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95:続いていく幸せ

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初めてアデルちゃんを預かった年から、それ以降は夏休みのバードが仕事で不在の日の昼間と軍人達の修羅場である年末年始にアデルちゃんをジャン達の家で預かることになった。
ジェラルドは嬉しいばかりである。ジャンやロヴィーノ達もアデルちゃんを気に入っているので、普通に歓迎している。アデルちゃんを預かるようになり何年経っても、夏休みなどにバードがアデルちゃんにくっついてくると、バードの顔を見るなりクラウディオがハリネズミ化するので正直少し面倒くさい。しかし、普段は余裕のある大人みたいな顔をしたクラウディオが毛を逆立てた猫みたいにバードを威嚇するところを見るのがジャンとしては地味に楽しい。なんというか、新鮮なのである。クラウディオがハリネズミ化しても、ジャンや子供達に実害があるわけではないし、ジャンとしてはアデルちゃんと共にバードが家に来ても全然構わない。フェリも特に気にしていない。バードはクラウディオの元カレとはいえ、クラウディオはフェリを溺愛しているし、おまけにめちゃくちゃバードを嫌っているので、元サヤにおさまることは多分あり得ないからだろう。バードはマーサ様のこっそり秘密の嫁だそうだから尚更である。クラウディオがバードと恋人だったのは相当昔の話らしいが、クラウディオは自分でも『自分は根にもつタイプだ』と言っているくらいだから、本当に恋人だった頃のことを未だに根にもっているのだろう。それはそれですごいとジャンは思っている。

今年も軍人達の修羅場の時期がやってきた。年が明けて夏が来たら、ジェラルドは10歳になる。アデルちゃんをジャン達の家で預かるのも3度目だ。夏休みは勿論、普段もたまに放課後に遊びに来るので、アデルちゃんもジャン達もお互いすっかり慣れている。
今年もアデルちゃんは大きな鞄を持って、バードに連れられて我が家へやって来た。


「今年もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


礼儀正しく玄関先で頭を下げる親子を笑顔で出迎え、アデルちゃんの頬にキスをして足早に街へと戻るバードを子供達と見送った。アデルちゃんは慣れたのか、子供ながらに仕方がないことだと諦めているのか、今年はバードが去っても涙ぐむことはなかった。


「アデル。鞄持つよ」

「ありがとう。ジェラルド」


ジェラルドがアデルちゃんから大きな鞄を受け取った。ジェラルドはクラウディオの教えを守り、優しく幼いながら紳士である。


「……アデル」

「なぁに?」

「この鞄何が入ってるの?鉄板?すごい重いんだけど」

「お父さんが本をいっぱい買ってくれたの。冬休みに読みなさいって。図書館で借りて読んで、ずっと自分でも欲しかった本もあるのよ」

「へぇ。よかったね」

「うん」

「部屋に鞄を置いたら皆で温かいミルクセーキでも飲もうか」

「ありがとうございます。ジャンおじさん」


礼儀正しいアデルちゃんは本当に好ましい。少し大人しいが、とても優しくて真面目な子だ。ジェラルドのお嫁さんになってくれたら嬉しいと、よくロヴィーノと話している。

ジェラルドもアンジェラも飛竜での飛行訓練の時は、今年はアデルちゃんはロヴィーノと共にあみぐるみに挑戦していた。ロヴィーノがあみぐるみを下の弟達や甥っ子姪っ子にあげたいと練習を始め、それにアデルちゃんが興味を示したからだ。子供達の飛行訓練が終わって帰ると、いつも居間で2人でお喋りしながら、あみぐるみを作っている。ロヴィーノはそこまで手先が器用ではないので、すこーしずつしか上達しないが、アデルちゃんは手先が器用なので、すぐに可愛らしい編み目もきれいなあみぐるみを作れるようになった。あみぐるみの作り方が載っている本にあった可愛らしい熊のあみぐるみを作り、アンジェラにあげていた。アンジェラはすっかりアデルちゃんに懐いているので、素直に喜んでいた。

アデルちゃんが一緒の年越しも3度目になると、なんだかアデルちゃんがいることが当たり前のように感じるようになった。他の下の孫達も物静かで優しいアデルちゃんに懐いている。自宅で自分でバードの為に美味しいものを作れるようになりたいからと、特に今年は積極的に食事の支度を手伝ってくれる。アデルちゃんが手伝いをしてくれると、もれなくジェラルドとアンジェラもいつもより進んで手伝いをしてくれるので助かっている。ロヴィーノも普段より賑やかな炊事が楽しいらしく、自分で作ったレシピ集を広げながら、子供達と楽しそうに料理をしている。実に微笑ましい。

