騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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23:新たな家族

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 毎日を賑やかに穏やかに過ごしていると、あっという間に新年を迎えて二か月が経ち、義姉が無事に男の子を出産した。産後半年はそのまま実家にいる予定である。

 バーニーは店休日の日にいつもより早くアーリンに起こしてもらうと、ちょっと洒落た服に着替えてから、台所へと向かった。

 今日は義姉の実家に甥っ子の顔を見に行く。生んで十日程経っているので、多少は落ち着いた頃だろう。
 義姉と家族には南瓜のタルトを作り、生まれたばかりの甥っ子には、赤ちゃん用のシーツを数枚贈る予定である。おしっこが漏れたり、ミルクを吐いたりで、シーツは何枚あっても足りないくらいらしい。オードリーが言っていた。

 アーリンにすごく気に入ってもらえた南瓜のタルトを丁寧に作り終えると、蓋付きの皿に入れて、大きめの紙袋に入れる。贈り物のシーツはもう買ってあるので、それはアーリンが持ってくれている。
 それぞれ祝いの品を持って、家族全員で家を出た。

 義姉の実家は比較的近所で、父親は役所に勤めており、母親は専業主婦をしている。義姉のベティは三姉妹の次女だ。
 ベティの実家の玄関の呼び鈴を押すと、ベティの母親が出てきた。おっとり美人なベティの母親がおっとりと笑った。


「あらあらぁ。おはようございます」

「おはようございます。ごめんなさいね。朝から大勢で押しかけちゃって」

「いいのよー。バリー君から事前に聞いてたもの。それに、ベティの体調もいいのよ。バルトも元気よぉ。早く顔を見てあげてくださいな」

「ありがとうございます。ご主人は、今日はいらっしゃいますか?」

「主人は今日は急遽出勤になっちゃったんです。元は休みを取ってたんですけどねぇ。皆様によろしく伝えてくださいとのことでした」

「そっすかぁ。いや、いい蒸留酒が手に入ったから、ちと一緒に飲めたらなぁと思ったんだが。まぁ、また今度の機会にします」

「ありがとうございます。さぁ、外は寒いでしょう? 中へどうぞ」


 ベティの実家に入ると、ベティの母親が一階にあるベティの部屋へと案内してくれた。
 入っても大丈夫とのことだったので、まずは洗面台を借りて全員手を洗ってから、先にブレンダ、バーロ、オードリーが中に入った。
 とても賑やかな声が聞こえてくる。この隙にと、バーニーは、バリーと話しているベティの母親に南瓜のタルトを差し出した。


「よかったらご家族で召し上がってください。南瓜のタルトなんですけど」

「まぁ。嬉しいです。ありがとうございます。南瓜のタルトだなんて、すごく珍しいわ」

「味の保証はしますよ。お義母さん。バーニーが作った新作料理の中じゃ、今のところ一番美味いです」

「まぁ。すごいのねぇ。ふふっ。皆甘いものが大好きだから嬉しいわ。ありがとうございます。バーニーさん」

「いえー。お口に合うと嬉しいですー」


 バーニーも一緒に世間話や甥っ子の話をしていると、部屋からバーロ達が出てきた。交代で、バリーも一緒にアーリンと部屋に入る。
 寝間着姿でベッドに座っているベティの側には赤ちゃん用のベッドがあった。


「義姉ちゃん、おめでとー! お疲れ様でした! 何事もなくてほんとによかったよー!」

「ありがとー! バーニー!」

「……お、おめでとう」

「あらぁ! ありがとう! アーリン!」

「俺達二人から。冬用と夏用のシーツセット!」

「助かるわー! まだ生んでほんの数日なのに、洗い物が激増しててねー。替えは多い方が助かるもの!」

「バルトを見てもいい?」

「もっちろん! あ、抱っこもしてみる?」

「怖いから抱っこは首がすわってからで! あ、でも、お手手握ってもいい?」

「いいわよー。バルト。バーニーおじちゃんとアーリンおじちゃんよ」

 
 赤ちゃん用のベッドを覗き込めば、頭頂部にちょろっと栗毛が生えた可愛らしい赤ちゃんがいた。よくよく見れば、ものすごく小さいのに手にも足にも爪が生えている。人間って不思議だ。
 そーっと優しくバルトの手を握れば、やんわりと温かい。小さな手の温もりが可愛らしい。


