おっさん寮母爆誕!〜鬼の騎士団長からお茶目で可愛い寮母になります!〜

丸井まー(旧:まー)

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3:騎士団長の空回り

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 レオがうとうとと微睡んでいると、寮内放送が響き渡った。


『起床ーー!! とっとと起きろ! ねぼすけ共! 朝の鍛錬の時間だ! 気合を入れて鍛錬してこいっ! 以上!』


 反射的にバッと飛び起きたレオは、大きな溜め息を吐いた。朝っぱらから心臓に悪い。長年の想い人の声を朝から聞けることを喜ぶべきか、騎士団長権限でこの心臓に悪い朝の放送をやめさせるべきか、悩ましいところである。

 レオは手早く身支度をすると、槍を持って訓練場へと向かった。朝の鍛錬は騎士団長に就任してからも毎日参加している。若い者達に混ざって基礎鍛錬をしてから、得物が槍である者を中心に扱き倒す。
 朝の鍛錬が終わるまで、レオは真剣に槍を振るった。

 自室でシャワーを浴びて着替えてから食堂に行くと、長年の想い人であるルーカスがいた。
 白髪が少し混じった長い黒髪を一つの三つ編みにしており、胸元に『寮母』と刺繍された白いエプロンを着けている。大怪我を負った一年前に比べたら少し痩せたが、猛禽のような印象を抱く美しく凛々しい顔立ちも鋭く光る濃い緑色の瞳も変わらない。今年で四十八歳になるとは思えない程若々しく見える。

 緊張でじわじわ痛む胃のあたりを擦りながらルーカスの元へ行けば、ルーカスが無言でお盆を手渡してきた。
 昨夜、まさかの恋人ではなかったという事実が判明しちゃったせいで、昨日は殆ど眠れていない。ずっとめそめそ泣いていた。
 レオの顔を見たルーカスが、眉間に皺を寄せた。


「おい。睡眠はきっちりとれ。健康な肉体は栄養満点の食事と十分な睡眠からだぞ」

「あ、はい。……んん。ルーカス様。次の休みはいつですか?」

「騎士達の母に休みなどない」

「雇用契約上、必ず休暇がある筈ですが」

「…………明後日だが」

「明後日ですね。朝に部屋に伺います」

「絶対に来るな。勘違い野郎」

「絶対に伺いますね! では!」


 レオはうきうきとテーブルに向かい、朝食を食べ始めながら、明後日を休みにするための算段を頭の中で考え始めた。急ぎの書類を今日中に終わらせればなんとかなる。魔物が出没して出撃にならなければ、ルーカスをデートに誘える。

 レオはルーカスに惚れて、かれこれ二十年になる。
 レオは男爵家の三男だ。叔父が騎士で槍の名手と名高かった。レオは子供の頃から叔父が大好きで、叔父に槍を教えてもらい、自然と騎士を目指すようになった。
 騎士学校を卒業してから白狼騎士団に入団して、すぐにルーカスの存在を知った。
 ルーカスは獣のように美しく、そしてなにより強かった。
 同じ隊になったことはなかったが、ルーカスの噂はよく耳にしていたし、『他人よりも自分に厳しい高潔な騎士だ』と評判のルーカスに興味を持っていた。

 ルーカスに恋をしたと自覚したのは二十年前の秋頃である。
 たまたまレオが所属していた部隊とルーカスが隊長をしていた部隊が合同で出撃し、レオは間近でルーカスの戦う姿を見た。雄々しい声を上げながら魔物を次々と屠るルーカスは美しくて頼もしく、レオはルーカスに恋をした。
 それから、ルーカスの隣に行きたいが為に、槍の稽古を益々熱心に行った。騎士学校は主席で卒業できたので、事務仕事もできる。ルーカスの副隊長になりたくて、自信を持ってルーカスの隣に立てるよう、ひたすら努力を続けた。

 ルーカスが騎士団長に就任すると、レオは副騎士団長を目指して、またひたすら努力を重ねた。その間に隊長となり、ルーカスと接する機会が増えた。ルーカスはとても厳しく、影で『鬼の騎士団長』と呼ばれていたが、その厳しさは皆が生きて帰る為のものだということは分かっていた。

 前任の副団長からの推薦で副団長となり、ルーカスの隣に立てるようになった。レオはルーカスの為に、毎日毎日必死で頑張りながら、ルーカスを支えて、一緒に戦えることに喜びを感じていた。
 想いを口にすることはできなかったが、それでもよかった。
 一年半前、ルーカスと一緒に酒を飲み、流れでセックスをした。ルーカスは自分でアナルを弄っていたようだが、セックスをするのは初めてだった。
 レオはルーカスに夢中になり、これでやっと念願の恋人になれたと浮かれた。

 ルーカスと恋人になっても、仕事は今まで以上にきっちりやる。恋に浮かれて仕事を疎かにするような者はルーカスに相応しくない。レオは副団長として、やれるだけのことをずっとやり続けていた。すべては恋人であるルーカスを支える為である。

 ルーカスが右足を失う大怪我を負った時は、心臓が止まるかと思った。若い騎士を庇ってのことだった。
 ルーカスに騎士団長を任されたレオは、動揺する騎士達を叱咤して、我武者羅に頑張った。
 ルーカスの生命が助かり、街の療養所で静養し始めると、レオは忙しい仕事の合間に手紙を書いて送った。精一杯愛を込めて綴った手紙に返事がくることはなかった。

 レオは鬼気迫る勢いで書類を捌きながら、明後日のデートが楽しみで内心うきうきしていた。ずっとルーカスと恋人だと思っていたが、それは単なる勘違いだった。昨夜はショックでめそめそ泣いてしまったが、これから恋人になればいいだけである。
 ルーカスの隣はレオだけのものだ。そう思える程度には自信がついている。
 レオは夕食の時間まで、書類を捌き、鍛錬をして、平和に終わった一日に感謝しつつ、ルーカスがいる食堂へと向かった。

 翌々日。心臓に悪い寮内放送で起こされたレオは、いそいそと洒落た私服に着替えようとした。が、直後に魔物出没の寮内放送があり、急いで騎士服に着替えて、槍を持って部屋を出た。
 足早に寮のすぐ近くにある砦の会議室に向かい、確認されている魔物の種類や数を聞き、出撃する部隊の隊長に指示をして、レオ自身も出撃することにした。
 森から出てきた魔物は少々知恵が回る厄介なもので、しかも数がそれなりに多かった。
 レオは急いで愛馬に乗ると、騎士達と共に森へ向かって駆け出した。

 魔物を全て殲滅できたのは、次の日の夕方だった。休まず戦い続けていた。幸いにも死人は出なかったが、怪我人がそこそこ出た。
 レオは油断なく砦へと戻り、事後処理をしてから、深夜遅くに疲れた身体で寮へと戻った。

 共用風呂で無傷や軽傷だった騎士達と風呂に入り、食堂へ行けば、知らせを受けていたのか、ルーカスがカウンターの内側にいて、腕を組んで仁王立ちしていた。
 美味しそうな匂いが漂っている。まともな食事がとれなかったので、腹が空腹を訴え始めた。
 先に若い騎士達に食事を取りに行かせ、レオは最後にルーカスの元へ行った。


「怪我は」

「俺は無傷です。死者はいませんし、重傷者も少なかったです。皆、怪我が治れば問題なく復帰できます」

「そうか。よく頑張った」

「ありがとうございます」

「しっかり食って寝ろ。次の出撃がいつになるのかは誰にも分からない」

「はい」

「レオ」

「はい」

「騎士団長として、成すべきことを成せ」

「はっ!」

「俺の自慢の副団長だったんだ。お前なら十二分に騎士団長としてやっていける」

「ルーカス様……」


 ルーカスがふっと微かに笑った。殆ど笑うことがない人だから珍しい。今夜にでもルーカスの部屋に突撃したいが、残念ながらそれなりに疲れているし、ルーカスが言うとおり、次の出撃がいつなのかは分からない。
 レオはテーブルに向かって温かい食事をゆっくり食べながら、次のルーカスの休みこそはデートをすると胸に誓った。
 また魔物が出没しやがったら、全速力で殲滅して、デートをしてやる。
 遅い夕食を食べきったレオは、ルーカスにお盆を手渡し、まずはしっかり休息をとるために自室に向かった。


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