もふもふ族長様のお嫁殿

丸井まー(旧:まー)

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21:ドゥルグンの姉

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 本格的に暑い時期がきた。
 ナルが子を孕んでから十日程経っている。日中はツェツェルと一緒に家事をしているのだが、重いものは持たせてもらえないし、殆ど身体を思うように動かせないので、早くもじわじわ鬱憤が溜まり始めている。思いっきり走りたいところなのだが、ドゥルグンの子を無事に産むためだとぐっと我慢をしている。

 ナルがツェツェルと一緒に洗濯物を干していると、ツェツェルによく似た涼やかな美女がやって来た。ドゥルグンの姉・オヨーンである。
 オヨーンが小さく笑って声をかけてきた。


「ただいま。かか様。ナル。ドゥルグンから聞いた。おめでとう。子ができたそうね」

「おかえり。オヨーン」

「おかえりなさい! あね様! ありがとうございます!」


 オヨーンが近寄ってきて、すんすんと匂いを嗅いぎ、嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。


「うん。ほんとにできてる。初孫ね。かか様」

「うん。バトボルドがものすごく大喜びしてる。私も嬉しい」

「甥っ子かしら。姪っ子かしら。どっちでも可愛い。産まれるのが楽しみ。ナル。身体は大丈夫?」

「すごく元気です!」

「そう。よかった。少しでも何かあるようなら、必ずドゥルグンか、かか様に言って」

「はい!」

「今日はちょっと気が早いけど、お祝いの品を持ってきた」

「わぁ! ありがとうございます! すっごく嬉しいです!」

「ナル。オヨーン。洗濯物を干し終わったら、中で白湯でも飲みながら話そう。……こっそり干した葡萄を食べながらね。バトボルド達には内緒」

「あはっ。いいわね。かか様」

「干した葡萄も好きですー」

「人間の里にも葡萄があるの?」

「はい。庭に植えている家が多かったです」

「へぇ。中で色々聞かせて」

「はい!」


 手早く洗濯物を干し終えると、オヨーンも一緒に家の中に入り、囲炉裏がある部屋で湯を沸かした。
 ツェツェルが持ってきてくれた葡萄は、前の実りの時期に山で採れたものを干したものだ。人間の里のものよりも少し小さめで、ほんのり酸味が強いがすごく美味しい。

 オヨーンが干した葡萄を食べて、小さく笑った。


「干した葡萄大好き。実りの時期に山でたくさん採らないと」

「私も採りに行ってみたいんですけど、子が無事に産まれてからですねぇ。あっ! ドゥルグン殿に抱っこしてもらったら、採りに行っても大丈夫じゃないですか!? かか様!」

「んー。まぁ、それなら大丈夫かと思う。その時の体調次第。今はまだ自覚症状がない時期。そのうち吐き気がしたりとか、やたら眠くなったりとかするようになる」

「うへぇ。子ができたのは嬉しいんですけど、思うように動けないのがもどかしいです」

「ふふっ。ナルは面白い。私のところに知らせに来たドゥルグンから盛大に惚気られた」

「ふふっ。ドゥルグンはナルを気に入ってるからね」

「にひっ。照れます!」

「あ、ねぇ。ナル。ちょこっとだけ髪を見せてくれない? ドゥルグンがいると見せてくれないから。黒い髪ってすごく珍しい」

「いいですよー。獣人族って皆さん銀髪なんですね。私としては、そちらの方が珍しいです。でも、すごくきれいだから、ちょっと羨ましいです」

「そう?」


 ナルは頭に被っていた布をとり、ついでに三つ編みを解いた。手櫛で髪を梳いたら、然程癖も残らず真っ直ぐになった。
 ナルの髪を見たオヨーンが目をキラキラと輝かせた。


「とてもきれいな髪。羨ましいくらい。これはドゥルグンが他の者に見せたくないわけだ」

「ありがとうございます? あね様の髪もすごくきれいです。キラキラしてます」

「ふふっ。ありがとう。ドゥルグンにバレたら煩いから戻して。見せてくれてありがとう」

「ナルの髪色と同じ毛並みの子が産まれてもいい。とても美しく育つ」

「そうね。かか様。あ! 忘れるところだった。はい。ナル。お祝いに作った。生まれた子を包む用の布。刺繍は見ないで。丁寧にやったつもりだけど、すごく下手くそだから」

「わぁ! ありがとうございます! 大事に使わせてもらいます! ふふー。ほんとに嬉しいー」


 オヨーンから手渡された布は柔らかく、縫い目がガタガタながら繊細な刺繍が施されていた。
 横から布を見たツェツェルが、呆れたようにオヨーンを見た。


「オヨーン。何回も何回も刺繍の練習をしなと言った。こういう時に困る」

「ほんとに身に染みてる。それも三回作り直した。一番マシなやつを持ってきた。今はあちらのかか様に毎晩猛特訓されてる。自分の子ができた時に服を作らなきゃいけないからと」

「そりゃそうだろうとも。あちらの家族とはうまくやってる?」

「うん。かか様は面倒みがいいし、とと様も優しい。勿論、テムーレンもね。刺繍は苦手だけど、料理は上手って褒めてくれる」

「そう。ならいい」

「あね様もかか様と一緒で料理上手なんですね。私も頑張らねば!」

「ドゥルグンから聞いた。すごく食べるって。それも美味しそうに。ほんとにいっぱい食べるの?」

「はい! 人間の里では影で『爆食のナル』って呼ばれてました!」

「ふふっ。ナルは二つ名が多い。『関節外しのナル』とも呼ばれていたのでしょ」

「はい! なんか気づいたら増えてました」

「テムーレンとドゥルグンから聞いた。見事に関節が外れてたって。あなたってほんとに面白い」

「ありがとうございます?」


 オヨーンが楽しそうに笑った。
 昼餉の支度を始める少し前まで三人で白湯を飲みつつお喋りをして、オヨーンは昼餉の支度があるからと帰って行った。
 ナルはオヨーンから貰ったお祝いの品が嬉しくて、だらしなく笑った。刺繍は確かにちょっと不細工だけど、一生懸命作ってくれたのが分かる。ドゥルグンとナルの子が産まれるのを楽しみにしてくれるのが本当に嬉しい。

 ナルは自室に向かい、お祝いの布を大切に箱に入れた。ドゥルグンが帰ってきたら見せよう。きっと喜ぶ筈だ。
 ナルはにひっと笑って、軽やかな足取りで炊事場へと向かった。

 オヨーンがお祝いの品を持ってきてくれた数日後。
 昼餉を食べ終えた頃に、オヨーンの夫であるテムーレンがとても慌てた様子でやって来た。
 何事かと思えば、オヨーンも子を孕んだらしい。バトボルド達が大喜びしているし、ナルもすごく嬉しい。
 言うだけ言って、『オヨーンの側にいる』とテムーレンがバタバタと帰った後で、ナルは嬉しそうなツェツェルに声をかけた。


「かか様。お祝いの品を作りたいです。できたらこう……例えば、子の健康を祈るとか、なにか意味のある刺繍がしたいんですけど、教えてもらえませんか?」

「しっかり教える。私も作るから、一緒に作ろう」

「はい! ご指導よろしくお願いいたします! すっごく気合を入れて作ります!」


 ナルがやる気に燃えていると、ドゥルグンから布越しに頭をやんわり撫でられた。
 ドゥルグンを見れば、ドゥルグンが嬉しそうに笑っていた。尻尾がぶんぶん動いている音がずっとしている。


「とと様。孫が一気に増えた」

「あぁ。産まれる時期も同じくらいだ。ドゥルグン。熊を狩りに行くぞ。祝いにオヨーンの家に持っていく。しっかり食べさせなければ。うちの分もいる。ナルに食べさせる。二頭狩るから、そのつもりでいろ」

「分かった」

「ありがとうございます! とと様! ドゥルグン殿!」

「とと様。俺もあね様に何か祝いの品を贈りたい」

「そうだな……木彫りのお守りの作り方を教えるか。安産祈願のお守りだ。明日にでも山に行って、お守り用の木の枝をとりに行く」

「ナルあに様の分も作る」

「二つ作ればいい。ドゥルグンは一応作り方を知っているだろう?」

「あぁ。ゲレルができた時に、とと様と一緒に作った覚えがある。とはいえ、まだ七歳だったから作り方がうろ覚えだ。また習っておきたい。俺もナルの分とあね様の分を作りたい」

「俺も作るつもりだ。今日のうちに熊を狩って、明日はお守り用の材料を揃えてから作る。ついでだ。子が産まれた後に使うものの作り方も教えておく」

「分かった。しっかり覚える」


 ドゥルグンもだが、バトボルドもゲレルも本当に嬉しそうだ。ナルの子のお守りも作ってくれるのが嬉しい。
 ナルはまだぺたんこな下腹部をやんわりと撫で、嬉しくてにひっと笑った。

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