【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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『三田園子』という人

195話 レシピぐぐんなきゃ……

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 翌日。勇二兄さんの運転で、一希兄さんを空港まで見送りに行きました。わたしは昨日のうちに手紙を書いて、一希兄さんへ渡しました。ちょっと驚いていらして。「機内で読むよ、ありがとう」と言ってくれました。お互いに「元気で」と言ってハグして、お別れしました。
 さすがに、ちょっとさみしいっていう気持ちになりました。一希兄さんが乗り込んだ飛行機の離陸を見送ったときはとくに。勇二兄さんは、いつもこんな気持ちで一希兄さんを送っていたのかな。小さくなって行く機体を無言で見上げる横顔に、そんなことを考えました。

「――園子は」

 駐車場へと向かって歩いているときに呼びかけられたので、次の言葉を待ちました。空耳だったのかと思うくらい間があいてから「いつ、行くの」と言われました。

「そんなに……遅くならないうちに」

 ノーコメントでした。ただ、ちょっと歩く速度が早くなって。どこか叱られているような、弁解したいような、そんな気持ちになってその背中を追いかけました。
 助手席に乗って。午前中の早い時間には混み合っていた駐車場も、帰りはスムーズに出られました。無言の空気が重くて、どうしたらいいのかわたしにはわかりませんでした。そして八丁堀のマンションに着くまで、ずっとそのままでした。

「じゃ」

 ひとこと、そう言われました。わたしがシートベルトを外して降りると、すぐに発進します。見送った車体の後ろ姿すら、わたしを拒んでいるように見えました。
 部屋に戻ってから、昨日小田原で金子家の光也くんからもらった動画をPCでかけました。なつかしかった。何箇所もスクショして、コンビニコピー機で写真にしました。他にも、この前撮ってもらった『家族写真』や、カメラロールにあったたくさんの思い出も。そうしている間に、一希兄さんからメールが届きました。そうだ、もらったテキストも印刷しなくちゃ。二時間近くコピー機を独占してしまいましたが、待ち人はいなかったのでだいじょうぶだと思います。はい。
 ちょっと歩いて百円ショップへ向かって、写真用のファイルを三冊とクリアホルダーを買って、ファイリングしました。適当に買ってきてあった食べ物で簡単なお昼にしていたら、知らない携帯番号から電話がありました。

「はい」
『はーい、園子ちゃん。げんき~?』

 真くんさんでした。『なんで電番知ってるの~とかはとりあえず置いといて』と置いときたくないことを置いとかれました。

『あのねー。ちょっと僕、今怒ってるの』
「えっ」

 風の音が聞こえます。外からかけてるんでしょうか。声の笑顔ではあるんですけど、たしかに怒ってるようにも聞こえる感じ。わたしなんかやっちゃいましたか。真くんさんは『単刀直入に言うけど。飛ぶ鳥跡を濁さずって言葉知ってる?』とおっしゃいました。

「はい、知ってます」
『じゃあさ、そうして。嫁に行くなら行くで、勇二にあんな顔させないで』

 どんな顔でしょうか。……わたしはさっき、見ることができなかった。
 真くんさんは言葉を続けて、『――僕はね、もちろん園子ちゃんは園子ちゃんの人生歩めばいいと思ってるよ。応援してる。そして、勇二も勇二の人生を歩めばいいと思ってる。でもさ、こんだけ勇二を揺さぶって、夢中にさせてさ。ぽいってするの?』とおっしゃいました。なにそれわたしなんか悪女みたいじゃん。

『僕はね、知ってるの。勇二が君のことどんだけ思っていたか。出してなかった手紙みたいなクソデカ感情、どんだけ持ってるか』

 パーポーパーポーと、緊急車両の音が聞こえました。わたしはなんて返したらいいのかわからなくて、とりあえず相づちを打つことしかできません。べつに、夢中にさせたつもりも、ぽいってしたつもりもありません。でもきっと、勇二兄さんの友人だからこそ、見えているものがあるんだろうな、と思いました。

『――わかるよ、君にとっては、NARUTOが譲歩で、示せる愛情だったんだ。それ以上を君に求めるのは、きっとムリなんだろう。僕、君は勇二に似ているって思っていたけど、専務にもそっくりなんだなってわかったよ。あのさー、なんでそんな、あいさつひとつで割り切って遠く行こうとすんの? 自分のこと思って悲しむ人がいるかもしれないって考えないの?』

 わたしはあいまいに「はい」としか言えなくて、真くんさんの言葉をきっと半分も理解できていなくて、でも重要なことを言われている自覚はあって、どうしていいのかわからない。なので、正直に「わたし、どうしたらいいんでしょうか」とお尋ねしました。

『もっかい話してよ。勇二と。腹割って。二人だけで。時間の問題じゃないんだ。いっしょに長く居たとか居なかった、とかじゃないんだ。君は確かにあいつの大切な人で、あいつは君をまた喪うのを怖がってる。素敵だよね、〝家族になった日〟』

 いっしょに長く居た時間としては、きっと真くんさんが一番なんでしょう。だからこんな風に勇二兄さんについて怒ることができるんだろうな。それはとてもすごいことだと思ったし、わたしはその言葉をちゃんと聞かなければならない、と思いました。

『――でもさ、来年のその日、祝うときあいつひとりなの? 家族だってキレイに言っておきながら、結局言葉だけなの? それ、勇二が出せなかったこじらせクソデカ感情と同じくらい無責任で厄介で独りよがりだって気づいてる?』

 その通りだな、と思ったので、「その通りですね」と言いました。言われてすっきりしました。わたしが深いため息をつくと、真くんさんは『他人の家の事情に踏み込みすぎなのはわかってるけどね。どうしてもひとこと言いたかったんだ。ごめんね』とおっしゃいました。

「――いえ。ありがとうございます。……勇二兄さんのために怒ってくださって、ありがとうございます」

 わたしはそう言ってから、「勇二兄さんは、真くんさんといっしょに居られて、すごく安心しているんだろうなと思いました」と伝えました。真くんさんはちょっと黙ってから、『殴られてばっかだけど』とおっしゃいました。
 お互いあいさつをして、通話を切りました。そして、勇二兄さんへコール。七回目のコール音で『もしもし』と聞こえました。

「……あのね。勇二兄さん。好きな食べ物はなに?」
『……なに、突然』
「兄さんみたいに上手じゃないけど。……今度はわたしが兄さんの好きなもの作るから。いっしょに食べよう」

 どうしたらいいのかな。ちょっとわかんなくて。ただ、今朝一希兄さんを見送った横顔を思い出して。ああ今、あんな顔してるんだ、と思いました。
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