もふもふ族長様のお嫁殿

丸井まー(旧:まー)

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18:恵みの時期の終わり

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 降り続いていた雨がやみ、晴れる日が増えてきた。恵みの時期の終わりである。

 ナルは気合で日が昇る前に起きると、ふすーっと穏やかな寝息を立てているドゥルグンのふわふわふにふにの耳をやんわりと弄りながら、ドゥルグンを起こすべく声をかけた。


「ドゥルグン殿。あっさでーす」


 耳から手を離し、首の下をわしゃわしゃ撫で回すと、ドゥルグンが目を開けてくわぁっと大きな欠伸をしてから、べろーっと顔を舐めてきた。顔にべったりついた唾液を手で拭って目を開けると、全裸のドゥルグンが眠そうな顔で伸びをしていた。


「おはようございます。ドゥルグン殿。早く走りに行きましょう!」

「……おはよう。朝っぱらから元気だな」

「元気なのが取り柄なので!」

「そうか。ねむい」

「走ってたら眠気もどっかにいきますよ!」

「あぁ、うん」


 ドゥルグンが立ち上がったので、用意しておいた服を差し出す。お互いに服を着たら、ナルはまだ眠そうなドゥルグンの手を握り、うきうきと部屋から出た。

 ドゥルグンと一緒に集落の中を走り出す。ナルは全速力に近いが、ドゥルグンは小走り程度の速さだ。
 晴れた日は朝早くに集落の中を走るようになった。体力作りのためである。朝早くに走ると気持ちがいいし、静かな集落がじわじわと賑やかになっていくのを感じるのもなんだか楽しい。
 本当は一人で走る気だったのだが、ドゥルグンから許可が降りなかった。『一人にしたらなんかやらかしそうだ』と言われた。別に何もやらかさないのだが。
 とはいえ、ドゥルグンと一緒に走れるのは素直に嬉しいので、逆によかった気がする。

 ゆるやかな傾斜のある広い集落内をぐるっと一周したら、家の裏の山にある小川に水汲みに行く。炊事場に置いてある大きな木の桶を二つ持ち、山の中の小川で水を汲んで、炊事場にある大きな水瓶に水を入れる。ゆるやかではあるが、傾斜のある所をたっぷりの水が入った重い木の桶を持って歩くのは地味に大変だ。いい鍛錬になるので、これも逆にいい。
 ナルが水汲みをしている間は、ドゥルグンは走り足りないからと山へ走りに行く。

 水を汲み終わった頃に、炊事場にツェツェルが来る。朝の挨拶をしてから、朝餉を作り始める。


「ナル。今日は昼餉を食べたら糸を染める。臭いから覚悟しておいて」

「はい! なんとか糸紡ぎが終わってよかったです。時間がかかりました」

「その分、丁寧できれいにできてるからいい。ナルはやることが丁寧ね」

「ありがとうございます! 糸を染めるのも楽しみです。いい色に染めたいですねぇ。ドゥルグン殿が着るものなので」

「ふふっ。本当に仲良しね。雪が降り出すまでは毎日走るの?」

「はい! 体力作りのためです! それに、朝早くに走ると気持ちがいいのですよ」

「そう。頑張るわね」

「んー。すごく楽しいから、あんまり頑張ってるって感じはしないです」

「ふふっ。本当に元気いっぱいな子。糸を染めて干したら、夕餉の支度までゲレルに弓を教えてあげて」

「はい! 鳥が穫れるといいですねぇ。かか様が作る鳥と芋を煮たやつが大好物なので!」

「頑張って獲ってきて。まだこの辺りを飛んでいるだろうから」

「はい! 美味しい夕餉のために頑張ります!」


 喋りながら手を動かしていると、朝餉が出来上がった。囲炉裏がある部屋に運べば、皆揃っていた。
 朝から走ったので、ものすごーく空腹である。美味しい朝餉を腹いっぱい食べると、ナルはツェツェルと一緒に後片付けをして、手分けをして家の掃除をした。

 掃除の後は畑の世話である。穀物と葉野菜、根菜が植えてある。水やりと草むしりをして、収穫できるものは収穫する。収穫した野菜は、半分は乾燥させて冬の蓄えにする。
 ツェツェルとゲレルと一緒に畑仕事をしたら、もう昼餉の支度の時間になる。ゲレルに野菜の干し方を頼んでから、炊事場へ移動した。

