝る刑に処します。しかたないなあーもうー。
「下のお店に、おいしそうなの売ってた! 行こ!」
「いいですね~」
……三回裏に粗末にしてしまったお好みピザのお店でした。だよねー、おいしそうよねー、わかるー。さっきとは違う方向のお手洗いに来たはずなのにー。なんででしょうねー。スタジアムの造りがきっと左右対称なんですねー。はいー。
何人か並んでいたのでその後ろにつきます。レアさんが「なんかねー、さっきそこら辺にいた人が言ってたんだけどー」とおっしゃいました。
「四回くらい? のときにー、三塁側のプレミアムシートに居た子どもがー、誘拐未遂されたんだってー」
「……へええええええええ!」
「それでー、観客の黒髪女性が助けたらしいんだけどー、なんか名乗り出てないとかでー」
「ソウナンダー」
「なんか、被害者いいとこのお嬢様だったみたいよ? 尋ね人になるかもねー」
「ヘエエエエエエエ」
可及的速やかに帰宅したいです。いま三対三でめちゃくちゃこの後気になりますけど。そんな民間のごたごたに関わっているヒマはわたしにはないわけですよ。わたしにはグレⅡシナリオを書き換えるという使命があるのです。はい。とりあえず席に戻ってお好みピザを食べました。んまい。チーズたっぷりのもちもちお好み焼きっぽいピザでした。結果は引き分けで延長戦にもつれ込んだのですが(ファピーは七回で終了ですが、オープン戦でも延長戦はやるみたいです)、最後までいたら帰りの道が渋滞になりそうですねーみたいなことを言ったら、「あらあ、そうねえ。結果は新聞でわかるし、今のうちに帰っちゃう?」とレアさんがおっしゃいました。よっしゃ。売店でコメッツブルーエーローズのティミー選手のユニフォーム……は売り切れだったので、この前練習場でいっしょに肉巻きおにぎりを食べた、背番号24番リュシアン・ポミエ選手のを買いました。いっぱいありました。
やっぱりわたしたちみたいに早めに帰ろうとされる方は少なくないみたいです。駐車場へ向かう人がけっこういました。なにごともなくぶーんとお家に帰りました。ぶーん。
アシモフたんが荒ぶっていました。ちょっとお出かけでひとりにしすぎたでしょうか。お庭で遊ぼー、とマディア父さんを使って言ってもご機嫌を直してくれません。お怒りが解けるのを待ちましょう。
いっしょにごはんを作りながら、レアさんに今日は三階の屋根裏部屋で一緒に寝ましょうと提案しました。きょとん、としてから「いいわねえ! そうしよう!」と言ってくれました。やった。
おはようございます! 昨日はお布団を三階に持ち寄って、キャンプみたいにレアさんといっしょに寝ました。朝起きたらアシモフたんもいました。かわいい。ついでにお布団干そうかなーと思ってルーフバルコニーに出ました。めっちゃ広いんですよ、たぶんダンスパーティができる。嘘です、できません。ああー、新しい朝が来た感じがしますねー。希望の朝ですねー。端っこの日だまりに、にゃんこが丸まっていました。黒にゃんこ。にゃんこー。なにも興味なさそうにそっぽを向きながらちょっとずつ近づいていくと、なにもかもを見透かしたかのような瞳でじっと見つめられました。ちょっと心をえぐられました。そっぽ向いたまんま撫でようと手を伸ばしたらすっと歩いて行ってしまいました。つれない。ねこ太さんつれない。
布団を干しました。レアさんもごそごそ起きていらして、「あたしもー」とおっしゃって隣に干しました。風も強くないのでこのままでだいじょうぶだと思います。
ところでラ・リバティ新聞社はこちらにも支店があって、そこから朝刊を配達していただいています。顔を洗ってから外のポストまで新聞を取りに行きました。ちょうどお隣のポールくんがお散歩から帰って来たところだったのでごあいさつ。おはようございますー。
レアさんがちゃっちゃと手早く朝食の用意をしてくれていました。「ソノコー、昨日の試合の結果なんて書いてあるー?」と聞かれたので、スポーツ欄を見ようと新聞を開きました。
で、そのまま硬直しました。
----------
休日の午後にあらわれた黒髪の天使‼
――少女を救って球場を去った、女性の素性を探る――
----------
3
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる