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31:幸せだからキスをしよう
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季節はすっかり夏本番になった。
イーヴォと恋人になって、早くも三か月が経とうとしている。
アルッティは夏物のかっちりした礼服を着て、少しでも癖っ毛がマシになるように鏡の前で髪を弄っていた。
脱衣場に顔を出したイーヴォは、ぎゃーー! と黄土色の悲鳴を上げたいくらい格好いい。爽やかな淡い青色の礼服がめちゃくちゃ似合っている。
「そろそろ出る時間だぞ」
「イーヴォ先輩……じゃなかった。イーヴォさん。俺の髪、もうちょいなんとかなりませんかね」
「問題ない。いつも通り可愛いぞ」
「えぇ……俺を『可愛い』と評するのはイーヴォさんだけですよ」
「アルッティの可愛さは俺だけが知ってればいいんだよ」
「あ、はい」
「じゃあ、行くか」
「はい。……ちょっと緊張してきました」
「ははっ。俺も緊張してる。まぁ、交際を反対されてもお前を攫ってしまえばいいだけの話なんだがな」
「反対されたら攫われるんですか!? 俺!?」
「攫うぞ。お姫様抱っこで」
「やだなにそれきゅんとしちゃうっ!! あ、やべ。興奮して鼻血出そう」
「出すな。気合で堪えろ」
「はいー」
アルッティは今日も問答無用で格好いいイーヴォにきゅんきゅんしながら、なんとか鼻血を出すのを堪えつつ、イーヴォと一緒に家を出た。
今日はアルッティの実家が店休日で、たまたまアルッティとイーヴォの休みも重なっていたから、アルッティの実家にイーヴォを紹介しに行く。
一応ちゃんとした格好をした方がいいということで、少し前に礼服を買いに行った。
単純に、お互いにかっちりした格好をしているところが見たかっただけである。礼服を着たイーヴォは本当にめちゃくちゃ格好よくて、いっそ泣きながら拝みたいくらいだ。
アルッティはイーヴォと他愛のないお喋りをしながら、実家へと向かって歩いた。
実家の玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐに妹のマリアナが顔を出した。
「あらぁ! お兄ちゃんじゃない! 久しぶりー」
「久しぶり。父さんと母さんはいる?」
「皆いるわよ。って、あら! すっごい男前!! ……もしかして、前に熱苦しく語ってた人?」
「んんっ。こっ! 恋人のイーヴォさんです。イーヴォさん。一つ下の妹のマリアナです」
「はじめまして。イーヴォと申します。目元がアルッティによく似ていますね」
「はじめましてー。マリアナです。あはは。よく言われます。子ども達見たら驚くかも。三人ともちっちゃい頃のお兄ちゃんそっくりだから」
「目つきの悪さが似ちゃったんだよなー」
「そもそもお父さんが目つき悪いからねー。お父さんの血が濃ゆいんじゃない? 私はお母さんに似たかったわ……」
「俺も母さんに似たかったわ……」
「二人とも可愛いけどな?」
「あ、独特な感性の持ち主なのね?」
「うん。まぁ、これに関しては」
「へぇー。とりあえず中に入って。紅茶を淹れるわ。苺ジャムがまだ残ってるから、苺ジャムを淹れて飲みましょ」
「うん。ただいまー」
「お邪魔します」
居間に行くと、アルッティの両親と義弟、甥っ子達三人がいた。
特に目元がアルッティとそっくりな父がアルッティとイーヴォを見て口を開いた。
「おかえり。久しぶりだな。アルッティ」
「ただいまー。久しぶりー。父さん。母さん。ニック君も。皆元気そうでよかった。えっと、こちらの方は俺のこっ! 恋人のイーヴォさんです!」
「はじめまして。イーヴォと申します。アルッティと同じく警邏隊で働いております」
「む?」
「あらまぁ」
「へぇ」
父は眉間にちょっと皺を寄せ、母はきょとんとし、義弟ニックは面白そうにこちらを見てきた。
