【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 領境の街・リッカー=ポルカ

68話 わたしそこまで権力ありませんが?

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「……なにやってんのよソノコ」

 コラリーさんが行く! と宣言されると、他のお三方も青ざめ思い詰めた表情で「……じゃあ、あたしらも、行くよ」とおっしゃいました。わたしひとりで練り歩こうと思っていたんですけど、思わぬ収穫です!
 で、わたしを筆頭にふりふりスカートのまま玄関を出て、階段を降りたわけです。そのままGO! と思っていたら、アシモフたんをリードにつないでお散歩しているレアさんに遭遇しました。交通局に行ったらわたしがこちらにいるって言われて、来てみたんだそうです。サングラス越しでもわかる、この残念そうな眼差し!

「ちょっと……ソノコ、そしてマダムたち? 見過ごせないわ。服に着られてるじゃない」

 はい。すみませんまさしくその通りです。とくにわたしはコラリーさんの服を借りていますのでね! で、「ちょっと直してあげるわ、見てらんない!」ということになって、一階のお店にみんなで入りました。アシモフたんはお外。レアさんのファッションチェックが入りました。

「そちらの黒髪のマダム。あなた背が高いんだから、背筋伸ばしてしゃんとして。それにあなたはつぶらな瞳で鼻が小さいから、そもそも大きな柄より色がはっきりした小花柄の方が似合うわ。そちらの、背の低い赤髪のマダム。あなたは丸顔だから、首元にふりふりを持ってきてはだめ。すっきりさせて、縦の流れを作りましょう。それでこなれた感が出るわ。そして白髪のあなた。こんなかわいい服にひっつめなんてありえないわ! せっかくきれいな白髪なんだから、髪もかわいくすべきよ! そして差し色で緑がほしいわね」

 レアさんがてきぱきと指示します。わたしはコラリーさんに頼まれて、言われたアイテムなどを二階から何度も取ってきました。お三方がかわいい服を『着る』場面を目撃しました。壁の鏡の前へみんなで行ったり来たりして、「あらやだあ、なんか都会の人みたいだわあ」「ただ着てただけだったもんねえ」「ちょっと見てよ、なんかあたし痩せて見えない⁉」と嬉しげです。
 で、コラリーさん。レアさんは彼女に向き直ると「……素敵じゃない、マダム?」とにやっと笑いました。

「――当然。枯れてもタツキよ」

 あとで教わったんですけど、ことわざみたいです。『タツキ』という多年草のお花があるらしくて。香りがとてもいいそうなんですが、しおれてしまってもそこにタツキがあるのがわかるくらいだそうで。腐っても鯛みたいな言葉みたいです。はい。

「枯れたタツキにも水をあげましょうよ。真っ赤な口紅……似合うと思うわ」

 ちょっと考えてから、コラリーさんはわたしへ「ソナコ。あのね、奥の部屋。右奥よ。鏡台の右の引き出し。そこにね、口紅があるから」とおっしゃいました。はいはい、少々お待ちください。
 たぶん古いものだと思います。スティック型のじゃなくて、指でぬるタイプの。中を確認したら落ち着いた赤色で、少しだけ残っていました。大事にとってあったのかな。なんだか、そんな気がします。
 コラリーさんが鏡を見ながらゆっくりと唇に色を乗せました。それだけで、やさしい感じのおばあちゃんが女優みたいなオーラを持った女性へと変身しました。すごい。お化粧マジックすごい。

「コリちゃん、きれいだわー!」
「なんか昔みたいねー!」

 みんなきゃっきゃします。かわいい。かわいい服を着られて、よろこんでいるマダムたちかわいい。なんとなくわたしが感動していると、目前にずいっとレアさんが現れました。

「問題は……あなたよソノコ! 服に着られているどころか、襲われているじゃない!」

 ということで、こねくりまわされました。はい。かわいくなりました。ありがとうございます。

「じゃ、行ってきます!」

 意気揚々と領境警備隊派出所へ向かおうとしたら、やっぱりみなさんついてこられるようでした。レアさんだけ「あたしは行かないわよ!」とおっしゃって、アシモフたんのリードを取ってどこかへ行ってしまいました。むー。自分だけふりふりじゃないのがお気に召さなかったんでしょうか。
 わたしとコラリーさんはすたすたてくてく。お三方はそろそろびくびく。でもその後ろ姿をレアさんに「背筋伸ばす! おどおどしない!」と遠巻きに激を入れられて、ぴっと胸を張ったのでした。
 そもそも、人通りがありません。ので、人目を気にするようなものでもないのですが、ずっと反対されてきた服を着て外を歩くというのはどうしたって怖いことなのでしょう。みなさん寄り添うように手を取り合って、きっと声なく励まし合ってもいるんでしょう。この国で、この街で失うものもないわたしは堂々としていられます。ので、手を振って元気に歩きました。
 街の中心に来ると、何人かの人影はありました。ことさら目立つようなことはしませんけど、怯える必要だってありません。

「こーんにーちはー!」

 領境警備隊派出所に来て中に声をかけました。当番の警備隊員さんがびくっとしました。

「えーっと……はい。こんにちは」

 コブクロさんじゃありませんでした。知らない方。ので、「コブクロさんに寄るようにって言われて来ました」と言うと、「コブクロ? だれ?」と言われてしまいました。

「ブグローさんよ。こちらはソナコ・ミタ。なにか言付けはないかしら?」

 女優オーラでコラリーさんがおっしゃいました。園子です。「ああ、はい……」とわたしたち全員を順繰りに眺めて微妙な表情で警備隊員さんは気のないあいづちをしました。

「領境警備隊基地の見学をご希望の方……っていうのはどなたなんでしょうか」
「わたしです!」

 ぴっとわたしが右手を挙げると、なぜか他のみなさんも挙げました。なぜ。「ええええええ……」と警備隊員さんが引いてます。「そういや、見に行ったことなかったわー」「そうよねー、近くにあると思うとねー、なかなかねー」「見てみたいわー。せっかくおしゃれしてきたし!」と、みなさんとってもかしましい。そうだよねー、お気に入りの服着たらおでかけしたいよねー。わかるー。

「あの……ちょっと想定していない人数で……たぶんちょっとむりっていうか……」
「なんでさ! あたしらリッカー=ポルカの住人だよ!」
「えーと……常時だとですね、だいじょうぶだったんですけど……」
「なんか不都合でもあるっていうの?」
「えっいやそういうわけでは決して!」
「じゃあいいじゃないの」

 ふりふり着こなしマダムたちに取り囲まれて、警備隊員さんちょっと泣きそう。「ええと、あの! 俺が言われていたのひとりなので! 二人乗り馬車で来ちゃったので!」と名断り文句をおっしゃいました。うまい! 座布団四枚!

「あらあ、残念」とコラリーさんがおっしゃいました。で、にっこり笑って「ソナコ、交通局に話つけてよ。蒸気バス乗ってみたいから、領境警備隊基地まで出してくださいって」とのたまいました。あー、なるほど?
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