騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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15:温かい手

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 新年を迎えて二日目の朝。アーリンが目覚めると、眠るバーニーにくっついていた。
 昨日は新年を迎えた初日ということで、皆で派手にパーティーだー! とバーロを筆頭にかなり酒を飲んでいた。アーリンも、オードリーが作ったという果実酒が何種類もあったので、ぐいぐい酒を飲んでいるバーロ達に付き合って、一日でかなりの量の酒を飲んだ。
 夕方には眠気が限界にきて、寝落ちそうなバーニーと部屋に引き上げたのまでは覚えている。多分、そのまま一緒に寝たのだろう。

 眠るバーニーは酒臭いが、温かくて落ち着く。なんとなくバーニーの手を握れば、意外と分厚くて、ところどころ硬かった。料理人として毎日のように働いているうちに、剣胼胝のようになるのだろう。頑張っている働き者の手だ。おまけに温かくて、すごく優しい。

 バーニーが爆睡していることをいいことに、アーリンはバーニーの手をやんわりとにぎにぎした。なんだか落ち着くし、地味に楽しい。
 くっついているバーニーが温かくて、二度寝したくなってくる。すりっとバーニーに擦り寄って、アーリンはバーニーの手を握ったまま目を閉じた。
 バーニーの手首に触れれば、とくんとくんと規則正しい脈が伝わってくる。なんとなく安心して、アーリンはすぅっと寝落ちた。

 次に目覚めたのは、昼時が近い時間帯だった。こんなにものすごく朝寝坊したのは初めてかもしれない。
 目覚めて壁の時計を見て、アーリンは慌ててバーニーを無言で揺さぶり起こした。
 のろのろと起き上がったいつもより目が細いバーニーがへらっと笑った。


「おはよー。ねむい。けど腹減った」

「……お、おはよう。寝過ぎた」

「んー? あぁ。毎年のことだから大丈夫大丈夫。ばあちゃんもお袋も昨日は飲んでたし、皆起きるのが今くらいの時間なんだよねー」

「そ、そうか」

「腹減ってるから、朝飯兼昼飯の準備をしますかー」

「あ、あぁ」


 バーニーがベッドから下りて着替え始めたので、アーリンも自室に戻り、寝間着から着替えた。
 脱衣場にある洗面台で顔を洗って髭を剃る。何気なく自分の手の甲を見れば、細かく割れていた。指もあちこち割れている。あかぎれというものらしい。地味に痛いが、我慢できない程ではない。アーリンは気にせず、台所へ急いだ。

 バーニーと一緒にパンを作り、豪華な魚介類たっぷりのトマトスープを温め、昨日のご馳走の残りも温め直していると、ブレンダが台所へやって来た。


「やぁ。おはよう。今年は珍しく早いねぇ。バーニー」

「おはよー。ばあちゃん。たまにはね。もう全部温まるよ」

「ありがとね。あ、そうだ。アーリン。ちょいとおいで」

「……あ、あぁ」


 ブレンダに手招きされて一緒に居間に行くと、並んでソファーに座った。あかぎれだらけの手をブレンダがやんわりと掴み、『ありゃまぁ』と呟いた。


「これは痛いだろう。もうちょい早く気づけばよかったねぇ」

「……平気だ」

「痛いものは痛いって言っていいんだよ。どれ。馬油を塗ろうかね。あかぎれには一番効くんだよ」

「……あ、ありがとう」

「アーリンの手は、頑張り屋さんの手だねぇ」

「……ブレンダさんの手は温かい」

「ふふっ。そうかい? 毎晩、寝る前にこれを塗るといいよ。店が開く時期になったら、アーリンの分も追加で買ってきてもらおうね」

「あ、ありがとう」


 優しく手に馬油を塗ってくれたブレンダの手はとても温かかった。ブレンダの手はかさついているが、とても優しい。バーニーの手と一緒だな、と思っていると、バーニーが料理を運んできた。
 改めて、ボソボソッとブレンダにお礼を言うと、アーリンはバーニーの手伝いを始めた。

 料理を運び終えた頃に、全員が起きてきた。昨日、蒸留酒ばかりをガンガン飲みまくっていたバーロとバリーは二日酔いの様子である。オードリーが薬箱を持ってきて、二人に二日酔いの薬を飲ませていた。

