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前編
汚い断末魔があちこちで上がる中、オムは情けなく小便を垂れ流したまま腰を抜かしていた。オムは兵士になったばかりで、これが初陣である。隣国の兵士達を次々と屠る味方の男が心強い反面、酷く恐ろしい。逞しい背中に守られているのは分かっているが、次から次へと大振りの剣を振るって敵兵を殺していく姿が恐ろしくて堪らない。何故、敵とはいえ、同じ人間を殺せるのだ。オムはガタガタ震えながら、自分が兵士に向いていないことを漸く悟った。
オムは田舎の小さな村で生まれ育った。実家は羊を育てており、そんなに裕福でもなかったが、穏やかに暮らしていた。
昨年の終わりに隣国との戦争が始まった。オムは今年で20歳になる。兵士になれば、国から結構な額の金が貰えると聞いて、オムは深く考えずに兵役に志願した。ちょうど兄の4番目の子供が産まれたばかりだから少しでも金があれば助かるし、オム自身も結婚する為の金が欲しかった。
キツかった訓練期間を終えても、オムは暢気に構えていた。自分が誰かを殺すのだということを、自分が誰かに殺されるのかもしれないということを、全然考えていなかった。
撤退の号令があり、情けなく腰を抜かしていたオムは、まるでオムを守るかのように目の前で敵兵を屠り続けていた男に、軽々と荷物のように肩に担がれて運ばれた。
男の顔を見れば、返り血で赤く染まり、凛々しく整っている顔立ちは、なんの表情も浮かべていなかった。生きている人間の熱を感じない無表情に、背筋がゾクリとする。きっと敵兵を殺していた時も、同じ顔をしていたのだろう。
生命を助けてもらって、今も現在進行系で助けてもらっているが、オムは男が恐ろしくて堪らず、また少し小便をチビった。
他の者達と一緒に砦に戻ると、オムは真っ直ぐに砦の井戸に連れて行かれた。
どさっと雑に荷物のように地面に下ろされる。返り血塗れの男が、無表情のまま口を開いた。
「小便くせぇ。お前、初陣か」
「は、はい」
「さっさと洗え。そんで飯食って糞して寝ろ。明日も楽しい殺し合いだ」
「……ぼ、僕は……」
「あ?」
「ぼ、僕は、こ、殺せません……ひ、人を殺すなんて、その、あの、怖くて、その、無理……です」
「あっそ。だったら、とっとと帰れ。居ても邪魔だ」
「……は、はい……」
男はオムに興味を失ったようで、ふらりと何処かへ消えていった。
オムは情けなく泣きながら、小便塗れのズボンとパンツをその場で脱ぎ、井戸の水を汲んで、身体と服を洗った。
戦況が自国が押しているからか、除隊願いはすぐに受理された。オムは僅かな金を貰って、故郷の小さな村へと帰った。
オムを助けてくれた男は、きっとこれから先も敵兵を殺し続けるのだろう。自身が死ぬか、自国が戦争に勝つまで。
オムは故郷の村に帰ると、両親や兄達の顔を見た途端、情けなく泣き崩れた。
オムには人は殺せない。たとえ、自分が生きる為でも無理だ。泣きながら、そう訴えるオムを、家族は誰も馬鹿にしなかった。『お前は人一倍優しいから』と、『生きて帰ってくれただけでいい』と、抱きしめて慰めてくれた。
オムは優しい家族に迎えられて、穏やかな暮らしに戻った。
半年後。自国が戦争に勝ったと御触れが出た。オムは村の中央にある掲示板を眺めながら、ふと、あの男を思い出した。
あの凛々しくも恐ろしい男は、生きているのだろうか。
オムは戦争に勝ったと喜ぶ村の人々の中から抜け出て、羊達がいる草原へと向かった。
オムの家は村外れにある。村の周囲には羊を飼うのにちょうどいい草原が広がっており、今は羊達が気ままに草を食んでいる。長閑な光景に、どんどん気分が落ち着いていく。
臆病者のオムには、こういう暮らしが性に合っている。羊を飼い、毛皮を刈ったり、乳を搾ったりして、日々を穏やかに過ごしていくのが一番いい。戦争なんて恐ろしい。人を殺すなんて恐ろしい。
オムは戦場で見た地獄のような光景を忘れる為に、近くにいた羊にゆるく抱きついた。
戦争が終わって2年が経った頃。
村に1人の男が現れた。オムが暮らす村は田舎だから、余所者が来ると目立つし、すぐに話題になる。
とても凛々しい精悍な男らしく、働く場所を探しているらしい。戦争帰りで、左腕が少し不自由なんだとか。
