17 / 39
17 ルピナス視点
しおりを挟む
私はルピナス・ウルスラ・アドニス。アドニス王国の第一王子だ。今年で21歳になる。
狩猟の途中で落馬して大怪我をしたところ、運び込まれた村の診療所でフリージアにパーフェクトヒールの魔法で命を救われた。
命の恩人である彼女には感謝しているのだけど、同時に彼女の持つ力で我々の抱える問題を解決できるのではないかと思った。
現在、私の父である現国王が病床に伏せている。父はまだ48歳の若さなのだが病状が割と深刻なため、私と腹違いの弟ラムサスの間で後継者争いが勃発しているのだ。
それはお互いの母の実家であるディセントラ公爵家とハイペリカム侯爵家の間で以前から続く確執の延長線上にあり、多くの貴族達を巻き込む内乱になりつつあった。
そんな事をしていては国力を低下させるだけで、喜ぶのは隣国だけだ。早くも国境沿いに他国の偵察隊が現れたという報告も受けており、事態の収束は急務となっていた。
しかし、私自身や支援してくれる者の為にも、私は身を引くわけにはいかない。
もしそんな中で父が回復してくれれば、全ての問題が一旦解決するのだ。
その為にフリージアを王都に連れて行き、その絶大な治癒魔法の力を借りたかった。
それは王国の安定につながる大切なことだ。
私が言うのもなんだがラムサスは普段から素行が悪く、あまり国王の器とは言えない。父上もそれはわかっていたのか、後見人の爵位が侯爵家と劣るにも関わらず私を王太子と決めていたようだ。だからこそ、父が倒れたこの急場に、絶好の機会と焦っていろいろ画策しているのだ。
既に、私と繋がる貴族にディセントラ公爵家からの圧力がかかりラムサス側に付いたと聞いた。軍部を掌握するハイペリカム侯爵家と深い関わりのあるハイドランジア侯爵家とマトリカリア伯爵家だ。
両家はどちらも治癒魔法の名家で、王国軍の衛生兵団の役職の多くを担っている。彼ら無くしては王国軍は成り立たないだろう。特にマトリカリア伯爵家は聖女が生まれる家系で、当主である聖女が代々の衛生兵団長を務めていた。
元々、この家督争いが無くてもディセントラ公爵は私の後見人であるハイペリカム侯爵家の力を削ぐ為、この両家を取り込む工作に余念が無かった。
4年前、私の母と懇意にしていたマトリカリア当主のカトレア・マトリカリア伯爵夫人が衛生兵団長としての任務中に命を落とした。調査団によると、軍部からの依頼ではない杜撰な魔獣討伐の計画が浮き彫りとなり、そこにはディセントラ公爵家の関与が疑われた。
権力争いの為に王国の宝であるマトリカリアの聖女を害する所業にサージェントは怒り狂っていたが、確かな証拠があるわけでもなく、権勢を振るうディセントラ公爵家相手に泣き寝入りするしか無かった。
聖女の力を失ったマトリカリア伯爵家はハイドランジア侯爵家に取り込まれてしまった。そして、父上が倒れた今になって、そのハイドランジア侯爵がラムサス側に付いたのだ。
ハイドランジア侯爵家は既に王国衛生兵団を牛耳っており、軍部もハイドランジア侯爵家やその背後にいるディセントラ公爵家に伺いを立てないと戦争ひとつできない状況に追い込まれていた。
今回はこれが見事に災いして、私の旗色は随分と悪くなった。
それはさておき、フリージアを王都に連れ帰ろうとしたら、穏やかな彼女に酷く取り乱して拒絶されてしまった。
彼女にその理由を聞かされた時、私とサージェントは顔を見合わせるしかなかった。
彼女の父親とハイドランジアの女の不貞はともかく、その他のことについてはマトリカリア伯爵家が王国内の権力争いのとばっちりを受け、それが全て彼女に降りかかっているのだ。
彼女の母親の死から始まった、ハイドランジア侯爵家によるマトリカリア伯爵家の乗っ取りについては、乗っ取り工作だとは彼女も彼女の父親も気づいていないだろうが、十中八九ディセントラ公爵家が裏で糸を引いているはずだ。
ハイペリカム侯爵家当主のサージェントとしては責任を感じずにはいられないだろう。そして、ラムサス陣営に隙を見せた私の甘さがこのような事態を引き起こしていることを痛感させられた。
フリージアには力を借りたいが、彼女は絶対に守らなくてはならない。私はあまり策を弄すのを好まないが、今回ばかりは知恵を尽くしてフリージアに害を成す勢力を一網打尽にしようと思う。
城に戻った私はサージェントと打ち合わせをし、彼には申し訳ないが早急に馬車と護衛を用意してフリージアを迎えに行くように指示した。
フリージアに危険が及ばないように上手くやらないといけない。所詮は政治的な駆け引きでしかないが、それが命を救ってくれた彼女への恩返しにもなるのだから。
狩猟の途中で落馬して大怪我をしたところ、運び込まれた村の診療所でフリージアにパーフェクトヒールの魔法で命を救われた。
命の恩人である彼女には感謝しているのだけど、同時に彼女の持つ力で我々の抱える問題を解決できるのではないかと思った。
現在、私の父である現国王が病床に伏せている。父はまだ48歳の若さなのだが病状が割と深刻なため、私と腹違いの弟ラムサスの間で後継者争いが勃発しているのだ。
それはお互いの母の実家であるディセントラ公爵家とハイペリカム侯爵家の間で以前から続く確執の延長線上にあり、多くの貴族達を巻き込む内乱になりつつあった。
そんな事をしていては国力を低下させるだけで、喜ぶのは隣国だけだ。早くも国境沿いに他国の偵察隊が現れたという報告も受けており、事態の収束は急務となっていた。
