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 領境の街・リッカー=ポルカ

79話 せっかくだからたのしみましょう

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 朝食後、トーナメント第一巡目の試合がありました。食堂を片付けテーブルを五つの島にして、一斉にスタート。いちおうハルハル正規ルールにのっとってやるとのことで、手が空いている人がジャッジに入ります。わたし、ハルハルは四並べしかしたことないので、突貫でルールを教えていただきました。ほとんどポーカーみたいな感じです。ポーカーじゃなくてチャーコというそうです。
 ちなみにハルハルなんですが、数字は十までで、絵札はなくて柄が五種類です。丸( サーク )に逆三角形( トリー )、Lっぽい形( エール )、Wっぽい形( ドーヴ )、Xっぽい形( イクス )。その他にジョーカーみたいなお助けカードが四枚で、全五十四枚。トランプって何枚でしたっけ。おんなじくらいですかね。
 そもそもポーカーもろくにやったことがないので、手札をどう揃えればいいのか勘がつかめません。おろおろプレイしたら無事一回戦敗退しました。はい。なので、ちょっとだけ寝に行きました。すみません、寝不足なんです。
 二時間弱くらい寝たころに、「ソノコぉ、なんで寝てるのよお」とレアさんが起こしに来ました。お外の雪の勢いが弱くなって来ています。これならアシモフたんを外に出してあげられそうですかね。「アシモフたん、お散歩いきましょうかー」「そうしましょう。このノリ、もううんざりよ!」といかにもうんざりそうにレアさんがおっしゃいました。でしょうね。つきあわせてすみません。
 アシモフたんは、それなりにたくさんの方が気にかけて、いろんな名前をつけて呼んでかまってくれるので退屈しないですんでいるみたいです。ありがとうございます。ちなみに今はチャッキーって呼ばれていました。とても不吉ですね。お返事しないでアシモフたん。
 外に出ます。まぶしっ! ちょうまぶしっ! 雪に乱反射した光まぶしっ! 積もったなあああああ。アシモフたんはいつもだったら走り回るのに、今はポカーンと外の様子を見ています。積もった雪は初めて見るもんねー。ちょっと歩きます。止まります。ちょっと歩きます。止まります。足が雪に埋もれて足跡がつくことに気づいたみたいです。うさぎみたいに全身でぴょんと前へ飛びました。もう一回ぴょん。さらにぴょん。ずぼっとハマる感覚がふしぎなんですかね。アシモフたんのぴょん跡が増えていきました。かわいい。ちょうかわいい。そのうちぴょんしたところの雪が深くて埋もれました。白わんこなので見えなくなります。が、そこからの雪遊びのはっちゃけがすごかったです。本当にわんこって雪好きですよね。かわいい。
 ちょっとお散歩に外へーと言うには雪が積もり過ぎていますね。レアさんも「……閉じ込められたわ」と絶望的な響きの声をあげました。何人かの合宿参加者さんたちも玄関から出て来て、「いやー積もったねえ」「かくかねえ」「そうだなあ。ベリテさんに雪かきスコップどこにあるか聞いてくるわー」「わんころたのしそうでいいなあ」と口々におっしゃいました。そしてときどきアシモフたんが邪魔する中のスーパー流れ作業。アシモフたんは完全に遊んでもらっていると思っています。かわいい。お手伝いの名乗りを上げるまでもありませんでした。さすがすぎる。ついでにレアさんの自動車と蒸気バスの雪下ろしもしてくださいました。ありがとう。
 もうこのまま晴れてくれるでしょうか。空を見上げると薄雲が太陽にかかっています。祈るような気持ちでそれを見ました。
 日が高くなるころにはトーナメント表の真ん中くらいまで進んでいました。お昼を食べたら準決勝だそうです。ほとんど想定通りの方が勝ち進んでいます。千手めくりのベレニスさん、参加嫌がっていたのに手は抜かないレアさん、サルちゃん、それにじつは強かったおじーさんバーさん。
 お昼ごはんもおいしそうです。昨日のうちに仕込んであったというパン種でふっかふかのパン。クラムチャウダーっぽいスープ。わたしはちょっと食堂を避けて、部屋へ配膳を持っていきました。ノックがあったので応じたら、レアさんでした。ひさしぶりに二人でお食事です。

「ソノコー。無理するんじゃないわよ」

 もくもくと味わっていたら、ぽつりとそう言われました。なんでもお見通しだなあ、レアさんは。「はいー。むりしないで部屋こもりお昼です!」と言うと、「そうねー。ずっとここにいたら?」と言われました。うーん。どうしようかなあ。
 レアさんは女王の近寄りがたさを最大限に活かして、わたしがみんなの前にいるときはそばにいてかばってくれていました。わたしもそれに甘えています。今朝、リッカー=ポルカに来てからはわりと忘れていられた感覚が、むくっと起き上がって来てしまいました。忘れていたのも接するのがご高齢の方が多かったからじゃないかな、となんとなく思います。……わたし、やっぱりこわい。男性に好意を向けられるの、怖い。
 わたしの接し方が馴れ馴れしかったんでしょうか。なにか誤解を生んでしまったのでしょうか。笑顔を心がけたのがいけなかったんでしょうか。どこかで見られていたんでしょうか。ぐるぐるとそんなことを考えてしまいます。何回も通った道で、主治医のリゼット・フォーコネ先生とも、何度も何度も話し合いました。わたしは悪くない。……だいじょうぶ。
 深呼吸をしました。スープの香りが気持ちをなだめてくれます。またむりそうになったら、レアさんに甘えて、アシモフたんをモフろう。そうしよう。

「いえ……戻ります。レアさんのかっこいいところ見なきゃ」
「そう? じゃあ、いいところ見せなきゃね」

 レアさんはぜったいこうしなよ、って言いません。いつもわたしの決定を尊重してくれます。いつかちゃんと、ありがとうを伝えなきゃ。
 配膳を片付けに戻りました。ベリテさんは忙しくしているし、主要なマダムたちもお手伝いしているし、わたしのそばにはレアさんがいるので、だれも話しかけて来ません。このまま乗り切れたらいいなあ。チラチラと好奇の視線を感じながら、そんなことを考えました。そこへやってきたのは、千手めくりのベレニスさん。レアさんに対峙します。

「――次の対戦相手のベレニスだよ。お嬢さん、なかなかいい腕してるらしいじゃないか」

 レアさんはその言葉をにっと笑って受けました。

「あなたもね、ベレニスさん。リッカー=ポルカ一のハルハル遣いとの呼び声は伊達じゃなさそうだわ」

 千手めくりの他にもあったんですね呼び方! これ他にも異名持ちの方いるんじゃないでしょうか。漆黒のなんちゃらとか。片翼のうんちゃらとか。知らんけど。二人はスポーツマンシップみたいのにのっとって握手しました。両者互いの力量を認めあったいい笑顔です。そして、そのままハルハル準決勝・千手めくりのベレニス対女王レア戦、はじまります!
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