オムの嫁にいったばかりの妹がわざわざ実家に帰ってきて、余所者の男がどれだけ格好いいのか、興奮気味に語っていった。
短い黒髪に澄んだ青空のような瞳をしており、顔立ちは凛々しく整っていて、身体つきは逞しく、凛とした男性美溢れる男前らしい。
オムはその話を聞いて、ふと、戦場で助けてくれた男を思い出した。その男も黒髪で、冴えた青い瞳をしていた。感情が読めない瞳をしていた無表情の男も、返り血塗れでも凛々しく整っている顔立ちだと分かるような男前だった。
まさか、その男ではあるまいか。そんな事をチラッと考えたが、ありえない話だと、オムはすぐに忘れる事にした。こんな田舎の村に、あの男が来る筈もない。
あんなに強かったのだ。生きていれば、きっと戦争で戦果を上げて、出世をするなりしているだろう。
オムが普段通りのほほんと過ごしていると、ある日、兄が1人の男を連れて帰ってきた。その男は、まさかの戦場でオムを助けてくれた男だった。
凛とした顔立ちは、あの時と同じ無表情で、オムは驚き過ぎて思わず奇声を発した。
男はアニクと名乗った。終戦まで従軍していたらしいが、戦争で左腕を負傷し、軽い障害が残っているらしい。家族はおらず、行くところも特にないので、終の棲家を求めて、フラフラと旅をしていたそうだ。何故か知らないが、オムが暮らす村を気に入ったらしく、此処に定住することにしたらしい。
父が歳をとって以前のように働けなくなったので、兄が人手が欲しいと前々から溢していたのだが、まさかアニクを雇うとは思わなかった。
アニクはオムの事を覚えていなかった。当然だろう。一回しか会っていないのだ。オムはアニクの事が忘れられなかったが、アニクにしてみれば、助けた新兵の1人というだけだ。
アニクに仕事を教えるのは、オムが担当することになった。一応、知った仲だからということで、兄から頼まれた。
オムはしどろもどろにアニクに自己紹介をして、アニクをオムが暮らす離れの家へと案内した。
オムの家は、両親と兄一家が暮らす母屋と、オムが1人で暮らしている離れがある。元々はオムも母屋で暮らしていたが、兄が結婚して子供が何人もできると手狭になり、昨年に、家の敷地内に小さな一軒家を建てた。風呂トイレと台所、狭い居間以外には、二部屋しかない小さな平屋である。急遽、倉庫代わりにしていた部屋を片付けて、アニクが暮らせるようにした。
親戚が木工品の職人で、ベッドや箪笥等を作っているので、親戚のところから必要なものを買い、シーツや布団類は母屋で客用に用意しておいたものを運び込んだ。
まる2日かけてアニクが暮らせるように準備を整えると、村唯一の宿屋に泊まっていたアニクが、オムの家に移ってきた。
オムの家での2人の暮らしが始まった。
アニクは無口で常に無表情で何を考えているのか、さっぱり分からない。
朝は日の出と共に起き出し、家の外で筋トレをしている。家に台所は一応あるが、基本的に食事は母屋で家族皆と一緒に食べる。朝食を食べながら、その日やることを打ち合わせて、後片付けを女衆に任せてから、オムはアニクと一緒に、羊達がいる柵の中へと移動した。
少し前に沢山の子羊が産まれており、今は乳搾りの最盛期だ。搾った乳を入れる専用の大きな容器を用意してから、ブリキのバケツを片手に、子羊達に飲ませる分を残して、雌の羊から乳を分けてもらう。
オムはアニクに乳搾りのやり方を教えた。アニクは器用な上に飲み込みが早く、あっという間に乳搾りが出来るようになった。
オムはアニクの近くで乳を搾りながら、チラッチラッとアニクを見ていた。
アニクは無表情のまま、黙々と乳を搾っている。ブリキのバケツ一杯になったら、大きな専用の容器に乳を入れ、また乳を搾る。乳が出る羊達全部から乳を分けてもらった後は、子羊達のご飯の時間である。
べぇー、べぇー、と可愛く鳴きながら、母親の元へ行き、一生懸命乳を飲む子羊の姿は、とても可愛らしくて癒やされる。オムは乳搾りの季節が一番好きだ。
オムの家には、母屋と離れ以外に、作業小屋が三つある。乳酒を作る小屋、チーズを作る小屋、毛糸を作る小屋の三つである。
オムは重たい容器をチーズを作る小屋に運び入れた。今日は兄が羊達を見てくれているから、オムはアニクと一緒にチーズを仕込み始めた。
大鍋で搾りたての羊の乳を温め、酵素を入れて、固まらせる。ある程度固まってきたら、型に入れて、じっくりと時間をかけて水分を取る。塩味をつけて、じっくり熟成させたら完成である。
オムはアニクにチーズの作り方を教えながら、型に入れるところまでをやった。
水分をしっかり取るには時間がかかる。
ちょうど昼時になったので、オムはアニクと一緒に母屋へ向かった。昼食を皆で食べると、今度は兄と交代して、雌の羊達を食事に行かせる。数日前に雨が降ったから、いい感じに柔らかい草が伸びている。雄達が食べた場所とは少し違う場所に、馬に乗って羊達を誘導して、雌達が草を食み出すのを眺める。
オムがぼんやりと雌達がもっしゃもっしゃ草を食べているところを眺めて和んでいると、アニクに声をかけられた。
「おい」
「え?あ、はい。なんでしょう」
「これからどうする」
「お腹いっぱいになったら帰ります。あ、勿論羊達が」
「……そうか」
「……あの……もし暇なら、ちょっと馬で走ってきてもらってもいいですよ?そんなに足が速い子じゃないですけど」
「……いい。食ってるところを眺めていればいいのだろう」
「あ、はい」
オムが馬から降りて、馬に括りつけていた敷物を草の上に敷くと、アニクも馬を降りて、どさっと無造作に座った。オムも隣に座り、持参してきた茶器セットを取り出して、携帯用の小さなヤカンでお湯を沸かし始めた。お湯が湧いたら茶葉を適当に入れ、茶こしで茶の葉を取り除きながら、茶器に茶を注ぐ。
アニクに茶器を手渡せば、アニクが無言で口をつけた。オムも茶器を両手で持ち、ちびちびと茶を飲み始めた。
無言で茶を飲みながら、羊達を眺める。
穏やかな風が、肩までの長さの癖のあるオムの茶色い髪をふわふわと揺らした。
オムは癖のある茶色い髪をしていて、今は肩の少し下辺りまで伸ばしている。特に意味はなく、ただ、床屋に行くのが面倒なだけだ。床屋の親父はお喋りで、行ったら間違いなく戦場での事を根掘り葉掘り聞かれる。それに、今はアニクがいる。アニクの事も間違いなく根掘り葉掘り聞いてくるだろう。悪い人ではないのだが、正直面倒臭い。
ぼーっと羊達を眺めながら、そろそろ義姉に髪紐を分けてもらって、髪を一つに括ろうかと考えていると、アニクがオムをじっと見ている事に気がついた。
驚いて、思わずビクッとしてしまった。
「な、なんですか」
「別に」
「は、はぁ……」
ふっと、アニクがオムの顔から目を逸らして、羊達の方を向いた。
オムの顔なんか見ても、何も面白くないと思う。オムは、そばかすがあるくらいしか特徴がない凡庸で地味な顔立ちをしている。少し鷲鼻気味だが、眠そうな羊みたいな顔をしていると揶揄われたことがある。兄は、若い頃は男前で有名だった祖父に似て、キリッとした男前なのだが、オムは母方の伯父によく似ている。母方の伯父も凡庸で地味な顔立ちをしている。伯父はおっとりしていて優しいので大好きなのだが、できたら顔は兄のように祖父に似たかったと思うオムであった。オムも兄くらい男前だったら、今頃結婚ができていただろう。
家を継がない次男に嫁ぐメリットは少ない。入り婿という手もあるが、オムは家業から離れる気がないので、するつもりがない。結婚はしたいが、積極的な性格をしている訳ではないので、特に何もせず、ただ年数ばかりが経っていく。
ふと、アニクがいくつか気になった。
多分、オムよりも5歳くらいは年上な気がする。オムはあと半月で23歳になる。
オムはおずおずとアニクに話しかけた。
「あのー……」
「なんだ」
「あ、あの……アニクさんはおいくつですか?」
「今年で30」
「あっ、意外と……兄さんより年上なんですね。兄さんは今年で28歳なんです」
「ふーん。お前は」
「えっと、僕は今年で23歳になります」
「ふーん」
興味なさそうなアニクの返事に、それから話が盛り上がる訳もなく、オムは若干の胃の痛みを感じながら、羊達が満腹になるまで、無言で茶を飲んで過ごした。
食事を終えた羊達を柵の中に戻すと、母屋で夕食である。母を中心とする女衆が、アニクが来てから、毎食気合を入れて食事を作っている。美味しいものにありつけるのはいい事だが、母も義姉も姪っ子達もなんだか浮かれていて、父達はなんとも思わないのだろうか。
少し不思議に思うが、藪をつついて蛇を出すのもどうかと思うので、オムは静かにありがたく美味しい夕食を堪能した。
