もふもふ族長様のお嫁殿

丸井まー(旧:まー)

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20:できたーー!

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 ナルがいつもの時間に目覚めてドゥルグンのふわふわふにふにの耳を弄っていると、ドゥルグンが目を開けた。何故かふんふん匂いを嗅がれたかと思えば、ドゥルグンが嬉しそうにぶんぶん尻尾を振った。
 瞬きした次の瞬間に人の姿になったドゥルグンが、胡座をかいた自分の足の上にひょいとナルの身体をのせ、ぺろぺろとナルの顔中を舐め始めた。


「おはようございます。どうしたんですか? 早く走りに行きましょうよ」

「走るのはなしだ。子ができている」

「はい? ……えっ!? ほんとのほんとに!?」

「あぁ。匂いが少し変わっている。子ができた証拠だ」

「わ、わ、わーー! やったーー! いつ産まれるんですか!? とりあえず走ってきていいですか!?」

「走るな。大人しくしていろ。いつ頃生まれるのかは、かか様に聞く」

「早くかか様に聞きに行きましょう!」

「まだ寝ている。水汲みは俺がする。ナル。約束しろ。子が無事に産まれるまでは、走らない。重いものを持たない。基礎鍛錬とやらをしない」

「えっ。身体が鈍りますよ?」

「子を孕んだ状態は常とは違うと聞く。とにかく大人しくしていろ。寝てろと言っても聞かぬだろうから、かか様と一緒に家のことをしていろ」

「えーー」

「返事」

「……はぁい。……にひっ。どっちに似ますかね? ドゥルグン殿に似たらいいなぁ」

「絶対にお前に似てると思う」

「え、何故に?」

「お前と子の二人に振り回される未来しか想像できない」

「えー。そんなことないですよー。それに、子は何人いてもいいですよね! 最低でも三人は欲しいです! 賑やかな方が楽しいですし!」

「ちっちゃいお前が三人か……ものすごく賑やかになるな」


 何故かドゥルグンが遠くを見つめた。しかし、尻尾をぶんぶん振りまくっているので、ドゥルグンも嬉しいのだろう。
 ナルはにひっと笑って、服を着てからドゥルグンに抱っこされて部屋を出た。

 ドゥルグンが水汲みをしている間に、ツェツェルが起きてくるのを囲炉裏がある部屋で大人しく待っていると、ツェツェルがやって来た。きょとんとした顔をした後で、ナルの側に近寄ってすんすんと匂いを嗅ぐと、ツェツェルがパァッと笑顔になり、口を開いた。


「ナル。子ができている」

「はい! やっとできましたー! いつ産まれるんですか!?」

「おめでたいから今夜の夕餉はご馳走にする。産まれるのは……そうね。雪が完全に溶けて暖かくなる頃」

「あ、子を孕む期間は人間と変わらないんですね」

「ナル。今日から走るのは禁止。重いものを持つのも、基礎鍛錬も駄目」

「それ、ドゥルグン殿にも言われました。身体が鈍りそうです」

「子を孕んでいる時は大人しくしてなきゃ駄目。炊事と掃除以外は、布を織っていて。ナルが雪が降り出すまでに布を織ってくれていたら、雪が降る頃にすぐに服を作れるようになるから」

「分かりました! 気合を入れて丁寧に布を織ります! あ、こちらの布の織り方を教えてもらいたいです」

「朝餉の後で教える。ナル。鳥を穫るのも駄目だから」

「えっ。ゲレルに弓を教えるのは!? それくらいは大丈夫ですよね!?」

「んーー。駄目。念の為、弓を教えるのも中断。ナルのことだから、しれっと鳥を射たりしそうだし」

「やることが機織りしかない……」

「子を孕んでいる間は身体が不安定になる。吐き気がしたり、身体が怠くなったりする。子を産むのは命懸け。子を孕んでいる時も棺桶に片足を突っ込んでいるようなもの。とにかく大人しくしていて。私達の安心のためにも」