 狩った獲物を担いで山から戻ってきたドゥルグン達と一緒に昼餉をがっつり食べたら、後片付けをして今度は糸を染める。
 専用の大きな鍋を家の外に出し、家の庭先で乾燥させてあったシャリンク草を煮込む。確かに臭いが、我慢できない程ではない。人間よりも嗅覚が優れているツェツェルにはキツい匂いなようで、鼻や口を布で覆っている。


「そろそろいい。糸をつけて、少しそのままにしておいて、取り出してから水で洗って。三回繰り返したら、いい色になる。干したらおしまい」

「はい。かか様。匂いがキツいなら全部私がしますよー」

「……じゃあ、お願い。毎年するのだけど、この匂いがキツ過ぎて毎年辛いの」

「人間の私でも『くっさぁ』って思うくらいですもんねぇ」

「でも、シャリンク草で染めるのが一番いい。狩りをする時に山の中でも目立たないし、なにより虫がこない」

「へぇー。虫除けになるんですね。便利ですね。シャリンク草」

「その代わり臭いのだけどね」


 ツェツェルがげんなりした顔をしたので、本当に匂いがキツいのだろう。ナルは『くっさいなぁ』くらいのものだが、ツェツェルは毎年キツい匂いのせいで頭痛すらするらしい。
 ツェツェルが頭が痛くなるといけないので、やり方をもう一度聞き直してから、ツェツェルには家の中に避難してもらった。

 どす黒い汁に、いくつもある糸の束をつけ、暫し放置してから、取り出して桶に汲んだ水で洗う。三回繰り返すと、確かにいい感じの緑色に染まった。刺繍用の糸はもう少し濃いめの色にしたいので、追加で二回繰り返し、満足する色になったので、庭先に糸の束を干していく。
 重い鍋を抱えて山の方に行き、臭い煮汁を指定されていた場所に捨て、小川の水で鍋を洗ったらお終いである。

 空になった鍋を持って帰ると、ゲレルがそわそわしながら待ち構えていた。
 鍋を片付けてから、弓矢を取りに部屋に行き、庭でゲレルに弓を教え始める。
 練習用にと、バトボルドが庭の端に木の的を作ってくれた。まずは的の中心に正確に矢を当てる練習である。

 やる気満々なゲレルが矢を持って弓を構え、的に向かって矢を放った。矢は真っ直ぐに飛んでいったが、的の印をつけてあるところとは全く違うところに深く刺さった。十一歳とはいえ、獣人だから力はあるのだが、中々狙ったところに当たらない。
 ゲレルの耳がへにゃっとなり、ナルを見上げてゲレルが口を開いた。


「当たらない」

「んー。姿勢はいいし、力も十分なんだけど、矢を放つ時にちょっと手がぶれてるかなぁ。あとね、とにかく狙うところをしっかり見るのがコツ。こつこつ練習してたら、ちゃんと当たるようになるよ」

「うん! もう一回!」

「あっ! 美味しい鳥! 穫るっ!」


 何気なく見上げた空に美味しい鳥が飛んでいたので、ナルは素早く矢を矢筒から引き抜き、弓を構えて矢を放った。ちゃんと鳥の腹部に命中し、ぼとっ、と鳥が落ちてきた。
 もう一羽獲れそうな高さを飛んでいたので、それも射落とし、ナルはにひっと笑った。


「ナルあに様。この鳥を穫れるまでにどれくらいかかる?」

「んー。あの的のど真ん中に毎回命中するようになったら鳥を射てもいいよ。狙ったところに矢が飛ぶようにならないと危ないからね。ゲレルは力が強いから」

「頑張る! 羽を毟りながらでいいから見てて」

「いいよー」


 ナルは弓を構えたゲレルに時折助言してやりながら、むしむしと鳥の羽を毟った。
 すこーしずつではあるが、着実にゲレルは上達している。一生懸命頑張っている姿を見ると、自分ももっと頑張ろう! という気になる。

 夕餉の支度の時間までゲレルを見てやりながら、ナルも手本がてら何度も矢を的に向かって放った。

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