夕食を終えると、離れに引き上げる。風呂には毎日は入らない。井戸から水を汲んで浴槽に溜め、薪で沸かさないといけない為、結構な手間がかかる。今の時期は、風呂場で身体を拭いてお終いだ。汗や汚れが気になる時は、井戸の所で水を浴びる。
アニクが着替えを片手に井戸に向かったので、オムは予め大きな盥に溜めておいた水を使って、身体を拭いた。
この水は明日の朝、顔を洗うのにも使うので、そのまま風呂場に置いておく。ついでに洗濯にも使う。洗濯は自分達でしている。広い庭の片隅の日当たりが特にいい場所にロープを張り、そこに洗った服を干す。
服を洗う石鹸は祖母の手作りのものだ。爽やかな香りのするハーブが混ぜてあって、虫よけにもなるという優れ物である。
特に会話もなく、お互いの部屋に引っ込んだ。オムはベッドに腰掛けて、近くの窓を開けて、夜空を見上げた。今夜はよく晴れていて、星がキレイに見える。
明日もいい天気で、羊達も元気だといい。
オムは静かに窓を閉めると、薄い布団の中に潜り込み、すぐに夢の中へと旅立った。
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アニクがオムと暮らし始めて1年以上が経った。アニクは相変わらず口数が少なく、基本的に無表情なので、何を考えているのか全然分からない。
アニクはとてもよく働いてくれている。朝から晩まで、やらなくてはいけない仕事は多い。文句一つ言わずに黙々と仕事をしてくれるので、オムの家族は皆アニクを気に入っている。
今日は朝から雨が降っている。屋内で出来る仕事も今日はない。たまにこんな日もある。こういう日は、たまの骨休めということで、皆家の中でゆっくりとして過ごす。
朝食を食べ終えた頃に、祖父がアニクに乳酒の瓶をあげていた。アニクは乳酒を気に入ったようで、たまに酒好きの祖父と一緒に飲んでいる。
今日は、祖父は友人の所へ遊びに行くので、暇潰しになるよう乳酒をあげたのだろう。
心なしか、アニクがなんだか嬉しそうである。いつもの無表情なのだが、なんとなく気配でその時の機嫌が分かるようになってきた。本当になんとなくなんだけど。
アニクと一緒に離れに移動すると、早速アニクが狭い居間で乳酒を飲み始めた。空飲みは悪酔いしやすいから、オムはチーズを薄く切って、皿に盛り付けて差し出した。
アニクがいつもの無表情でオムを見て、口を開いた。
「お前も飲め」
「えっと……じゃあ、少しだけ」
オムは正直乳酒はあまり得意じゃない。飲めない事はないのだが、率先して飲もうと思う程好きではない。
それでも、珍しくアニクから声をかけてきたので、オムはアニクに付き合おうと、自分のコップを台所から取ってきた。
グラスにたっぷりと注がれた乳酒をチビチビ飲みながら、オムは正面の椅子に座るアニクを眺めた。
アニクが一息で乳酒を飲み干し、ふぅと満足気な息を吐いた。ほんのちょこっとだけ口角が上がっているので、今はものすごく機嫌がいいのだろう。
アニクが手酌で乳酒をグラスに注ぎながら、チラッとオムを見た。
「お前、結婚しないのか」
「あー……相手がいないので……」
「何故」
「えっと、その、継ぐ家も財産もない次男坊に好き好んで嫁ぐ女の人はいないんです」
「ふーん」
「その、アニクさんは、ご結婚は?」
何故か、ぷはっとアニクが吹き出し、クックッと低く笑い始めた。可笑しな事を言った覚えはないのだが。
アニクの反応にキョトンとしていると、アニクが珍しく無表情を崩し、まるで悪戯っ子みたいな顔をした。
「俺が結婚しない理由が知りたいか」
「えーと……差し支えなければ?」
「はっ!構わん。ついてこい」
「え、あ、はい」
アニクがまた一息でグラスにたっぷり注がれていた乳酒を飲み干して、椅子から立ち上がった。
オムは言われるがままに、自分の部屋へと向かって歩き出したアニクに着いていった。
アニクの部屋に着くと、アニクが唐突に服を脱ぎ始めた。
筋肉質で無駄な脂肪がない引き締まった身体が露わになっていく。こちらに背を向けて服を脱いでいるアニクに驚きながらも、逞しい背筋やムッキリと引き締まった尻を見て、格好いい身体だなぁと、オムは暢気に思った。
全裸になったアニクが、くるりと振り返った。反射的にアニクの股間を見て、オムはピシリと固まった。
アニクが、普段の無表情はどこへやったのか、ニヤッと笑った。
「これが俺が結婚しない理由だ」
オムは驚き過ぎて、高速で瞬きをした。
アニクの身体は、前面も鍛え上げられていて、筋肉質で引き締まった身体をしているが、股間にあるべきものが無かった。具体的に言うと、もじゃもじゃの陰毛の下にペニスと陰嚢が無い。
オムは驚き過ぎて、呆然と、ニヤニヤ笑っているアニクを見つめた。
オムは田舎の小さな村で生まれ育った。実家は羊を育てており、そんなに裕福でもなかったが、穏やかに暮らしていた。
昨年の終わりに隣国との戦争が始まった。オムは今年で20歳になる。兵士になれば、国から結構な額の金が貰えると聞いて、オムは深く考えずに兵役に志願した。ちょうど兄の4番目の子供が産まれたばかりだから少しでも金があれば助かるし、オム自身も結婚する為の金が欲しかった。
キツかった訓練期間を終えても、オムは暢気に構えていた。自分が誰かを殺すのだということを、自分が誰かに殺されるのかもしれないということを、全然考えていなかった。
撤退の号令があり、情けなく腰を抜かしていたオムは、まるでオムを守るかのように目の前で敵兵を屠り続けていた男に、軽々と荷物のように肩に担がれて運ばれた。
男の顔を見れば、返り血で赤く染まり、凛々しく整っている顔立ちは、なんの表情も浮かべていなかった。生きている人間の熱を感じない無表情に、背筋がゾクリとする。きっと敵兵を殺していた時も、同じ顔をしていたのだろう。
生命を助けてもらって、今も現在進行系で助けてもらっているが、オムは男が恐ろしくて堪らず、また少し小便をチビった。
他の者達と一緒に砦に戻ると、オムは真っ直ぐに砦の井戸に連れて行かれた。
どさっと雑に荷物のように地面に下ろされる。返り血塗れの男が、無表情のまま口を開いた。
「小便くせぇ。お前、初陣か」
「は、はい」
「さっさと洗え。そんで飯食って糞して寝ろ。明日も楽しい殺し合いだ」
「……ぼ、僕は……」
「あ?」
「ぼ、僕は、こ、殺せません……ひ、人を殺すなんて、その、あの、怖くて、その、無理……です」
「あっそ。だったら、とっとと帰れ。居ても邪魔だ」
「……は、はい……」
男はオムに興味を失ったようで、ふらりと何処かへ消えていった。
オムは情けなく泣きながら、小便塗れのズボンとパンツをその場で脱ぎ、井戸の水を汲んで、身体と服を洗った。
戦況が自国が押しているからか、除隊願いはすぐに受理された。オムは僅かな金を貰って、故郷の小さな村へと帰った。
オムを助けてくれた男は、きっとこれから先も敵兵を殺し続けるのだろう。自身が死ぬか、自国が戦争に勝つまで。
オムは故郷の村に帰ると、両親や兄達の顔を見た途端、情けなく泣き崩れた。
オムには人は殺せない。たとえ、自分が生きる為でも無理だ。泣きながら、そう訴えるオムを、家族は誰も馬鹿にしなかった。『お前は人一倍優しいから』と、『生きて帰ってくれただけでいい』と、抱きしめて慰めてくれた。
オムは優しい家族に迎えられて、穏やかな暮らしに戻った。
半年後。自国が戦争に勝ったと御触れが出た。オムは村の中央にある掲示板を眺めながら、ふと、あの男を思い出した。
あの凛々しくも恐ろしい男は、生きているのだろうか。
オムは戦争に勝ったと喜ぶ村の人々の中から抜け出て、羊達がいる草原へと向かった。
オムの家は村外れにある。村の周囲には羊を飼うのにちょうどいい草原が広がっており、今は羊達が気ままに草を食んでいる。長閑な光景に、どんどん気分が落ち着いていく。
臆病者のオムには、こういう暮らしが性に合っている。羊を飼い、毛皮を刈ったり、乳を搾ったりして、日々を穏やかに過ごしていくのが一番いい。戦争なんて恐ろしい。人を殺すなんて恐ろしい。
オムは戦場で見た地獄のような光景を忘れる為に、近くにいた羊にゆるく抱きついた。
戦争が終わって2年が経った頃。
村に1人の男が現れた。オムが暮らす村は田舎だから、余所者が来ると目立つし、すぐに話題になる。
とても凛々しい精悍な男らしく、働く場所を探しているらしい。戦争帰りで、左腕が少し不自由なんだとか。
オムの嫁にいったばかりの妹がわざわざ実家に帰ってきて、余所者の男がどれだけ格好いいのか、興奮気味に語っていった。
短い黒髪に澄んだ青空のような瞳をしており、顔立ちは凛々しく整っていて、身体つきは逞しく、凛とした男性美溢れる男前らしい。