マリアナが人数分の紅茶を淹れてきてくれたので、母手作りの苺ジャムを紅茶に淹れて飲む。爽やかな苺の香りと優しい甘さに、ちょっと緊張が薄れる。
イーヴォと並んで座り、アルッティは父に聞きたかったことを聞いてみた。
「父さん。墓の相場ってどれくらいかな。二人で入れる墓を早めに買っておきたいんだけど。イーヴォ先輩に相応しい格好いい墓石も作りたいし」
「……アルッティ」
「なに? 父さん」
「恋人になってどれくらいだ?」
「三か月くらい?」
「ドン引きだ」
「なんで!?」
「なんっで結婚式の話の前に墓の話が出てくるんだ! 重いわっ! 重すぎて引くわっ!」
「えー。だって一緒の墓に入りたいじゃん?」
「お、重い……ドン引きだ……母さんも言ってやれ」
「アルッティ」
「なに? 母さん」
「一緒のお墓に入りたいのなら養子縁組しないと駄目よ。確か、身内じゃないと同じお墓に入れてもらえない筈だから」
「母さん!?」
「マジかー。イーヴォ先輩。次の休みに役所に行って養子縁組しましょう」
「そうだな。俺がお前の籍に入ろう。俺は身内が誰もいないしな」
「お兄ちゃん。イーヴォさん」
「なんだ? マリアナ」
「お父さんがついてこれなくて固まってるわよ。あと付き合い始めて三か月で墓の話って私もドン引きだわ。おっも!! イーヴォさんはいいんですか? こんだけ重いお兄ちゃんで」
「片想い歴八年目にしてやっと恋人になれたので、どれだけ重くても嬉しいだけですよ」
「あら。お兄ちゃんったら愛されてるぅ!」
「あらあらまぁまぁ。イーヴォさん。うちの子、鈍ちんなところもあるから、言いたいことはズバズバ言った方がいいと思うわ」
「はい。なんでも言い合える仲になって、たまに仲良く喧嘩したいです」
「結婚式はするのかしら。しないのなら、うちでお祝いパーティーだけでもしない? 家族が増えるんですもの」
「母さん!? それでいいのか!? 俺はアルッティの重さにドン引きしまくってるんだが!?」
「あらー。お父さん。いいんじゃない? 一生を共にする覚悟の表れじゃない。イーヴォさんも器が大きいようだし、やっとアルッティに素敵なお相手ができて嬉しいわ」
「う……確かにそうだが……」
「父さん。父さん。俺の恋人が男なのは別にいい感じなの?」
「それは別に気にならんな。お前が心底惚れた相手なら、それでいい。いやまぁ、お前が重すぎてドン引き中ではあるが」
「母さんは?」
「アルッティが『この人となら幸せになれる』って思った人なんでしょ? なら男とか女とかどうでもいいわ」
「マリアナ」
「そもそもイーヴォさんの話を聞いた時点でお兄ちゃんがイーヴォさん大好きなのは知ってたし。めちゃくちゃ男前なお兄ちゃんが増えるだけよね」
「なんかあっさり受け入れられて、お兄ちゃんは拍子抜けです。めちゃくちゃ緊張してたんですけどー!?」
「ははっ! お義父さん。お義母さん。アルッティと一緒に誰よりも幸せになってみせます」
キリッとした顔で言い切ったイーヴォが格好よすぎて、思わず奇声を発して転げ回るところだった。ギリギリ堪えたアルッティを誰か褒めて欲しい。
父も母もどこか嬉しそうに笑った。
昼食を一緒に食べることになったので、現在、アルッティは母とマリアナと一緒に台所に立っていた。
イーヴォは『ちっちゃいアルッティがいっぱいっ!』と大喜びで甥っ子達の相手をしつつ、父や義弟と話している。
下味をつけた牛肉の塊を魔導オーブン焼き、その間に母直伝の特製ソースを作る。
母が夏野菜たっぷりのスープを作りながら、ふふっと嬉しそうに笑った。
「アルッティ。いいことを教えてあげる」
「なに? 母さん」
「幸せだなーって思った時と、思いっきり腹が立った時はキスをするのよ」
「ん? 幸せだなって時は分かるけど、なんで腹が立った時もキスすんの?」
「キスをしたらちょっと怒りがおさまるのよ。喧嘩した時に試してごらんなさい」
「うん。今のところ喧嘩する感じじゃないんだけどね」
「長く一緒にいれば喧嘩くらいするわよ」
「覚えておくよ。喧嘩の時はキスね」
「それから幸せな時もね」
「うん。母さん。受け入れてくれてありがと」
「お礼を言うことじゃないわよ。アルッティが幸せに笑っていられるのなら、それでいいだけ」
「うん。ありがと」
「さっ。できあがり。マリアナ。お皿出してちょうだい」
「はぁい」
居間に出来上がった料理を運び、賑やかな昼食が始まった。
目をキラキラと輝かせて美味しそうに食べてくれるイーヴォを横目にチラチラ見ながら、アルッティは小さく笑った。
たくさんお喋りをして、たくさん笑って、また必ず来ることを約束してから実家を出た。
嬉しそうに笑っているイーヴォを見て、アルッティも嬉しくて、幸せで、イーヴォの手を握ったまま、アルッティはイーヴォの頬にキスをした。
「アルッティ?」
「幸せな時と喧嘩した時はキスをするものらしいですよ」
「へぇ。ん」
イーヴォがアルッティの唇にキスをしてくれた。
照れたように笑いながら、イーヴォが口を開いた。
「幸せな時にキスをするんだろ?」
「~~~~っ、イーヴォさんが可愛すぎて鼻から情熱出ちゃいそう」
「鼻血は出すな。台無しになる」
「頑張って堪えますっ!! イーヴォさん」
「ん?」
「幸せだからもっかいキスしたいです」
「ははっ! 何度でも!」
幸せそうに笑うイーヴォの唇に触れるだけのキスをしてから、アルッティは照れくさくて笑った。
夕食の話をしながら家に帰り着くと、イーヴォがいそいそと礼服を脱ぎ始めた。
家では裸族でも構わない。イーヴォはありのままが美しく、格好よく、可愛いのである。
アルッティが手早く作り上げた夕食を美味しそうにガツガツ食べてくれるイーヴォを眺めてから、アルッティはテーブルの上に身を乗り出し、イーヴォの唇に触れるだけのキスをした。
なんでもないことが幸せだからキスをしよう。
一緒の墓に入るまでに数え切れないくらいキスをすると思う。特別じゃないちっちゃな幸せがきっと抱えきれないほどたくさんある。
照れて笑うイーヴォと顔を見合わせて笑い、アルッティはもう一度イーヴォの唇にキスをした。
(おしまい)
イーヴォと恋人になって、早くも三か月が経とうとしている。
アルッティは夏物のかっちりした礼服を着て、少しでも癖っ毛がマシになるように鏡の前で髪を弄っていた。
脱衣場に顔を出したイーヴォは、ぎゃーー! と黄土色の悲鳴を上げたいくらい格好いい。爽やかな淡い青色の礼服がめちゃくちゃ似合っている。
「そろそろ出る時間だぞ」
「イーヴォ先輩……じゃなかった。イーヴォさん。俺の髪、もうちょいなんとかなりませんかね」
「問題ない。いつも通り可愛いぞ」
「えぇ……俺を『可愛い』と評するのはイーヴォさんだけですよ」
「アルッティの可愛さは俺だけが知ってればいいんだよ」
「あ、はい」
「じゃあ、行くか」
「はい。……ちょっと緊張してきました」
「ははっ。俺も緊張してる。まぁ、交際を反対されてもお前を攫ってしまえばいいだけの話なんだがな」
「反対されたら攫われるんですか!? 俺!?」
「攫うぞ。お姫様抱っこで」
「やだなにそれきゅんとしちゃうっ!! あ、やべ。興奮して鼻血出そう」
「出すな。気合で堪えろ」
「はいー」
アルッティは今日も問答無用で格好いいイーヴォにきゅんきゅんしながら、なんとか鼻血を出すのを堪えつつ、イーヴォと一緒に家を出た。
今日はアルッティの実家が店休日で、たまたまアルッティとイーヴォの休みも重なっていたから、アルッティの実家にイーヴォを紹介しに行く。
一応ちゃんとした格好をした方がいいということで、少し前に礼服を買いに行った。
単純に、お互いにかっちりした格好をしているところが見たかっただけである。礼服を着たイーヴォは本当にめちゃくちゃ格好よくて、いっそ泣きながら拝みたいくらいだ。
アルッティはイーヴォと他愛のないお喋りをしながら、実家へと向かって歩いた。
実家の玄関の呼び鈴を鳴らすと、すぐに妹のマリアナが顔を出した。