アデルちゃんはあまり運動は好きじゃない。外に出るよりも家の中にいることを好んでいる。しかし家に引きこもっていては身体によくないので、ジェラルドは毎日のようにアデルちゃんをちょっとした散歩に連れ出している。アンジェラがついていくこともあるが、基本的には2人でだ。年明け2日目には、ジャンはジェラルドとアデルちゃんが仲良く手を繋いでいるところを偶然目撃した。手を繋いで顔を見合わせて、照れたように笑いあう少し幼い青春がなんとも甘酸っぱい。娘を溺愛しているバードが知ったら大騒ぎしそうな程、じわじわジェラルドとアデルちゃんの距離は縮まっている。ジャンとしては大歓迎だ。そう遠くないうちに、可愛い娘が増えるかもしれない。ジャンもロヴィーノも幼い恋を全面的に応援している。












ーーーーーー
ジェラルドが中学校に進学すると同時に、アデルちゃんと婚約することになった。
小学校を卒業する少し前くらいから、早いことにアデルちゃんに縁談の話がいくつも舞い込んできた。さらに、サンガレアを訪れたどこぞの貴族の息子がアデルちゃんを一目で気に入り、無理矢理連れて帰ろうとした誘拐未遂事件があったからだ。たまたま無理矢理アデルちゃんを連れていこうとする現場の近くに、買い物で街に来ていたフリオ・エドガー夫婦がいたため、なんとか未遂に終わった。この事件を重く受け止めたバードは、断腸の思いでジェラルドとの婚約話を持ちかけてきた。ジェラルドとアデルちゃんは10歳くらいから相思相愛な感じだったし、どこぞの腐れ貴族などに愛してやまない娘をとられるくらいなら、何年も付き合いがあり、よく知っているジェラルドと結婚してもらった方が余程マシらしい。
ジェラルドは軍人になりたいと小学校中学年の頃から剣の稽古に力を入れている。中学校を卒業した後は、サンガレアの高等学校に進学して領軍に就職するつもりである。今のところ、ジェラルドの高等学校卒業と同時に結婚する予定だ。

暖かい春の日射しが心地よい、よく晴れた日。
可愛らしいまだ幼さ残る2人の婚約パーティーが家で行われた。
バードのことは心底嫌っているが、アデルちゃんは気に入っているクラウディオがロヴィーノやエドガーと共に気合いを入れて料理を作った。フェリもその手伝いをした。
パーティーを始める昼前に、愛娘の早すぎる婚約に渋い顔をしたバードと共に、可愛らしいワンピースを着たアデルちゃんがやってきた。ジェラルドがクラウディオに習って作った髪飾りをつけていた。
顔を見合わせて初々しく照れたように笑う若い2人に、バードは早くも泣きそうな顔をした。そんなバードをクラウディオは指を指して笑っていた。フェリはお前もトリッシュの結婚式じゃ号泣してたじゃないか、と言いそうになったが、やめておいた。クラウディオは自分でわりと根にもつタイプと言っていたし、実際に未だに大昔のバードの所業を忘れないし、許していない。バードと親戚になるのは好ましくないが、アデルちゃんがジェラルドと結婚するのはむしろ歓迎している。親は親、子供は子供ときっちり割りきっているらしい。
婚約パーティーにはフェリの身内以外にも、ジェラルド達と仲がいいマーサの身内その他大勢が集まり、かなり賑やかなことになった。手を繋いで色んな人に挨拶してまわるジェラルドとアデルちゃんの姿を見て、バードはギリギリとハンカチを噛み締めていた。そんなバードをクラウディオがまた指を指して笑っていた。本当どんだけ嫌いなんだよ。
最近兄離れしだしたアンジェラも可愛らしく着飾って、若い2人を祝福した。アンジェラはすっかりアデルちゃんに懐いているので、アデルちゃんが義姉になることになり嬉しいらしい。

今すぐではないが、フェリにまた家族が増える。そのことが嬉しくて堪らない。きっとまだ幼い孫たちもいつか結婚して、どんどん家族が増えていくのだろう。
神子の長い寿命のなか、自分がいつまで生きることに飽きずにいられるか分からない。それでも、クラウディオとジャンが共にあってくれて、マーサ達同じ神子が一緒に生きることを頑張ってくれて、そして大事な子供達がいてくれさえすれば、寿命いっぱい生きられるような気がする。
賑やかなパーティー会場と化した家族の家を見回して、フェリは幸せいっぱいな気持ちで微笑んだ。






〈おしまい〉
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みんなの感想(1件)

りんりん
2022.07.29 りんりん

題名からは、想像出来ない様な、家族愛に溢れた素敵なお話しでした。ありがとうございます!
ただキャラクターが多すぎて、覚えきれない頭の悪い私です。

丸井まー(旧:まー)
2022.07.31 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

お読み下さり、本当にありがとうございますっ!!
とても嬉しいお言葉をいただけて、感謝感激であります!!
登場人物は書いている私でもごっちゃになるくらい気づいたら増えておりました(汗)
フリオのお話とか脇カプは別のお話として書けばよかったなぁ!と思わないでもないのですが、お話の流れ的に一つの物語としてまとめちゃいました。
反省点もあるのですが、自分では気に入っている作品なので、お楽しみいただけたのでしたら、本当に嬉しいです。

重ねてになりますが、お読み下さり、本当にありがとうございました!!

解除
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