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その青空を僕は愛した

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 アルベールは、鉄格子が嵌められた窓から、空を見上げた。雲一つない空は青々としていて、太陽が眩しい。

 アルベールは、貴族の愛妾だ。元々は、アルベール自身も貴族の子息だったが、13歳の時に、賭博にハマって借金まみれになった父親によって売られた。それから10年。アルベールは、愛妾として、屋敷の一室に閉じ込められ続けている。週に一度、アルベールの主人が、アルベールを犯しに来る。

 アルベールは、顔立ちが、国内有数の美姫だと評判だった母親にそっくりだった。主人は、アルベールの母親に懸想していたらしい。アルベールは、母親の代わりに抱かれている。主人が、アルベールを名前で呼んだことはない。いつも、母親の名前で呼びかけられる。主人は癇癪持ちだから、主人の言うとおりにしないと、酷く折檻された後で、犯される。アルベールは、檻のような屋敷の一室で、ただ、主人の玩具になる為だけに生きている。

 アルベールは、窓の外から視線を外し、母親譲りの長い銀髪を手慰みに三つ編みに結い始めた。ベッドと姿見、小さなテーブルと椅子、トイレと狭い風呂場しかない部屋である。姿見があるのは、主人の趣味だ。主人は、姿見の前でアルベールを犯すことが大好きな変態である。

 アルベールは、特に意味もなく、姿見の前に立った。母親譲りの銀髪に、深い蒼色の瞳、顔立ちは女性的に美しくて整っていて、日焼けを知らぬ肌は、白過ぎて、まるで人形のようだ。主人に抱かれる時以外は、何もすることが無いし、外には出られないので、ほっそりとした頼りない身体つきをしている。日に一度、使用人によって、美容の為に肌や髪の手入れをされるので、我ながら、見た目だけは美しいと思う。だが、中身は世間知らずの玩具の人形だ。13歳の時に、此処に閉じ込められて、主人以外と話した事すら無い。使用人達は、アルベールと話すことを禁じられているようで、話しかけても、何も返してこない。

 アルベールは、ベッドに腰掛けて、ぼんやりと考えた。記憶違いじゃなければ、今夜、主人が此処に来る。主人の機嫌が少しでもいいと助かる。痛いことや苦しいことをされるのは好きじゃない。自分はきっと、主人に飽きられて捨てられるか殺されるまで、主人の玩具の人形のままなのだろう。

 アルベールは、ベッドに寝転がって、鉄格子越しに窓の外を見上げた。


「もし、外に出られたら……僕は何がしたいのだろう」


 ぽつりと呟いた問いの答えは、自分でも分からなかった。




ーーーーーーー
 アルベールは、使用人によって、美しいドレスを着せられた。長い髪をきっちり結い上げられ、薄く化粧もされる。姿見に映る自分は、気持ちが悪い程、母親に瓜ふたつだった。アルベールは、母親そっくりなおっとりとした笑みを顔に貼り付けた。主人が満足して部屋から出ていくまで、アルベールは『アルベール』ではなくなる。

 主人を迎える準備が済むと、使用人達が部屋から出ていった。ご丁寧に、ガチャッと外から鍵をかけられる。アルベールは、笑みを貼り付けたまま、大人しくベッドに腰掛けた。

 ランプの灯りに照らされた室内で、主人が訪れるのを待つが、主人は中々来ない。もしや、今日は来ない日なのだろうか。たまに、準備をしても、この部屋に来ない時がある。そうだったら嬉しい。アルベールの主人は、醜く肥え太っていて、ちょっとした事で、アルベールを折檻する。かと思えば、猫なで声を出して、好き放題にアルベールを犯す。折檻も、犯されるのも、大嫌いだ。だが、逃げ出すことはできないし、逃げ出したところで、何もできずに野垂れ死にするのが関の山だ。

 アルベールが、淡い桃色に染められた爪をなんとなく眺めていると、ガチャッと鍵が開く音がした。残念ながら、今日も主人が来たらしい。
 アルベールは、笑みを貼り付けたまま、ドアの方を向いた。そして、きょとんと目を丸くした。

 開いたドアの所には、白い仮面をつけた黒い衣装の男が立っていた。手には、鈍く光る大振りのナイフを持っている。よくよく見れば、ナイフは赤い血で染まっていた。仮面の男が、地味な茶色い髪をポリポリと掻き、無言でアルベールに近寄ってきた。
 男が側に来ると、ふわっと濃い血の匂いがした。不思議と怖いとは思わなかった。唯ぼんやりと、あぁ、自分は死ぬのかと、どこか他人事のように思っただけだ。

 アルベールは、貼り付けていた笑みを消した。きっと、アルベールの主人は、もう殺されている。もう、アルベールは、母親の真似事をする人形ではない。最後くらい、『アルベール』として死にたい。

 アルベールが殺されるのを待っていると、仮面の男が何故か溜め息を吐いて、アルベールに話しかけてきた。


「選びな」

「え?」

「今、死ぬか、俺と一緒に来るか」

「……一緒に、行く」


 アルベールは、考えることなく、答えていた。10年ぶりに、誰かに『自分の言葉』を発した気がする。仮面の男が、ふらっとその場から立ち去った。アルベールを連れて行くのではないのだろうか。アルベールが大人しく待っていると、すぐに仮面の男が戻ってきた。手には、使用人の服を持ってる。


「着替えろ。そのドレスじゃろくに動けない。それから、髪を切る。お前の髪は目立ち過ぎる」

「……うん」


 アルベールは、その場で四苦八苦しながらドレスを脱ぎ捨て、男物の使用人の服に着替えた。仮面の男が、着替えたアルベールの背後に回り、ざっくりとアルベールの髪を切り落とした。腰のあたりまであったアルベールの長い髪は、うなじが出る程短くなった。一気に軽くなった頭に、アルベールの胸は高鳴った。これからどうなるのか分からない。でも、外に出られる。自由の身にはならないのだろうが、この檻から外に出られることが素直に嬉しい。

 仮面の男が、フード付きの外套を着たアルベールの身体を無造作に肩に担ぎ上げて、部屋を出て、走り出した。人一人担いでいるとは思えない速さに、アルベールが驚いていると、仮面の男がクックッと低く笑った。


「囚われのお姫様を攫ってる気分だぜ」

「僕は男だ」

「知ってる。調べたからな」

「そう」


 仮面の男は屋敷の外に出ると、アルベールを馬に乗せ、自分も軽やかに一緒に馬に乗り、馬で駆け出した。アルベールは、血の匂いがする仮面の男の黒衣にすがりつきながら、一晩中、馬に揺られて、知らない場所へと逃げ出した。




ーーーーーーー
 アルベールの1日は、飼っている鶏の鳴き声に起こされて始まる。欠伸をしながら粗末なベッドから下りて、顔を洗いに、家の裏にある井戸に向かう。アルベールが井戸の水を汲み上げ、盥に水を張って顔を洗っていると、仮面を外した仮面の男、もとい、ブレーズがやって来た。本名なのかは分からないが、仮面の男は、この森の中の小さな家に着いた時に、『ブレーズだ』と名乗った。

 ブレーズは、地味な茶色い髪と澄んだ青空のような色合いの瞳をした、印象が薄い顔立ちをしている。特徴らしき特徴が無い。きっと、街の雑踏にいたら、見つけることは難しいだろう。ブレーズは、表では薬師として働いており、裏では暗殺者として働いている。

 アルベールは、欠伸をしながら、シャツの裾に手を突っ込んでボリボリ腹を掻いているブレーズに声をかけた。


「おはよう。ブレーズ」

「おう。おはようさん。今日は商人のおっさんが来る。お前は、朝飯食ったら畑の手入れだ」

「分かった」


 この家に来て、もう半年になる。それまでやったことが無かった家事や薬草畑の手入れにも、随分と慣れた。アルベールは、手拭いで顔を拭くと、先に、鶏から卵を分けてもらってから、台所へと向かった。