オムはその話を聞いて、ふと、戦場で助けてくれた男を思い出した。その男も黒髪で、冴えた青い瞳をしていた。感情が読めない瞳をしていた無表情の男も、返り血塗れでも凛々しく整っている顔立ちだと分かるような男前だった。
まさか、その男ではあるまいか。そんな事をチラッと考えたが、ありえない話だと、オムはすぐに忘れる事にした。こんな田舎の村に、あの男が来る筈もない。
あんなに強かったのだ。生きていれば、きっと戦争で戦果を上げて、出世をするなりしているだろう。
オムが普段通りのほほんと過ごしていると、ある日、兄が1人の男を連れて帰ってきた。その男は、まさかの戦場でオムを助けてくれた男だった。
凛とした顔立ちは、あの時と同じ無表情で、オムは驚き過ぎて思わず奇声を発した。
男はアニクと名乗った。終戦まで従軍していたらしいが、戦争で左腕を負傷し、軽い障害が残っているらしい。家族はおらず、行くところも特にないので、終の棲家を求めて、フラフラと旅をしていたそうだ。何故か知らないが、オムが暮らす村を気に入ったらしく、此処に定住することにしたらしい。
父が歳をとって以前のように働けなくなったので、兄が人手が欲しいと前々から溢していたのだが、まさかアニクを雇うとは思わなかった。
アニクはオムの事を覚えていなかった。当然だろう。一回しか会っていないのだ。オムはアニクの事が忘れられなかったが、アニクにしてみれば、助けた新兵の1人というだけだ。
アニクに仕事を教えるのは、オムが担当することになった。一応、知った仲だからということで、兄から頼まれた。
オムはしどろもどろにアニクに自己紹介をして、アニクをオムが暮らす離れの家へと案内した。
オムの家は、両親と兄一家が暮らす母屋と、オムが1人で暮らしている離れがある。元々はオムも母屋で暮らしていたが、兄が結婚して子供が何人もできると手狭になり、昨年に、家の敷地内に小さな一軒家を建てた。風呂トイレと台所、狭い居間以外には、二部屋しかない小さな平屋である。急遽、倉庫代わりにしていた部屋を片付けて、アニクが暮らせるようにした。
親戚が木工品の職人で、ベッドや箪笥等を作っているので、親戚のところから必要なものを買い、シーツや布団類は母屋で客用に用意しておいたものを運び込んだ。
まる2日かけてアニクが暮らせるように準備を整えると、村唯一の宿屋に泊まっていたアニクが、オムの家に移ってきた。
オムの家での2人の暮らしが始まった。
アニクは無口で常に無表情で何を考えているのか、さっぱり分からない。
朝は日の出と共に起き出し、家の外で筋トレをしている。家に台所は一応あるが、基本的に食事は母屋で家族皆と一緒に食べる。朝食を食べながら、その日やることを打ち合わせて、後片付けを女衆に任せてから、オムはアニクと一緒に、羊達がいる柵の中へと移動した。
少し前に沢山の子羊が産まれており、今は乳搾りの最盛期だ。搾った乳を入れる専用の大きな容器を用意してから、ブリキのバケツを片手に、子羊達に飲ませる分を残して、雌の羊から乳を分けてもらう。
オムはアニクに乳搾りのやり方を教えた。アニクは器用な上に飲み込みが早く、あっという間に乳搾りが出来るようになった。
オムはアニクの近くで乳を搾りながら、チラッチラッとアニクを見ていた。
アニクは無表情のまま、黙々と乳を搾っている。ブリキのバケツ一杯になったら、大きな専用の容器に乳を入れ、また乳を搾る。乳が出る羊達全部から乳を分けてもらった後は、子羊達のご飯の時間である。
べぇー、べぇー、と可愛く鳴きながら、母親の元へ行き、一生懸命乳を飲む子羊の姿は、とても可愛らしくて癒やされる。オムは乳搾りの季節が一番好きだ。
オムの家には、母屋と離れ以外に、作業小屋が三つある。乳酒を作る小屋、チーズを作る小屋、毛糸を作る小屋の三つである。
オムは重たい容器をチーズを作る小屋に運び入れた。今日は兄が羊達を見てくれているから、オムはアニクと一緒にチーズを仕込み始めた。
大鍋で搾りたての羊の乳を温め、酵素を入れて、固まらせる。ある程度固まってきたら、型に入れて、じっくりと時間をかけて水分を取る。塩味をつけて、じっくり熟成させたら完成である。
オムはアニクにチーズの作り方を教えながら、型に入れるところまでをやった。
水分をしっかり取るには時間がかかる。