「うー。分かりました……大人しくしておきます。産まれるまでが長いですけど……頑張る……耐える……」

「頑張って耐えて。さて。朝餉を作ろう。お腹の子のためにもしっかり食べて」

「はい! もりもり食べます!」


 ナルはツェツェルと一緒に炊事場に行くと、朝餉を作り始めた。ツェツェルが子を孕んでいる時期の注意点を教えてくれるので、しっかりと聞いておく。身体を思いっきり動かせなくなるとは予想外だったが、無事にドゥルグンの子を産むためには色々耐えねばなるまい。

 出来上がった朝餉を囲炉裏がある部屋に運ぶと、バトボルドとゲレルが近寄ってきて、すんすんとナルの匂いを嗅いだ。
 バトボルドが珍しく満面の笑みを浮かべて、ナルの頭を被っている布越しに撫でた。


「子ができている。ツェツェル。孫だ。孫ができたぞ」

「えぇ。あなた。雪が溶けて暖かくなる頃くらいに産まれるから、いい時期で嬉しい」

「そうだな。雪が降る頃に産まれたら大変だ。いい時期に産まれる。ドゥルグン。しっかりと名を考えておけ。雄だったら次の族長になる。いや、最初の子は雌でもいいな。どちらが産まれても、無事に元気に産まれて育ってくれたらそれでいい」

「とと様。名をつけるのに参考になるものはないだろうか」

「古い言葉が載っている書物がある。お前達の名は、それを見ながら考えた。それを使うといい。朝餉の後で渡しておく」

「ありがとう。とと様」

「ドゥルグン。ナルが走り回らないように気をつけておけ」

「分かっている。俺がいない時はとと様達も気をつけておいてくれ」

「分かった」

「……なんか、私って隙あらば走り回る幼児みたいに思われてません?」

「実際に隙あらば走り回るだろう。お前」

「そこまでじゃないですよ!? 実りの時期がきたら二十五になりますからね!? 私! ちゃんとした落ち着いた大人です!」

「……自己認識って人それぞれだな」

「なんですか。その微妙な反応。産まれるまでは、ちゃんと大人しくしてますー。産まれたら全力で身体を鍛え直しますけどね!」

「そういうとこだぞ。自由人」


 ドゥルグンが呆れた顔をしたが、尻尾は未だにぶんぶん嬉しそうに揺れまくっている。バトボルド達もすごく嬉しそうに尻尾を振っているので、本当に喜ばれているみたいだ。すごく嬉しい。
 ナルはまだぺたんこの下腹部をやんわりと撫でた。ドゥルグンとナルの子は、家族に望まれて産まれてくる。間違いなく大事に愛してもらえるだろう。
 ナルはにひっと笑って、子の分までと、美味しい朝餉をがっつり食べた。

 夕餉の後片付けを終え、少しだけツェツェルにこちらの布の織り方を習った。布を織るのに使う道具が人間の里のものとは違うし、糸の素材も違うので、慣れるまでは布を織るのに時間がかかりそうだ。
 雪が降り出す頃まではひたすら機織りをするので、そのうち慣れて手早く織れるようになるだろう。

 道具類を片付けると、ナルはドゥルグンに抱っこされて部屋へと引き上げた。
 二人で温泉に浸かった後、普段は裸で寝るのに、ドゥルグンがナルに服を着せた。無事に産まれるまでは、服を着て寝るらしい。身体を冷やすといけないそうだ。

 ドゥルグンは夕餉の後にバトボルドから子を孕んでいる時期の注意点を聞いていた。子を産むまでは、交わるのもなしだ。ドゥルグンと交わるのが大好きなので地味に辛い。が、無事にドゥルグンの子を産みたいので、ぐっと我慢である。

 大きな狼の姿になったドゥルグンの背にぽすんと寄りかかり、わしゃわしゃーっと撫で回す。今日一日ずっとご機嫌な様子だったドゥルグンがごろんと腹を見せてくれたので、わしゃわしゃーっと腹の毛も撫で回した。
 気が済むまでドゥルグンを撫で回すと、ナルは俯せになったドゥルグンの背にもたれかかるようにしてくっつき、くわぁっと欠伸をしてから目を閉じた。

 一日でも早く二人の子の顔が見たい。きっとすごく可愛いと思う。ドゥルグンと一緒に大切に愛してやらねば。
 ナルはやんわりと自分の下腹部を撫でると、にひっと笑い、ドゥルグンの匂いと温もりに包まれたまま、柔らかい眠りに落ちた。

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