「あらぁ! お兄ちゃんじゃない! 久しぶりー」
「久しぶり。父さんと母さんはいる?」
「皆いるわよ。って、あら! すっごい男前!! ……もしかして、前に熱苦しく語ってた人?」
「んんっ。こっ! 恋人のイーヴォさんです。イーヴォさん。一つ下の妹のマリアナです」
「はじめまして。イーヴォと申します。目元がアルッティによく似ていますね」
「はじめましてー。マリアナです。あはは。よく言われます。子ども達見たら驚くかも。三人ともちっちゃい頃のお兄ちゃんそっくりだから」
「目つきの悪さが似ちゃったんだよなー」
「そもそもお父さんが目つき悪いからねー。お父さんの血が濃ゆいんじゃない? 私はお母さんに似たかったわ……」
「俺も母さんに似たかったわ……」
「二人とも可愛いけどな?」
「あ、独特な感性の持ち主なのね?」
「うん。まぁ、これに関しては」
「へぇー。とりあえず中に入って。紅茶を淹れるわ。苺ジャムがまだ残ってるから、苺ジャムを淹れて飲みましょ」
「うん。ただいまー」
「お邪魔します」
居間に行くと、アルッティの両親と義弟、甥っ子達三人がいた。
特に目元がアルッティとそっくりな父がアルッティとイーヴォを見て口を開いた。
「おかえり。久しぶりだな。アルッティ」
「ただいまー。久しぶりー。父さん。母さん。ニック君も。皆元気そうでよかった。えっと、こちらの方は俺のこっ! 恋人のイーヴォさんです!」
「はじめまして。イーヴォと申します。アルッティと同じく警邏隊で働いております」
「む?」
「あらまぁ」
「へぇ」
父は眉間にちょっと皺を寄せ、母はきょとんとし、義弟ニックは面白そうにこちらを見てきた。
マリアナが人数分の紅茶を淹れてきてくれたので、母手作りの苺ジャムを紅茶に淹れて飲む。爽やかな苺の香りと優しい甘さに、ちょっと緊張が薄れる。
イーヴォと並んで座り、アルッティは父に聞きたかったことを聞いてみた。
「父さん。墓の相場ってどれくらいかな。二人で入れる墓を早めに買っておきたいんだけど。イーヴォ先輩に相応しい格好いい墓石も作りたいし」
「……アルッティ」
「なに? 父さん」
「恋人になってどれくらいだ?」
「三か月くらい?」
「ドン引きだ」
「なんで!?」
「なんっで結婚式の話の前に墓の話が出てくるんだ! 重いわっ! 重すぎて引くわっ!」
「えー。だって一緒の墓に入りたいじゃん?」
「お、重い……ドン引きだ……母さんも言ってやれ」
「アルッティ」
「なに? 母さん」
「一緒のお墓に入りたいのなら養子縁組しないと駄目よ。確か、身内じゃないと同じお墓に入れてもらえない筈だから」
「母さん!?」
「マジかー。イーヴォ先輩。次の休みに役所に行って養子縁組しましょう」
「そうだな。俺がお前の籍に入ろう。俺は身内が誰もいないしな」
「お兄ちゃん。イーヴォさん」
「なんだ? マリアナ」
「お父さんがついてこれなくて固まってるわよ。あと付き合い始めて三か月で墓の話って私もドン引きだわ。おっも!! イーヴォさんはいいんですか? こんだけ重いお兄ちゃんで」
「片想い歴八年目にしてやっと恋人になれたので、どれだけ重くても嬉しいだけですよ」
「あら。お兄ちゃんったら愛されてるぅ!」
「あらあらまぁまぁ。イーヴォさん。うちの子、鈍ちんなところもあるから、言いたいことはズバズバ言った方がいいと思うわ」
「はい。なんでも言い合える仲になって、たまに仲良く喧嘩したいです」
「結婚式はするのかしら。しないのなら、うちでお祝いパーティーだけでもしない? 家族が増えるんですもの」
「母さん!? それでいいのか!? 俺はアルッティの重さにドン引きしまくってるんだが!?」
「あらー。お父さん。いいんじゃない? 一生を共にする覚悟の表れじゃない。イーヴォさんも器が大きいようだし、やっとアルッティに素敵なお相手ができて嬉しいわ」
「う……確かにそうだが……」
「父さん。父さん。俺の恋人が男なのは別にいい感じなの?」