 ブレーズは、アルベールを連れ出したのに、何もしてこない。唯、アルベールに、この家での生活の仕方を教えるだけだ。気紛れに、簡単な薬の作り方を教えてくる時もある。アルベールは、ブレーズが何を考えているのか、さっぱり分からない。でも、森の中での静かで穏やかな暮らしは、今までにない新鮮さで溢れている。アルベールは、ブレーズに教えてもらったことを一生懸命覚えて、毎日、朝から晩まで、動き回る日々を送っている。毎日、くたくたに疲れるが、陽の光を浴びて、風に頬を撫でられて、土に触れる日々は、乾燥していたアルベールの心をどんどん潤してくれる。アルベールは、あの檻の中から連れ出してくれたブレーズに、とても感謝をしている。最近では、ブレーズに何か恩返しができないかと、考えるようになった。アルベールができることは、ブレーズは全部アルベールよりも上手くできる。金なんか持っていないし、アルベールが差し出せるものなんて、己の身体くらいだ。

 ブレーズは、ぶっきらぼうだが、何もできなかったアルベールに、根気よく色んな事を教えてくれて、慣れない作業で怪我をすれば、小さな怪我でも治療してくれる。何を考えているのか分からないが、少なくとも、ブレーズは、アルベールを一人の人間として扱ってくれる。それがアルベールにとって、どれだけ嬉しいことか、きっとブレーズには分からないだろう。ブレーズのぶっきらぼうな優しさに触れて、アルベールは、『人形』から、完全に『人間』に戻った。
 アルベールの中に、殆ど無くなっていた『欲』が蘇ってきている。ブレーズに、触れてもらいたい。人を殺すその優しい手で、アルベールに触れて、アルベールの中に入って、アルベールの中で果てて欲しい。ブレーズと繋がって、一つになりたい。
 気づけば、アルベールは、恩返しという意味以外でも、ブレーズに求められたくなっていた。

 とある雨の日。アルベールは、することが無くて、暇を持て余していた。晴れた日は、朝から晩まで動き回っているので、雨の日は出来ることが少なくて暇になる。以前は、自分はどうやって持て余す時間を潰していたのだろうか。もう思い出すこともできない。

 アルベールが、薬の匂いが漂う居間で、椅子に座って、退屈に欠伸を連発していると、居間の片隅で薬草を弄っていたブレーズに声をかけられた。


「暇そうだな」

「暇だよ。やる事はない?」

「特にないな」

「そう。……ねぇ」

「なんだ」

「ブレーズは何で僕に何もしないの?」

「何だ。して欲しいのか」

「うん」

「素直かよ」


 ブレーズが、可笑しそうに、クックッと低く笑った。ブレーズが座っていた椅子から立ち上がり、アルベールの側に来た。少し伸びたアルベールの髪を優しく梳き、ブレーズが右の口角を上げて笑った。


「暇だし、ヤるか?」

「うん」

「ははっ! 即答かよ」


 多分、ブレーズの気紛れなのだろう。それでも、アルベールは、ブレーズに触れてもらえると、嬉しくなった。アルベールは椅子から立ち上がり、ブレーズの首に両腕を絡めて、ブレーズの唇をやんわりと吸った。自分からキスをするなんて、生まれて初めてだ。なんだか、胸がドキドキと高鳴って、いっそ叫びだしたいような気分になる。ブレーズにくっついていると、顔がじわじわと熱くなる。これは一体何だろう。いまいちよく分からないが、少なくとも、とても気分がいい。

 ブレーズが唇を触れ合わせたまま、楽しそうに低く笑った。間近にある澄んだ青空のような色の瞳が、楽しそうな色を浮かべている。
 アルベールは、ブレーズに無造作に抱き上げられて、ブレーズの部屋に移動した。粗末なベッドに下ろされ、服を脱ぐように言われる。ブレーズに言われるがままに服を脱ぎ捨て、全裸になると、ブレーズが、どこか眩しそうにアルベールを見つめた。


「お前は美しいな」

「そうだね」

「そこは嘘でも否定しろよ」

「僕には『美しさ』しかないもの。今だけの。歳をとったら、何も無くなる」

「お前は働き者だろうが。家事も薬草の世話も覚えた」

「そう……かな」

「あぁ。立派な働き者だ」


 ブレーズがアルベールの手を握り、アルベールの手の甲にキスをした。アルベールの手は、毎日の家事や農作業で、荒れている。その手を、ブレーズは、『働き者の美しい手だ』と褒めてくれた。嬉しくて、顔が更に熱くなる。