しかし、私自身や支援してくれる者の為にも、私は身を引くわけにはいかない。
もしそんな中で父が回復してくれれば、全ての問題が一旦解決するのだ。
その為にフリージアを王都に連れて行き、その絶大な治癒魔法の力を借りたかった。
それは王国の安定につながる大切なことだ。
私が言うのもなんだがラムサスは普段から素行が悪く、あまり国王の器とは言えない。父上もそれはわかっていたのか、後見人の爵位が侯爵家と劣るにも関わらず私を王太子と決めていたようだ。だからこそ、父が倒れたこの急場に、絶好の機会と焦っていろいろ画策しているのだ。
既に、私と繋がる貴族にディセントラ公爵家からの圧力がかかりラムサス側に付いたと聞いた。軍部を掌握するハイペリカム侯爵家と深い関わりのあるハイドランジア侯爵家とマトリカリア伯爵家だ。
両家はどちらも治癒魔法の名家で、王国軍の衛生兵団の役職の多くを担っている。彼ら無くしては王国軍は成り立たないだろう。特にマトリカリア伯爵家は聖女が生まれる家系で、当主である聖女が代々の衛生兵団長を務めていた。
元々、この家督争いが無くてもディセントラ公爵は私の後見人であるハイペリカム侯爵家の力を削ぐ為、この両家を取り込む工作に余念が無かった。
4年前、私の母と懇意にしていたマトリカリア当主のカトレア・マトリカリア伯爵夫人が衛生兵団長としての任務中に命を落とした。調査団によると、軍部からの依頼ではない杜撰な魔獣討伐の計画が浮き彫りとなり、そこにはディセントラ公爵家の関与が疑われた。
権力争いの為に王国の宝であるマトリカリアの聖女を害する所業にサージェントは怒り狂っていたが、確かな証拠があるわけでもなく、権勢を振るうディセントラ公爵家相手に泣き寝入りするしか無かった。
聖女の力を失ったマトリカリア伯爵家はハイドランジア侯爵家に取り込まれてしまった。そして、父上が倒れた今になって、そのハイドランジア侯爵がラムサス側に付いたのだ。
ハイドランジア侯爵家は既に王国衛生兵団を牛耳っており、軍部もハイドランジア侯爵家やその背後にいるディセントラ公爵家に伺いを立てないと戦争ひとつできない状況に追い込まれていた。
今回はこれが見事に災いして、私の旗色は随分と悪くなった。
それはさておき、フリージアを王都に連れ帰ろうとしたら、穏やかな彼女に酷く取り乱して拒絶されてしまった。
彼女にその理由を聞かされた時、私とサージェントは顔を見合わせるしかなかった。
彼女の父親とハイドランジアの女の不貞はともかく、その他のことについてはマトリカリア伯爵家が王国内の権力争いのとばっちりを受け、それが全て彼女に降りかかっているのだ。
彼女の母親の死から始まった、ハイドランジア侯爵家によるマトリカリア伯爵家の乗っ取りについては、乗っ取り工作だとは彼女も彼女の父親も気づいていないだろうが、十中八九ディセントラ公爵家が裏で糸を引いているはずだ。
ハイペリカム侯爵家当主のサージェントとしては責任を感じずにはいられないだろう。そして、ラムサス陣営に隙を見せた私の甘さがこのような事態を引き起こしていることを痛感させられた。
フリージアには力を借りたいが、彼女は絶対に守らなくてはならない。私はあまり策を弄すのを好まないが、今回ばかりは知恵を尽くしてフリージアに害を成す勢力を一網打尽にしようと思う。
城に戻った私はサージェントと打ち合わせをし、彼には申し訳ないが早急に馬車と護衛を用意してフリージアを迎えに行くように指示した。
フリージアに危険が及ばないように上手くやらないといけない。所詮は政治的な駆け引きでしかないが、それが命を救ってくれた彼女への恩返しにもなるのだから。
15
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。
しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。
王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。
絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。
彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。
誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。
荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。
一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。
王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。
しかし、アリシアは冷たく拒否。
「私はもう、あなたの聖女ではありません」
そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。
「俺がお前を守る。永遠に離さない」
勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動……
追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる