もふもふ族長様のお嫁殿

丸井まー(旧:まー)

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10:美味しい鳥

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 子作り期間が終わり、六日が経った。
 ナルは日中は主にツェツェルにくっついて、山の家での家事を習っている。
 今日は洗濯をする日だ。集落を流れる小川でせっせと洗濯していると、近くに中年の女獣人が来て、洗濯を始めた。
 ナルは愛想よく笑い、朝の挨拶をした。


「おはようございます! 今日はいい天気だから洗濯物がよく乾きそうですね」

「お、おはようございます……え、えぇ。そうね」


 中年の女獣人が驚いた顔をして、しどろもどろな感じで返事をしてくれた。
 洗い終わった服をぎゅうっと絞り、洗濯物を入れてきた大きな木の盥に入れる。洗濯が終わると、中年の女獣人に愛想よく『お先でーす』と言ってから、ツェツェルと一緒に家に戻った。

 庭に張った太い縄に洗濯物を干しながら、ふと空を見上げると、鳥が何羽か飛んでいた。あの飛ぶ高さならば矢が届く。
 ナルはツェツェルに声をかけた。


「かか様。あの鳥は食べられますか?」

「……あぁ。汁物にしても、芋と煮ても美味しい」

「獲っても大丈夫ですか!? 食べたいです!」

「え? あなたが獲るの?」

「はい!」

「……別に獲っても大丈夫だけど……」

「やった! すいません! ちょっと弓矢取ってきます!」


 ナルはにひっと笑い、バタバタと自室に向かって、嫁入り道具の箱から弓と矢筒を取り出した。
 バタバタと走って庭に戻れば、まだ鳥が上空にいる。ナルは素早く腰に下げた矢筒から矢を引き抜くと、弓を構えて弦を強く引き、狙いを定めて矢を放った。
 一羽の下腹部あたりに矢が刺さったのを見ると、また素早く矢を抜き取り、すぐ近くを飛んでいる鳥に向かって矢を放つ。
 矢は狙い通りに飛んでいき、鳥の腹部に命中した。
 ぼとっ、ぼとっ、と地面に二羽の鳥が落ちてくる。

 まだ息がある鳥の首をぼきっと折り、ナルは満面の笑みを浮かべてツェツェルへ鳥を見せた。


「かか様! 獲れました! 美味しい料理の仕方を教えてください!」

「……弓が得意って本当だったの」

「ふふん。私はこう見えて、里でも上位に入る腕前でした!」

「あなた、ほんとに予想外な子ね」

「そうですか? 獣人族は強い者が尊ばれるって聞いてたので、十五の時から頑張って鍛えまくっただけです」

「その時点で規格外だわ。きっと」

「えー?」

「洗濯物を干したら、鳥の羽を毟る。この鳥は早めに料理にした方が美味しい。今日の昼餉にする。出汁がすごくでるから、二羽もあれば汁物も芋の煮物もできる」

「おぉ! それは嬉しいです! ちゃちゃっと洗濯物を干しちゃいましょう」

「えぇ……あなたって面白い子ね。ドゥルグンが気にいる理由が分かった気がする」

「え? 私ってドゥルグン殿に気に入られてます?」

「ものすごく。髪が美しいから他の者に見せたくないだなんて、独占欲丸出しだもの」

「言われてみれば? これはもしやおしどり夫婦と呼ばれる日も近いのでは!? どう思います!? かか様!」

「さあ? それはあなた達次第」

「ですよねー。うん。おしどり夫婦になるべく嫁修行を頑張ります!」


 ナルはツェツェルと一緒に手早く洗濯物を干すと、庭先で鳥の羽を毟った。鳥の羽も使い道があるらしいので袋に入れてとっておく。
 掃除の前に炊事場に移動して、竈に火を起こし、早速鳥を捌き始める。里にいた時も鳥を獲ったりしていたので、鳥もちゃんと捌ける。
 サクサク捌いていると、ツェツェルが小さく笑った。


「あなた、なんでもやろうとするのね」

「新しいことに挑戦するのは楽しいですよ」

「そう。きれいに捌けてる。とても上手。煮物用のは一口大に切って。汁物用は薄めに」

「はい!」

「芋は皮を剥いて軽く下茹でをしてから、鳥と一緒に煮ていく。味付けは塩をほんの少しだけ。鳥の旨味と芋の旨味で十分美味しくなる」

「この芋は畑で育ててるやつですか?」

「いえ。芋が採れる時期に山に採りに行く。恵みの時期が終わって暫く経った頃」

「あ、もうすぐ恵みの時期ですね。食料を少しでも多めに蓄えておく方がいいなら、この辺りを飛んでる鳥で良ければ獲ります。……勝手に山の中に行ったらドゥルグン殿に怒られそうなので」

「間違いなく怒る。なにより危ない。山は恵みをもたらしてくれる。同時にとても怖い所。山の中に行きたい時は、必ずドゥルグンと一緒でないと駄目」

「はぁい。あ、肉切り終わりました」

「汁物用のをそっちの鍋に入れて。そこの籠に入っている濃い緑の葉っぱを刻んで入れて。それから茜色の根菜も薄切りにして入れて」

「はい! 煮物の方からいい匂いがするぅ。……お腹空いてきました」

「朝餉を食べて、まだそう時間が経ってないのに」

「美味しそうな匂いなんですもーん」

「これは一度冷ました方が味が馴染んで美味しい。摘み食いは厳禁」

「うぅっ……誘惑に耐えますっ!」

「そうして」


 鳥の汁物と芋との煮物が出来上がると、バタバタと手分けして家の掃除をした。今日は洗濯の日だったので、明日は寝床の毛皮を干す日だ。
 昼餉が汁物と煮物だけでは足りないので、追加で昼餉の支度をする。薄味の獣人族の料理は存外口に合う。というか、ツェツェルが料理上手なのだろう。ツェツェルが作ると、本当になんでも美味しい。
 ナルはツェツェルから少しでも多く学ぼうと積極的に質問しながら、一緒に昼餉を作り上げた。

 昼時になると、畑や山に行っていたドゥルグン達が家に戻ってきた。
 囲炉裏がある部屋にうきうきと昼餉を運ぶと、鳥と芋の煮物を見たバトボルドが首を傾げた。


「おい。ドゥルグン。お前、こいつを狩ったか?」

「いや。俺ではない」

「ゲレルにはまだ難しいものだ」

「あ、私が獲りました! 美味しいとかか様から聞いて食べたかったので!」


 ドゥルグン達がきょとんとした顔でナルを見てきた。その後、無言でツェツェルを見た三人に、ツェツェルが頷いてみせた。


「本当にナルが弓矢で獲った。それも二羽連続」

「弓は得意な方です! どやぁ」


 男三人が驚いた顔をした。ゲレルが近寄ってきて、ナルの服の袖をちょんと掴んだ。


「ナルあに様。弓教えて。俺も穫れるようになりたい」

「いいよー。あ、いいですか? ドゥルグン殿」

「構わん。現実として、ここにあるのだから。本当に弓が使えたのだな」

「……本当に規格外な嫁だ。ゲレル。ナルから習うのであれば、この鳥を穫れるくらいにはなれ」

「はい。とと様」

「冷めないうちに食べよう。ナルと一緒に作った。鳥の捌き方もすごく上手で早かった」


 ツェツェルが小さく笑った。男達はまたきょとんとしている。なんだか三人とも驚いた顔がそっくりで、うっかり吹き出しそうになった。
 ツェツェルに教えてもらいながら一緒に作った鳥の汁物も芋と煮てあるのも本当にすごく美味しい。

 ゲレルがちゃんと口の中のものを飲み込んでから、話しかけてきた。


「ナルあに様。弓で獲るところを見てみたい」

「いいよー」

「この鳥は今の時期にこの辺りを多く飛んでいる。昼餉が終わったら弓の腕前を見せてみろ」

「はい! ドゥルグン殿! 格好いいところを見せちゃいます! あ、ちなみに、何羽くらい獲っても大丈夫ですか?」

「恵みの時期に向けて、他の家の者も獲るものだ。基本的に一度に三羽までと決まっている」

「なるほど」

「ナル。今度獲ったものは全て干し肉にする」

「かか様。干し肉の作り方も教えてもらいたいです」

「一緒にやったらいい」

「はい!」


 ナルは気合を入れて昼餉を食べきると、ツェツェルと一緒に手早く後片付けをしてから、弓と矢筒を持って庭に出た。
 空を見上げれば、何羽か同じ鳥が飛んでいる。
 ドゥルグンとゲレルだけでなく、バトボルドも見物するらしい。ちょっと格好いいところを見せたい。

 ナルは細く長く息を吐き、外野のことを頭から出して獲物と真剣に向き合った。
 矢筒から矢を抜き取り、狙いを定めて矢を放つ。鳥の首の近くに矢が命中したのを見たら次の矢を取り、また狙いを定めて矢を放つ。もう一羽、当てやすいところを飛んでくれている。素早く矢を抜き取って、また矢を放った。

 ぼとっ、ぼとっ、ぼとっと、矢が刺さった鳥が落ちてきた。鳥に刺さった矢を引き抜き、首の骨をぼきっと折った。
 三羽を片手に持って、ナルはにひっと笑った。


「獲れましたー」

「ナルあに様すごい! 早い! 一瞬だった!」

「……確かに中々の腕前だな。ゲレル。ナルから弓を習うといい。俺達は仕事で中々弓の稽古をしてやれない」

「はい! とと様!」

「ナル。弓を始めてどれくらい経つ」

「えーと、十五からだから……九年ですかね?」

「もっと幼い頃から弓を握る者でも、この鳥を射るのは少し難しい。余程才があるか、余程努力をしたかだな」

「そうだな。とと様。ナル。お前の努力は見事なものだ」

「ありがとうございます! ドゥルグン殿! あ、一緒に狩りに連れて行ってくれたりとかは?」

「それはまだ早い。集落での暮らしに慣れ、山を歩くことに慣れてからだ」

「頑張ります! 族長の嫁として恥ずかしくない働きをしてみせますとも!」

「程々にな」


 ドゥルグンがクックッと楽しそうに笑って、やんわりと被り物ごしにナルの頭を撫でてきた。
 ゲレルに弓を教わるよう勧めていたくらいだから、バトボルドにもちょっとは認めてもらえたようだ。
 ナルは嬉しくて、にひっと笑った。

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