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16:ご対面

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風の宗主国に夏がきた。
今年も去年と同じく、ロヴィーノ親子の夏休みがやってくる。今年はフェリの次男のフリオも一緒だ。三男のアルジャーノはサンガレアで合流する。残念ながら予定が合わず、孫のアマーリエとアーダルベルトは夏休み後半からの合流となるが、なんだか家族でバカンスって感じで、フェリはすごく嬉しかった。
数日前からロヴィーノ達と世話になるマーサ達への土産を選んだりと、準備の段階で既に楽しかった。
フェリは7歳になったフェルナンドの手を握ってワクワクしながら、転移陣を使ってサンガレアへと移動した。








ーーーーーー
サンガレアに着いて、マーサ達に挨拶をし、服屋に行って服を買って、サンガレアの郷土料理が食べられる店で家族揃って昼食を楽しんでいる時だった。


「時に母上」

「んー?なんだ、ロヴィーノ。追加注文か?」

「あ、じゃあこの鶏南蛮を追加で。……ってそうではなく」

「ん?」

「アルジャーノから聞きました」

「なにを?」

「恋人がいるそうで」

「ぶはっ!」


フェリは飲んでいたラッシーを少し吹き出した。フリオがナプキンを差し出してくれたので、口周りや汚れたテーブルを拭く。自分の顔が赤くなっている気がするが気のせいということにしたい。


「会わせてください」

「なっ、なんで!?」

「当然でしょう?もしかしたら俺達の父親になるかもしれない人物ですよ?」

「うっ……そ、そうなるかもしれないけどもっ」

「アルジャーノは会ったことあるのか?」

「ん?俺は普通に仲いいよ。たまにマーサ達と一緒に酒飲んでるもん。あ、フリオ兄上。それ取って」

「これか?で、どんな男なんだ?」

「めっちゃモテる男前」

「へぇ」

「お祖父様ができるの?」

「そうなるかもって話だよ、フェルナンド」

「母上。クラウディオ分隊長なら明日から2連休らしいよ」

「え、マジか。アルジャーノ」

「うん。マーサが言ってた」

「じゃあ、明日お宅訪問ということで」

「いやいや待て待て。明日は急すぎるだろう、ロヴィーノ」

「善は急げと申しますよ。母上」

「いやでもな……」

「残念ながら決定事項ですから。諦めてくださいね。母上」

「え、えぇ……」


フェリは困って頭を掻いた。ロヴィーノはこうと決めたら曲げないところがある。頑固ともいう。明日はクラウディオのお宅訪問が決まってしまった。こうなったら早めにクラウディオに連絡するしかない。フェリはトイレに行くと言って、トイレ前の店の通路で魔導通信具を起動させた。






ーーーーーー
息子3人と孫のフェルナンドを引き連れて、フェリはクラウディオの家の玄関に立っていた。呼び鈴を押さねばならない。だが、押したくない。別に付き合ってることを秘密にしたいわけではない。でも子供達に知られるのは、なんだか気まずいというか、恥ずかしいというか、複雑なのだ。呼び鈴を押すのを躊躇しているフェリに焦れたのか、フリオが呼び鈴を押した。


「あ」


すぐに玄関が開いた。今日も洒落たシャツを着たクラウディオがすぐ目の前に立っていた。髪型もばっちりきまってて、背後に子供達がいなければ抱きついてキスしているくらい格好いい。


「いらっしゃいませ。お待ちしてました 」

「どうも」

「どうぞ中へ。狭いところですが」

「お邪魔する」


クラウディオを見た途端固まったフェリを引きずって、ロヴィーノがクラウディオの家に入る。フリオ達もゾロゾロとクラウディオの家に入った。


「見ての通り、狭い家ですので……椅子が折り畳み式のものしかないのですが……」

「突然訪問したのはこちらだ。気にしないでもらいたい」

「はい。お茶を淹れてまいります」

「ありがとう」


クラウディオとロヴィーノは普通に会話している。フェリはつい固まってしまったが、なんとか気持ちを奮い立たせて、クラウディオを手伝うと言って、クラウディオがいる台所へ1人向かった。
クラウディオは人数分のカップを出してお盆にのせているところだった。