ちょうど昼時になったので、オムはアニクと一緒に母屋へ向かった。昼食を皆で食べると、今度は兄と交代して、雌の羊達を食事に行かせる。数日前に雨が降ったから、いい感じに柔らかい草が伸びている。雄達が食べた場所とは少し違う場所に、馬に乗って羊達を誘導して、雌達が草を食み出すのを眺める。
オムがぼんやりと雌達がもっしゃもっしゃ草を食べているところを眺めて和んでいると、アニクに声をかけられた。
「おい」
「え?あ、はい。なんでしょう」
「これからどうする」
「お腹いっぱいになったら帰ります。あ、勿論羊達が」
「……そうか」
「……あの……もし暇なら、ちょっと馬で走ってきてもらってもいいですよ?そんなに足が速い子じゃないですけど」
「……いい。食ってるところを眺めていればいいのだろう」
「あ、はい」
オムが馬から降りて、馬に括りつけていた敷物を草の上に敷くと、アニクも馬を降りて、どさっと無造作に座った。オムも隣に座り、持参してきた茶器セットを取り出して、携帯用の小さなヤカンでお湯を沸かし始めた。お湯が湧いたら茶葉を適当に入れ、茶こしで茶の葉を取り除きながら、茶器に茶を注ぐ。
アニクに茶器を手渡せば、アニクが無言で口をつけた。オムも茶器を両手で持ち、ちびちびと茶を飲み始めた。
無言で茶を飲みながら、羊達を眺める。
穏やかな風が、肩までの長さの癖のあるオムの茶色い髪をふわふわと揺らした。
オムは癖のある茶色い髪をしていて、今は肩の少し下辺りまで伸ばしている。特に意味はなく、ただ、床屋に行くのが面倒なだけだ。床屋の親父はお喋りで、行ったら間違いなく戦場での事を根掘り葉掘り聞かれる。それに、今はアニクがいる。アニクの事も間違いなく根掘り葉掘り聞いてくるだろう。悪い人ではないのだが、正直面倒臭い。
ぼーっと羊達を眺めながら、そろそろ義姉に髪紐を分けてもらって、髪を一つに括ろうかと考えていると、アニクがオムをじっと見ている事に気がついた。
驚いて、思わずビクッとしてしまった。
「な、なんですか」
「別に」
「は、はぁ……」
ふっと、アニクがオムの顔から目を逸らして、羊達の方を向いた。
オムの顔なんか見ても、何も面白くないと思う。オムは、そばかすがあるくらいしか特徴がない凡庸で地味な顔立ちをしている。少し鷲鼻気味だが、眠そうな羊みたいな顔をしていると揶揄われたことがある。兄は、若い頃は男前で有名だった祖父に似て、キリッとした男前なのだが、オムは母方の伯父によく似ている。母方の伯父も凡庸で地味な顔立ちをしている。伯父はおっとりしていて優しいので大好きなのだが、できたら顔は兄のように祖父に似たかったと思うオムであった。オムも兄くらい男前だったら、今頃結婚ができていただろう。
家を継がない次男に嫁ぐメリットは少ない。入り婿という手もあるが、オムは家業から離れる気がないので、するつもりがない。結婚はしたいが、積極的な性格をしている訳ではないので、特に何もせず、ただ年数ばかりが経っていく。
ふと、アニクがいくつか気になった。
多分、オムよりも5歳くらいは年上な気がする。オムはあと半月で23歳になる。
オムはおずおずとアニクに話しかけた。
「あのー……」
「なんだ」
「あ、あの……アニクさんはおいくつですか?」
「今年で30」
「あっ、意外と……兄さんより年上なんですね。兄さんは今年で28歳なんです」
「ふーん。お前は」
「えっと、僕は今年で23歳になります」
「ふーん」
興味なさそうなアニクの返事に、それから話が盛り上がる訳もなく、オムは若干の胃の痛みを感じながら、羊達が満腹になるまで、無言で茶を飲んで過ごした。
食事を終えた羊達を柵の中に戻すと、母屋で夕食である。母を中心とする女衆が、アニクが来てから、毎食気合を入れて食事を作っている。美味しいものにありつけるのはいい事だが、母も義姉も姪っ子達もなんだか浮かれていて、父達はなんとも思わないのだろうか。
少し不思議に思うが、藪をつついて蛇を出すのもどうかと思うので、オムは静かにありがたく美味しい夕食を堪能した。
夕食を終えると、離れに引き上げる。風呂には毎日は入らない。井戸から水を汲んで浴槽に溜め、薪で沸かさないといけない為、結構な手間がかかる。今の時期は、風呂場で身体を拭いてお終いだ。汗や汚れが気になる時は、井戸の所で水を浴びる。
アニクが着替えを片手に井戸に向かったので、オムは予め大きな盥に溜めておいた水を使って、身体を拭いた。