「我が家へようこそ。バルト。一緒にいっぱい笑って暮らそうな。アーリン。交代」

「あ、あぁ」


 アーリンと交代すると、バルトの小さな手を握ったアーリンがほんの微かに口角を上げ、囁いた。


「君に心からの祝福を。生まれてきてくれて、ありがとう」


 アーリンの言葉を聞いたベティが、とても嬉しそうに笑った。
 あんまり長居してはベティの負担になるので、ベティにくれぐれも無理はしないように伝えてから、部屋を出た。
 お茶をご馳走になってから、ベティの実家を出る。家に向かって歩きながら、バーロがうきうきした様子で口を開いた。


「ベティとバルトを迎え入れる準備を始めねぇとな! 赤ん坊用のベッドは一応あるけど、古いから買い直そうぜ。いいだろ? 母ちゃん」

「いいわよ。バルト用のシーツやおむつはお義母さんと量産中だし……あっ! お風呂入れの道具! あれも古いから買い直した方がいいわ!」

「乳母車も新しいものがいいんじゃないかい? 今あるのはバーニーが使っていたものだろう」

「あ、それもあったな。お袋。他に買っておいた方がいいものはあるか?」

「そうねぇ。ベティの希望もあるだろうから、ベッドとか大物以外は、ベティが帰ってくる前に打ち合わせて用意した方がいいと思うわよ」

「あ、バリー。バルトが乳離れするくらいまでは大変だから、お前は昼間の営業だけな」

「ん? それで大丈夫なのかよ。親父」

「夜の営業はメインをバーニーにやらせて、俺も補佐で出る。アーリンもいるし、なんとかなるだろ。バーニー、気張っていけよー」

「まっかせといて! アーリン! 一緒に頑張ろうね!」

「あぁ」

「孫が増えたし、益々頑張らねぇとな!」

「そうね! ふふっ。家族が増えるってほんとに素敵だわぁ」

「あ、そうだ。バーニーとアーリンの結婚式はいつやる?」

「…………え?」

「あ、アーリンに言ってなかったね。家族だけの結婚式したーいって話になっててー。俺と親父の間で。アーリンはどう? 嫌ならしないけど」

「……い、嫌じゃない……」

「大丈夫か? アーリン。顔がやべぇくらい真っ赤だぞ。それなら、アーリンの誕生日にやったらいいんじゃねぇの? アーリン、誕生日いつ?」

「……よ、四の月の二十五日目……」

「おっ。いい季節だな。過ごしやすいから、ベティとバルトも参加できる。バーニー。お前、気合入れてアーリンをいつも以上に男前にしろよ」

「当然! めちゃくちゃ気合を入れて服探しするよ! 兄貴!」

「え? え?」

「めちゃくちゃ格好いいアーリンを見るためなら、めちゃくちゃ頑張るからね! 俺!」

「ふふっ。どうせだ。ビシッとした礼装を用意しな。クラバットはあたしが作るよ。花婿のクラバットはね、祖母か母親が作ると、より幸せになれるんだよ」

「へぇー。そうなんだ」

「俺の結婚式の時に着けたクラバットもばあちゃんが作ってくれたやつだぜ」

「へぇー。ばあちゃん! よろしく! 格好いいのがいいです!」

「任せておきな。飛び切り素敵なクラバットを作るよ」

「ありがとー! ばあちゃん!」

「あ、あ……あ、ありがとう。ブレンダさん……」

「アーリン。家族になるんだ。『ばあちゃん』でいいよ」

「あ、俺も『親父』でいいわ」

「あたしも『お袋』でいいわよー」

「俺も『兄貴』でいいぞ」

「あ、あ……え、えっと……」

「アーリン。アーリン。ちょっと落ち着こう。すごい顔真っ赤だから。すこーしずつでいいから、慣れていってくれたら嬉しいな」

「あ、あぁ」


 多分、アーリンは嬉しいのだと思う。頬を真っ赤に染めて、どこか泣きそうな顔をしている。悲しい雰囲気じゃない。むしろ、すごく嬉しそうな雰囲気だ。
 バーニーはこっそりアーリンの手を握り、わちゃわちゃと喋りながら、アーリンと寄り添って家まで歩いた。

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