 ブレーズも、その場で服を脱ぎ捨てた。ブレーズの身体は、細身なのに、筋肉質で、がっしりとした大人の男の身体だった。まるで野生の獣のような美しさがある。
 アルベールは、ブレーズの身体を眺めて、ほぅと熱い息を吐いた。下腹部にどんどん熱が溜まっていく。久しく使っていないアナルが、うずうずしてくる。こんな事、初めてだ。

 アルベールは、ブレーズにベッドに押し倒されて、大人しくブレーズの唇を受け入れた。ブレーズが何度も優しくアルベールの唇を吸い、はぁっと熱い息を吐くアルベールの唇の隙間から、ぬるりとアルベールの口内に舌を差し込んだ。ブレーズの舌が、歯列をなぞり、歯の裏を擽って、上顎をねっとりと舐めてくる。腰のあたりがぞわぞわする微かな快感と、初めて感じる興奮に、アルベールのペニスは硬く張り詰めた。ブレーズが、アルベールの口内をねっとりと舐め回しながら、アルベールの肌に触れていく。舌を伸ばして、ぬるりぬるりと絡め合うと、間近にある青空のような瞳が、熱を持った。

 ブレーズの優しく手がアルベールの身体を撫で回し、ブレーズの舌がアルベールの肌を這う。主人にされていた時は、不快なだけだったのに、今は気持ちよくて、興奮して堪らない。ブレーズがアルベールの乳首に吸いつき、ちゅくちゅくと優しく吸ってくる。気持ちよくて、でも、少しもどかしい。もっと、もっと、アルベールの身体の奥深くまで触れてほしい。
 アルベールは、ブレーズに声をかけた。


「ねぇ、我慢、できない」

「くはっ! そうかい。尻を出しな」

「うん」


 アルベールに覆いかぶさっていたブレーズが身体を起こしたので、アルベールは起き上がり、四つん這いになった。ブレーズの手がアルベールの柔らかい尻に触れ、むにむにと揉んだ後、ぐにぃっと尻肉を広げられた。アナルに直接外気が触れる。使い古した汚いアナルを、ブレーズに見られている。その事が、恥ずかしくて、でも、不思議と興奮する。ぬるぅっと、熱いものがアルベールのアナルに触れた。ブレーズの舌だと分かった瞬間、どっと先走りが溢れ出た。アナルの表面を舐められているだけで、堪らなく気持ちがいい。アルベールは腰をくねらせて、小さく喘いだ。

 アルベールは、シーツを強く掴んで、ひっきりなしに喘いでいた。アルベールのアナルの中には、ブレーズの指が、もう三本も入っている。腹の中の気持ちがいいところを指の腹で擦られる度に、勝手に腰が震えて、甘える猫のような声が出てしまう。

 ブレーズの指が、ずるぅっと、アルベールのアナルからの抜け出ていった。ころんと身体をひっくり返されて、アルベールは、自分から膝裏を持って、足を大きく広げ、腰を少し浮かせた。何気なくブレーズのペニスを見れば、ブレーズのペニスは、主人のものとは比べ物にならないくらい太くて長く、勃起して、下腹部にくっつきそうな勢いで反り返っていた。あれが、アルベールの中に入って、アルベールの欲しがる中を満たしてくれる。アルベールは、ごくっと唾を飲みこみ、欲しくて欲しくて、勝手にひくひくしてしまうアナルに熱くて硬いものが触れた瞬間、溜め息のような喘ぎ声をもらした。
 メリメリと解して尚狭いアルベールのアナルを押し拡げながら、ブレーズのペニスがアルベールのアナルの中に入ってくる。鈍く痛むが、それ以上に、気持ちよくて、興奮して、アルベールは、だらしない声をあげながら、我慢できずに、とろとろと勃起したペニスから精液を漏らした。射精しているアルベールを見下ろして低く笑いながら、ブレーズが更に奥深くにまでペニスを押し込んでくる。ブレーズのペニスが、鋭く痛むところを過ぎて、腹の奥深くを、トンッと硬いペニスで突いた。瞬間、鋭い痛みと強烈な快感が脳天へと突き抜ける。