 とても豪華な朝食兼昼食の始まりである。美味しい料理の数々になんだか嬉しくなる。王都の邸で食べていたものよりも、ずっと美味しく感じる。
 アーリンが黙々と食べていると、ぐったり気味のバリーが口を開いた。


「食い終わったらベティんとこ行ってくるわ。お義父さん達がいいって言ったら、三日くらい泊まってくる」

「はいよ。あっ! ベティにチーズケーキを持っていってちょうだい! 去年作った木苺のジャムと一緒に! あちらのご家族と一緒に食べてもらえるよう、昨日の午前中に作っておいたのよ」

「おっ。ありがと。お袋。ベティが喜ぶわ」

「クッキーも持っておいき。ベティが好きな苺のジャムクッキーを作ってあるからね」

「おー! ばあちゃんもありがとー。ほんとにめちゃくちゃ喜ぶな」

「寒いから、身体を冷やさないように気をつけてやるんだよ」

「うん。分かった」

「あ、バリー。あちらの親父さんに蒸留酒持っていってくれよ。上物を用意しておいたんだわ。確か、好きだったよな?」

「親父もありがと。お義父さんが喜ぶわ。めちゃくちゃ蒸留酒好きだから」

「しまった。義姉ちゃんになんか用意しておけばよかった。兄貴。義姉ちゃんによろしく伝えといてよ。風邪には気をつけてって言っといて」

「おー。伝えとく。お前らはどうすんだ?」

「んー。あっ! アーリン! 今夜は遊びに行かない!? 花街の店はどこも営業してるし、飲みに行こうよ!」

「……あぁ」

「それじゃあ、晩ご飯は家で食べるのね。バーニー」

「うん。ご馳走がまだいっぱい残ってるしね! ばあちゃん、このスープの作り方のコツをいい加減教えてくんない?」

「ふふふっ。これは代々嫁にだけ受け継がれてるもんなんだよ。オードリーも作れるよ」

「そうね。でも、お義母さん程の味にはまだならないわ」

「単なる年季の差だよ」

「はぁー。食ったー。後片付けしたら昼寝すっかー。お袋、母ちゃん。俺達も今夜も飲むだろ?」

「そうねぇ。新年の祝いの時くらい飲もうかしら。果実酒はまだ残ってたわよね?」

「あたしも飲もうかね。一年を元気に過ごせるように願掛け兼ねて」

「三人とも楽しんでー。俺達も今夜は飲みまくろうぜ! アーリン」

「あぁ」

「今夜『も』の間違いでしょ!」

「ははっ! だってー! お袋。連休なんて一年に一回だけじゃん?」

「まぁねぇ。休みの間はのんびり過ごしましょうかねぇ」


 皆で手分けして豪華な食事の後片付けをすると、バリーは出かけていき、バーロ達は昼寝をすると言って、それぞれの部屋へ向かった。
 バーニーがアーリンの手をやんわりと握り、ニッと笑った。


「俺達も夜に向けて昼寝しとく?」

「……あぁ」


 バーニーに手を引かれて、バーニーの部屋へと移動する。ブーツを脱いで一緒にベッドに上がり、布団に潜り込む。風呂に入っていないからまだ微妙に酒臭いが、バーニーの体温と匂いにすごく気持ちが落ち着く。
 バーニーの温かい手を握れば、バーニーがやんわりと握り返してきた。なんだか頭がふわふわする。酒は残っていないと思っていたのだが、実はまだ酒が残っていたのだろうか。

 アーリンはバーニーと手を繋いだままくっついて、そのまますやぁっと寝落ちた。

 午後のお茶の時間を過ぎた頃に目覚めたアーリンは、穏やかな寝息を立てているバーニーの寝顔をじっと見た。糸目が特徴的だから、糸目にいつも視線がいきがちだが、目を閉じていると、中々に整った顔立ちをしていることが分かる。
 バリーも十分男前だし、アーリンなんかよりも、よっぽどバリーやバーニーの方が格好いいと思う。

 アーリンはバーニーが自然と目覚めるまで、なんとなくバーニーの手を握ったまま、穏やかな寝顔を眺めていた。

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