「それは別に気にならんな。お前が心底惚れた相手なら、それでいい。いやまぁ、お前が重すぎてドン引き中ではあるが」
「母さんは?」
「アルッティが『この人となら幸せになれる』って思った人なんでしょ? なら男とか女とかどうでもいいわ」
「マリアナ」
「そもそもイーヴォさんの話を聞いた時点でお兄ちゃんがイーヴォさん大好きなのは知ってたし。めちゃくちゃ男前なお兄ちゃんが増えるだけよね」
「なんかあっさり受け入れられて、お兄ちゃんは拍子抜けです。めちゃくちゃ緊張してたんですけどー!?」
「ははっ! お義父さん。お義母さん。アルッティと一緒に誰よりも幸せになってみせます」
キリッとした顔で言い切ったイーヴォが格好よすぎて、思わず奇声を発して転げ回るところだった。ギリギリ堪えたアルッティを誰か褒めて欲しい。
父も母もどこか嬉しそうに笑った。
昼食を一緒に食べることになったので、現在、アルッティは母とマリアナと一緒に台所に立っていた。
イーヴォは『ちっちゃいアルッティがいっぱいっ!』と大喜びで甥っ子達の相手をしつつ、父や義弟と話している。
下味をつけた牛肉の塊を魔導オーブン焼き、その間に母直伝の特製ソースを作る。
母が夏野菜たっぷりのスープを作りながら、ふふっと嬉しそうに笑った。
「アルッティ。いいことを教えてあげる」
「なに? 母さん」
「幸せだなーって思った時と、思いっきり腹が立った時はキスをするのよ」
「ん? 幸せだなって時は分かるけど、なんで腹が立った時もキスすんの?」
「キスをしたらちょっと怒りがおさまるのよ。喧嘩した時に試してごらんなさい」
「うん。今のところ喧嘩する感じじゃないんだけどね」
「長く一緒にいれば喧嘩くらいするわよ」
「覚えておくよ。喧嘩の時はキスね」
「それから幸せな時もね」
「うん。母さん。受け入れてくれてありがと」
「お礼を言うことじゃないわよ。アルッティが幸せに笑っていられるのなら、それでいいだけ」
「うん。ありがと」
「さっ。できあがり。マリアナ。お皿出してちょうだい」
「はぁい」
居間に出来上がった料理を運び、賑やかな昼食が始まった。
目をキラキラと輝かせて美味しそうに食べてくれるイーヴォを横目にチラチラ見ながら、アルッティは小さく笑った。
たくさんお喋りをして、たくさん笑って、また必ず来ることを約束してから実家を出た。
嬉しそうに笑っているイーヴォを見て、アルッティも嬉しくて、幸せで、イーヴォの手を握ったまま、アルッティはイーヴォの頬にキスをした。
「アルッティ?」
「幸せな時と喧嘩した時はキスをするものらしいですよ」
「へぇ。ん」
イーヴォがアルッティの唇にキスをしてくれた。
照れたように笑いながら、イーヴォが口を開いた。
「幸せな時にキスをするんだろ?」
「~~~~っ、イーヴォさんが可愛すぎて鼻から情熱出ちゃいそう」
「鼻血は出すな。台無しになる」
「頑張って堪えますっ!! イーヴォさん」
「ん?」
「幸せだからもっかいキスしたいです」
「ははっ! 何度でも!」
幸せそうに笑うイーヴォの唇に触れるだけのキスをしてから、アルッティは照れくさくて笑った。
夕食の話をしながら家に帰り着くと、イーヴォがいそいそと礼服を脱ぎ始めた。
家では裸族でも構わない。イーヴォはありのままが美しく、格好よく、可愛いのである。
アルッティが手早く作り上げた夕食を美味しそうにガツガツ食べてくれるイーヴォを眺めてから、アルッティはテーブルの上に身を乗り出し、イーヴォの唇に触れるだけのキスをした。
なんでもないことが幸せだからキスをしよう。
一緒の墓に入るまでに数え切れないくらいキスをすると思う。特別じゃないちっちゃな幸せがきっと抱えきれないほどたくさんある。
照れて笑うイーヴォと顔を見合わせて笑い、アルッティはもう一度イーヴォの唇にキスをした。
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