伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

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ルピナス様の怪我の具合はとても重篤なものでした。診療台の上で横に寝かされたまま、どこか痛むのか苦しそうにずっと呻いています。

診療所には昼間の髭のおじさんとライラックさんと私がいます。手狭なので他の方には外に出ていただきました。

とても服を脱がせれる状態ではなかったのでライラックさんが服の前面をハサミで切ると、ルピナス様の脇腹は打ち身のようになっていて、広範囲に紫色に変色していました。

「手足が折れている部分があるが、この脇腹の傷は内出血している。恐らく内臓をやられていて致命傷だ。いったい何があったのか知らないが……」

ライラックさんは致命傷と言いました。恐らくお手上げ状態なのでしょう。顔には焦りが見られます。

「ライラックよ、治せないでは困るのだ。このお方はアドニス王国第一王子ルピナス・ウルスラ・アドニス様。もし何かあればお前もこの村もただでは済まないぞ」

「貴方が殿下などと呼ぶから、そのようなことだろうと思ってはいたが」

髭のおじさんはとんでもないことを言いました。ルピナス様が王子様だったのは想定の範囲内ですが、勝手に怪我人を連れてきて、治せなかったら村やライラックさんのせいだなんて。

「そんなのおかしいじゃないですか」

「やめなさい。脅しでもなんでもなく本当のことだ。そして言ってる本人もただでは済まないんだ。君とて市井の人間じゃないのだから理解できるはずだ」

私が不満を示しましたが、ライラックさん自身がその理不尽を肯定しました。彼は私を貴族だと見抜いていました。そして、恐らく自身もそうなのでしょう。

「こちらはアドニス王国の軍務大臣サージェント・ハイペリカム侯爵だ。恐らく、この第一王子の後見人をしているのだろう」

「昼間にたまたま見つけたのでライラックなら或いはと思ったのだが、お前でも無理なのか」

サージェント様を紹介されましたが、彼は私を見ることもなくそう言いました。それは良いのですが、随分とライラックさんを買っているようです。

「既に私の手持ちで一番効果の高い特級ポーションを服用させてあるが全く効いていない。ここまでの容体だと伝説のエリキシルくらいの薬ではないと治せない」

「エリキシルって何ですか?」

「日食の日に険しい山頂に咲く花の花弁だとか、そんな手に入れるのが不可能な物をいろいろ混ぜて作る伝説の回復薬だ。そんなものが本当に作れるなら私はアイリスを失うことは無かった」

アイリスさんは亡くなったライラックさんの奥様です。彼は奥様を亡くしてここに移住してきたくらいなので、本当に入手不可能な薬なのでしょう。

「ライラック、この娘は何故かこの場いるがお前の弟子か」

サージェント様が胡散臭そうに私を見ています。他の方は追い出しているので無理もないかもしれません。

「フリージアはたまたまここに転がり込んで来ただけで薬品の調合は教えていない。彼女は私と違って治癒魔法を使えるのでいろいろ手伝ってもらっている」

「治癒魔法だと?フリージアと言ったな。其方も試してみては貰えぬか」

侯爵様のお願いとなるとほとんど命令です。私も失敗したら処罰されるのでしょうか。やるしかないのでしょうけど。

「私じゃなくてこのお母様の形見の指輪が治癒魔法の効果があるマジックアイテムなのです。今まで黙っていて申し訳ありません」

「そうだったのか。いくら魔法を解放しても無くならないマジックアイテムなんて聞いたこともないが、君も試してみてくれないか」

私は言われるままルピナス様の横に立ちました。すると、聞いていたのか横で声がしました。

「助けてくれ……」

「殿下!喋ってはなりませぬ」

サージェント様が驚いています。死相の出ているルピナス様が言葉を発しているのです。

「私はまだ死ぬわけにいかないんだ。お願いだ、助けてくれ……ゴホッ」

ルピナス様は吐血しました。ここで長く働かせてもらいましたが、こんな酷い患者は来たことがないので私が気を失いそうです。
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