「あ、フェリ。今お湯を沸かし直してるんだ」

「そ、そうか。その……悪い。突然……」

「ん?構わないさ。俺もできたら挨拶くらいしたいなぁって思ってたから」

「そうなのか?」

「うん。あ、お湯沸いた」


クラウディオが手際よく人数分のお茶を淹れていく。お茶を淹れると、少し屈んでフェリに軽いキスをしてからお盆を両手で持って居間へと歩きだした。フェリもすぐにその後を追う。

2人だと十分な広さの居間も、大人が5人と子供が1人いれば狭く感じる。フェリはなんとなく居心地の悪さを感じていた。気まずいとも言える。


「改めて、長男のロヴィーノだ。こっちは息子のフェルナンド」

「クラウディオ・マックロイと申します」

「フリオだ」

「ん?俺も?アルジャーノ」

「クラウディオ殿は母上とお付き合いしているそうだが」

「はい。フェリと交際をさせていただいています」

「どこまで真剣な付き合いなんだ?」

「おい、ロヴィーノッ!?」

「あ、母上はちょっと黙っててくださいね」

「フェリさえよければ、いずれ婚姻したいと思っています。……ただ、俺は平民なので実際問題難しいでしょうが、マーサ様が協力してくださるので、何とかなるかと」

「ク、ク、ク、クラウディオ!?」

「本気か?」

「はい」


真剣な顔でロヴィーノと向き合っているクラウディオに驚いた。まさかそこまでクラウディオがフェリとのことを考えているとは思っていなかった。ロヴィーノが子供のように、小さく唇を尖らせた。


「……まぁ、そこまで考えているなら母上との交際を認めよう。フリオとアルジャーノもいいか?」

「まぁいいでしょう」

「俺は最初から2人の仲を応援してるし」

「お祖父様になったの?」

「まだ結婚してないから厳密にはまだだな」

「……ありがとうございます」


クラウディオがほっとしたように微笑んだ。フェリは何も言えずに、ただ顔を真っ赤にしていた。何だかサラッとプロポーズされた気がする。正式に恋人になって何年も経ってないのに話が急すぎやしないだろうか。……いや、全然全くこれっぽっちも嫌ではないのだが。むしろ、かなり嬉しいのだが。
真っ赤になっているフェリを置いてきぼりにして、息子達とクラウディオの会話は続いている。


「クラウディオ殿は趣味は?」

「ここ数年は料理にハマっています。あとはピアスや髪飾りを作ったり、マーサ様が家を建てる時に一緒にやったりしています」

「森の母上の家建てる時もいたよな。確か」

「はい」

「趣味が多いんだな」

「そうですね。サンガレアでは趣味を持つことを推奨されているので、その分、体験教室などが多く行われているんです。例えば、料理教室みたいに本格的に何かを覚えられる講座も多いですし」

「へぇ」

「アマーリエとアーダルベルトつれて体験教室には何度か行ったことあるけど、結構面白いぜ。基本的に参加費が材料費代だけとかだから、参加費安くて気軽に行けるし」

「……それ俺とフェルナンドも参加できるか?」

「街の中央広場の横に総合案内所がありまして、そこで今どんな講座や体験教室が行われているかが分かりますよ。受付もそこですし。ものによっては飛び込み参加可能のものもあります」

「そうなのか」

「はい。よろしければ明日ご案内いたしましょうか?」

「んー……頼もうかな」

「いいのか?」

「はい。明日も仕事が休みですから」


そう言ってクラウディオがにこやかに笑う。フェリが口を挟む間もなく、クラウディオと息子達との間で話がドンドンまとまり、明日は家族+クラウディオで出かけることになってしまった。マジか。
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