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私、フリージア・マトリカリアは治癒魔法を使えません。

いきなり何を言うのかと思われるでしょうが、治癒魔法を使えることが私の家では一番大切なことなのです。

私はマトリカリア伯爵家の長女として15年前に生まれました。

マトリカリア家は神々に祝福されていて、結婚して最初に子供が出来る時は必ず『胸元に十字の聖痕を持った長女』が生まれます。私も例外ではなく胸に聖痕があります。

この聖痕を持つものは他に類を見ない優秀な治癒魔法の素質を持つため、マトリカリア家は代々王国軍の衛生兵団長を務める名家として名を残してきました。

そのため、その長女が代々家督を受け継ぎ、魔力容量の豊富な男性を婿に迎えています。

私のお母様、歴代でも有数の才能に恵まれたカトレア・マトリカリアも王国軍の衛生兵団長を務め、同じ衛生兵団で怪我人や回復薬の移送を担当していたお父様と結婚して私が生まれました。

そんなお母様から聖痕を持って生まれたにも関わらず、私は10歳になっても初級の治癒魔法ひとつ使うことができませんでした。
10歳といえば、治癒魔法等の魔法の種別に限らず、貴族の子供達が魔法学校に通い始める歳です。それなのに私は入学試験すら受けることができないのです。

落ち込んでいる私にお母様は「貴女にはとても素晴らしい治癒魔法の素質があるわ。だから今は焦らなくて良いの」と優しく言い聞かせてくれました。お父様もそれをにこにこしながら聞いていて、そんな優しいお母様とお父様に囲まれて、私は幸せな生活を送っていました。

私が12歳の時、お母様が従軍先で突然命を落とすまでは。

魔獣の討伐に従軍したお母様の衛生兵小隊は、前衛の討伐部隊が討ち漏らした魔獣の攻撃を受けてしまい、現場は惨憺たる有様だったそうで、お母様の遺体は帰って来ませんでした。

お父様は酷く悲しまれたのか、後から回収されたお母様の遺品を全て焼いてしまいましたが、私はどうしてもとお父様にお願いして、お母様が大切にいつも身に付けていた指輪だけを遺していただきました。

その後、お父様はマトリカリア伯爵家に次ぐ治癒魔法の名家ハイドランジア侯爵家から未亡人となっていたアザレア様を後妻として迎えました。
アザレア様にはガーベラという私より一つ歳下の娘がいて、私は新しいお義母様と義妹と一緒に暮らすことになりました。
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