「あぁっ!?」

「思っていたより締まりがいいな」

「え、あっ! あっ! あぁっ! すごいっ! な、こんなっ! こんなのっ! しらないぃぃ!」

「あ? なんだ。あの貴族、粗チンだったのかよ」

「あっあっあっあっ! すごっ! いいっ! いいっ! きもちいいっ!」

「ははっ! そりゃあ何より」


 ブレーズが笑いながら、アルベールの腹の奥深くをトンッ、トンッと突き上げてくる。強烈過ぎる快感に、目の裏がチカチカする。こんな快感、知らない。アルベールの中を、ブレーズがみっちりと満たして、強烈な快感を叩き込んでくる。アルベールは、大きく喘ぎながら、ブレーズに両手を伸ばした。ブレーズが腰を振りながら上体を伏せ、アルベールの唇に強く吸いつき、めちゃくちゃにアルベールの口内を舐め回し始めた。気持ちよくて、気持ちよくて、もう訳が分からない。

 アルベールは、あまりの快感に啜り泣きながら、夢中でブレーズを求めた。



ーーーーーーー
 ブレーズと身体を重ねるようになって、半年が過ぎた。この森の中の家で暮らし始めて、そろそろ1年になる。ブレーズは、昼間は薬師として働き、夜は、時折、暗殺の仕事に出かける。暗殺の仕事が無い時は、アルベールを優しく情熱的に抱いてくれる。アルベールは、今までの人生で一番満たされた日々を過ごしている。

 ブレーズが仕事でいない夜。アルベールは、一人で小さなランプの灯りの元、針仕事をしていた。昨夜は、ブレーズがいつになく激しく抱いてくれた。今日の昼間は、腰が痛くて動けない程、情熱的に抱いてくれた。アルベールは、きっとブレーズのことを愛しているのだと思う。ブレーズに触れられるだけで、幸せで、何故だが泣きたくなる。

 アルベールが針仕事を終え、まだ痛む腰を擦りながら椅子から立ち上がると、居間の木の窓が、ガーンッと大きな音を立てて壊れた。反射的に、ビクッと身体を震わせたアルベールは、窓の外から投げ込まれたものを見て、凍りついた。それは、ブレーズの頭だった。喉仏の少し上からしか無い。アルベールが大好きな澄んだ青空のような瞳は、虚ろな硝子玉みたいになっていた。アルベールは、震えながら、ブレーズの頭に近寄り、そっとブレーズの頭を持ち上げて、抱きしめた。

 ブレーズは、暗殺者をしていた。もしかしたら、いつかこんな日が来るんじゃないかと、薄々思っていた。アルベールは、ブレーズの頭を抱きしめながら、静かに涙を零した。

 家に火をつけられたのか、どんどん家の中の空気が煙たくなり、チロチロと炎が居間の中にも入ってきた。熱い。アルベールは、抱きしめているブレーズの唇にキスをした。炎が、アルベールの服に燃えつき、アルベールの身体も燃やし始める。アルベールは、ぎゅっとブレーズの頭を抱きしめて、小さく縮こまった。熱い。痛い。痛い。痛い。……怖い。助けを求めたい相手は、今はアルベールの腕の中だ。

 アルベールは、炎にその身を炙られながら、朦朧とする意識の中、ブレーズのことを思った。アルベールはブレーズのことを愛している。ブレーズも、少しはアルベールのことを愛してくれただろうか。

 霞む目で、アルベールが大好きな青空を見つめて、アルベールは微笑んだ。アルベールの青空は、アルベールが連れて行く。ブレーズがアルベールを連れ出してくれたように、今度はアルベールがブレーズをこの世から連れ出す。

 アルベールは、ブレーズの頭を抱きしめたまま、その身を炎で焼き尽くされた。



(おしまい)
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みんなの感想(1件)

きらら
2023.12.14 きらら
ネタバレ含む
丸井まー(旧:まー)
2023.12.15 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

こんばんはー!
こちらでは、はじめまして?です!
素敵な感想を本当にありがとうございますーー!!(泣)
嬉し過ぎて、語彙力が死んでおります!!
この喜びを上手くお伝えできないのが、酷くもどかしいです!

束の間の幸せな時間があり、『人間』として愛おしい人を抱いて逝けたので、私の中ではハピエンなお話になっております。

お読みくださり、本当にありがとうございました!!

解除
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