伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

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陛下を治癒して廊下に出てから、私はずっと俯いたまま拳を握っていました。私を殺そうとした人達の顔をまともに見ることが恐かったからです。

彼らが私にどのような気持ちでそんなことをしたのか理解できません。強いて言えば私が今抱いている、彼らを受け入れられない感情がそういったものなのかもしれませんけど。

ルピナス様やサージェント様がお父様の罪を追求しています。お父様とは16年間も一緒に過ごしてきましたが、私は最近まで彼の本性に全く気が付きませんでした。

いったいいつから、血を分けた娘とは言えない、まるで物のように私は見られていたのでしょうか。
最初にお母様を裏切った時でしょうか、それともお母様が亡くなった時でしょうか。もしかしたら、最近変貌しただけ?今となっては確認する気もしませんが考えるのが辛いです。

「おお!フリージア!」

悶々と考えていると、どこかに引き立てられるお父様が近くで叫んでいました。

「あんな素晴らしい治癒魔法を使いこなすなんて、流石は私とカトレアの愛する娘だ!もう私を助けることができるのはお前だけなんだ!たった二人きりの家族じゃないか。ルピナス殿下に私の助命をお願いしてくれ!」

私はその声が恐くて耳を塞ぎたくなりました。

ぽんと私の肩に手が置かれました。誰かと思ったらライラックさんでした。

「彼はもう帰らないだろうが、それだけのことをしたのだ。君がそれを後ろめたく思う必要は無い。もし出来るなら決別の言葉でも伝えておけばいい」

私を裏切ったお父様が罰を受けることについては何とも思いませんが、言われてみるとお父様にお別れくらいは言いたかったのかもしれません。言わなければ後悔すると思います。

私は顔を上げてお父様を真っ直ぐに見ました。なんというか酷く醜悪な面構えで、少し気後れしてしまいます。彼はそんな私を見ると期待するように目を大きく開いて身を乗り出しました。

「今回のこともお母様のことも決して許すことはできません。でも、今まで育ててくれた事は感謝しています。さようなら、お父様」

そう言うと、自然と彼らから目を背ける必要が無くなった気がします。
恩知らずなどと喚き散らしながらお父様は連れて行かれました。

「この嘘つき!」

連れて行かれるお父様を見ていると横から声がしました。他人を腹の底から憎悪するような声です。
泣き腫らして髪を乱したガーベラがそこにいました。

「あんた、あんな治癒魔法を使えることを隠して私達を嘲笑っていたのね。あんたがそんなつまらないことをしなければ、誰もこんなことをしようなんて思わなかったわ」

彼女は完全に何か勘違いしていますが、私のことを憎しみを込めて睨む瞳に気圧されて何も言えません。

「私は生まれた時からあんたに全てを奪われていたのよ!そして努力して掴み取った幸せもあんたに奪われたわ!あんたが憎い……絶対に許さない」

彼女はそう言うと嗚咽を漏らしながら母親と共に連れて行かれました。私は最後までガーベラを直視することができませんでした。

その生い立ちから彼女は苦労していたのでしょう。ガーベラの存在はいろいろな意味で私を苦しめましたが、私の存在もまた彼女を苦しめていたというのは、やるせない気持ちになります。

絶対に許さないと言われましたけど、力は隠していた訳ではありませんし、全てはお父様のしたことなのに私はどうすれば良かったのでしょうか。憎しみをぶつけられ、私は途方に暮れてしまいました。

ハイドランジア侯爵様も連れて行かれ、辺りは静寂に包まれました。私を苦しめたあの出来事が終結を迎えたのです。喜びは全くありませんけど。

「フリージア、本当にありがとう。ルピナスに続いて陛下まで貴女に救ってもらいました。もはや貴女の恩義に報いる方法が思いつきません」

私がすっかり沈んでいると、マリーゴールド様がそう言ってくれました。そうでした、私に力があったことを喜んでくれる人もいるのです。

私のことをお母様の娘として認めて、私の命を狙っていた連中から守ってくれたので、それで充分だとお伝えしました。
せっかく人の命を救えたのに、ガーベラのことで気が削げていたのが大きいですけど。

「フリージア、私からも改めて礼をいうよ。君はそう言うが、君の立場を保証したのは国として当たり前のことだから」

ルピナス様にそう言われても、相変わらず成り行きでこうなっただけですし、マトリカリアでの出来事があまりに酷かったので、こちらが助けられたという気持ちが強くて何かを望む気になりません。

そう考えていると、身体がものすごくだるいことに気がつきました。後ろ向きなのもそのせいかもしれません。

「パーフェクトヒールの魔力消費で顔色が悪い。私達の荷物はハイペリカム侯爵家の屋敷に置いてきたし、一度下がらせてもらってはどうだろうか」

ライラックさんが私の顔を見てそう言ってくれたので助かりました。

「それならば暫くはライラックと一緒に私の屋敷に滞在してくれてよい。ライラックも自分の屋敷には帰りたくないのだろう?」

「自分の家に顔だけは出すつもりですが、そうさせていただけると助かります」

サージェント様とライラックさんはそんなやり取りをしています。それを見て、マリーゴールド様は少し不満そうにしていました。

「別に王宮に泊まっていけばよろしいのに。じゃあ私も今日はハイペリカムのお屋敷に泊まりにいこうかしら」

「馬鹿者。其方は陛下の側にいるがよい」

サージェント様が眉をひそめると、マリーゴールド様は頬を膨らませていました。私は随分と気に入られたみたいです。
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