この水は明日の朝、顔を洗うのにも使うので、そのまま風呂場に置いておく。ついでに洗濯にも使う。洗濯は自分達でしている。広い庭の片隅の日当たりが特にいい場所にロープを張り、そこに洗った服を干す。
服を洗う石鹸は祖母の手作りのものだ。爽やかな香りのするハーブが混ぜてあって、虫よけにもなるという優れ物である。
特に会話もなく、お互いの部屋に引っ込んだ。オムはベッドに腰掛けて、近くの窓を開けて、夜空を見上げた。今夜はよく晴れていて、星がキレイに見える。
明日もいい天気で、羊達も元気だといい。
オムは静かに窓を閉めると、薄い布団の中に潜り込み、すぐに夢の中へと旅立った。
------
アニクがオムと暮らし始めて1年以上が経った。アニクは相変わらず口数が少なく、基本的に無表情なので、何を考えているのか全然分からない。
アニクはとてもよく働いてくれている。朝から晩まで、やらなくてはいけない仕事は多い。文句一つ言わずに黙々と仕事をしてくれるので、オムの家族は皆アニクを気に入っている。
今日は朝から雨が降っている。屋内で出来る仕事も今日はない。たまにこんな日もある。こういう日は、たまの骨休めということで、皆家の中でゆっくりとして過ごす。
朝食を食べ終えた頃に、祖父がアニクに乳酒の瓶をあげていた。アニクは乳酒を気に入ったようで、たまに酒好きの祖父と一緒に飲んでいる。
今日は、祖父は友人の所へ遊びに行くので、暇潰しになるよう乳酒をあげたのだろう。
心なしか、アニクがなんだか嬉しそうである。いつもの無表情なのだが、なんとなく気配でその時の機嫌が分かるようになってきた。本当になんとなくなんだけど。
アニクと一緒に離れに移動すると、早速アニクが狭い居間で乳酒を飲み始めた。空飲みは悪酔いしやすいから、オムはチーズを薄く切って、皿に盛り付けて差し出した。
アニクがいつもの無表情でオムを見て、口を開いた。
「お前も飲め」
「えっと……じゃあ、少しだけ」
オムは正直乳酒はあまり得意じゃない。飲めない事はないのだが、率先して飲もうと思う程好きではない。
それでも、珍しくアニクから声をかけてきたので、オムはアニクに付き合おうと、自分のコップを台所から取ってきた。
グラスにたっぷりと注がれた乳酒をチビチビ飲みながら、オムは正面の椅子に座るアニクを眺めた。
アニクが一息で乳酒を飲み干し、ふぅと満足気な息を吐いた。ほんのちょこっとだけ口角が上がっているので、今はものすごく機嫌がいいのだろう。
アニクが手酌で乳酒をグラスに注ぎながら、チラッとオムを見た。
「お前、結婚しないのか」
「あー……相手がいないので……」
「何故」
「えっと、その、継ぐ家も財産もない次男坊に好き好んで嫁ぐ女の人はいないんです」
「ふーん」
「その、アニクさんは、ご結婚は?」
何故か、ぷはっとアニクが吹き出し、クックッと低く笑い始めた。可笑しな事を言った覚えはないのだが。
アニクの反応にキョトンとしていると、アニクが珍しく無表情を崩し、まるで悪戯っ子みたいな顔をした。
「俺が結婚しない理由が知りたいか」
「えーと……差し支えなければ?」
「はっ!構わん。ついてこい」
「え、あ、はい」
アニクがまた一息でグラスにたっぷり注がれていた乳酒を飲み干して、椅子から立ち上がった。
オムは言われるがままに、自分の部屋へと向かって歩き出したアニクに着いていった。
アニクの部屋に着くと、アニクが唐突に服を脱ぎ始めた。
筋肉質で無駄な脂肪がない引き締まった身体が露わになっていく。こちらに背を向けて服を脱いでいるアニクに驚きながらも、逞しい背筋やムッキリと引き締まった尻を見て、格好いい身体だなぁと、オムは暢気に思った。
全裸になったアニクが、くるりと振り返った。反射的にアニクの股間を見て、オムはピシリと固まった。
アニクが、普段の無表情はどこへやったのか、ニヤッと笑った。
「これが俺が結婚しない理由だ」
オムは驚き過ぎて、高速で瞬きをした。
アニクの身体は、前面も鍛え上げられていて、筋肉質で引き締まった身体をしているが、股間にあるべきものが無かった。具体的に言うと、もじゃもじゃの陰毛の下にペニスと陰嚢が無い。
オムは驚き過ぎて、呆然と、ニヤニヤ笑っているアニクを見つめた。
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