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37:後悔
しおりを挟む「とりあえず眠らせたから」
「……ありがとうございます」
クリスはマーサが間に合った事にほっとしながら、眠るニーファを抱き締めた。マーサがちらりと真っ青な顔で震える女性を見た。
「状況はなんとなく把握したから、クリス君はニーファをベッドに寝かせてきて。3時間くらいは起きないから。私はこの子をとりあえず旦那達に預けてくるわ」
「分かりました」
女性には見向きもせず、クリスはニーファを半ば引きずるように家の中に入れ、寝室へと向かった。自分より背の高いニーファを抱え上げることは、残念ながらクリスにはできない。なんとかニーファをベッドに運ぶと、優しく横たえ、靴を脱がせて布団を被せた。先程まで殺気を放っていたとは思えない程、ニーファは穏やかな寝息をたてていた。ベッドに腰掛け、ニーファの髪を撫でる。
さっき流れた冷や汗が冷えてきた。一瞬、着替えようかとも思ったが、おそらくすぐにマーサが戻ってくるだろう。
クリスはニーファの髪を撫でながら、つい先程の事を思い出す。
マーサが間一髪で来てくれていなかったら、きっと取り返しのつかないことになっていただろう。自分1人で止められなかったことが情けないし、そもそも自分の油断が原因だ。家ならマーサの結界があるから、と完全に油断していた。ニーファの事情を知る者は限られている。あの女性は、個人的には非常識で面倒臭いと思うが、それでも、恐らく事情を知らなかったに違いない。何も知らない人間をクリスの油断で生命の危険に晒した。その事実が重くのし掛かる。
そして、それ以上にニーファへの負荷がどれだけのものなのか。目の前で穏やかに眠るニーファからは今はみてとれない。本来、ニーファは人にむやみに殺気を向けたり手をあげたりするような性格ではない。そのニーファがあんなことをした。精霊の子の影響としか考えられない。
子供の頃から穏やかで優しい子だ。
いくら精霊の子の影響とはいえ、自分のした事をどう受け止めるか。また一つ、ニーファの心の負担になりそうだ。
クリスは自己嫌悪で落ち込みそうになったが、頭を軽く振って、思考を切り替えた。
今は後悔するよりもニーファの事を最優先に考えねば。
クリスはマーサが戻ってくるまで、ずっとニーファの側にいた。
ーーーーーー
玄関の鍵が開く音がしたので、眠るニーファの額にキスをすると、クリスは寝室から玄関へと向かった。マーサだ。
「や。合鍵使ったよー」
「はい。来てくださってありがとうございます」
クリスはマーサに深々と頭を下げた。マーサはクリスの頭をわしゃっと撫でた。
「咄嗟の判断が良かったね」
「……いえ。そもそも俺の油断が原因です。申し訳ありません」
「そう深く考えなくていいわよ。まぁ、とりあえず座って話そう」
「御意」
マーサと居間で向かい合って座る。
「あの子さー、研究者としても教員としても悪くはないんだけど、性格がちょっとねー。いやぁ、面倒なのに好かれたねぇ。クリス君」
「はい」
「まぁ、一応この後にでも事情を話して、ついでにちっとばかしお説教をしてくるわ。あの子、私生活では小さい問題いくつも起こしてるからね。子供受けは悪くないけど、保護者受けは良くないんだよねー。あんまり」
「そうなんですか?」
「うん。まぁ、仕事上の必要最低限の接触以外での接触禁止令出しとくから」
「お願い致します。……ニーファ君は大丈夫ですか?」
「断言はできないね」
マーサにキッパリとそう言われた。思わず唇を強く噛む。
「精霊の子の影響の強さがここまでとは私も思ってなかったから、ちょっと舐めてたわ。ニーファの性格考えたら、かなりのストレスになるはずよ」
「……はい」
「で。クリス君にお願いがあるんだけど」
「はい」
「卒業式間近で休みにくい時期だけど、3日程仕事休んでニーファについててくれない?とりあえず3日間セックス三昧でイチャコラしまくってみてよ。今は強制的に眠らせてるだけだからね。もしかしたら起きた途端、敵を排除しようとするかもしれない。父親の貴方が母体であるニーファをでろっでろに甘やかしてみることで、精霊の子が少しは落ち着くんじゃないかと思うんだけど」
「御意」
「学校側には私から説明しとくから。あとマルクも呼ぶから明日から3日後に診てもらうわ」
「お願い致します」
「合鍵使って、すぐに食べられるような料理を食卓と魔導冷蔵庫に置いとくから、よろしく。もうひたすらニーファにくっついててよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「あ、精力剤と疲労回復薬もいる?」
「はい」
「じゃあ、それも用意しとくわ。あとは……あ、そうだ。家の事なんだけどさ。家具類はまだだけど、改築自体はもう終わってるから、卒業式終わったら予定早めて引っ越さない?最低限の家具だけ用意して、後は出来上がり次第運び込むって形で」
「それができるのでしたら、その方がいいと思います。もうこの家にニーファ君を置いておきたくありません」
「うん。まぁ、思い出したりした時がね。自分の縄張り内で番にちょっかい出されたようなもんだし。この家にいるだけで更にストレスが増す事になりかねない」
「はい」
「じゃあ、私は準備してくるわ。あとお願いね。何かあったら、どんな些細な事でも連絡してちょうだい。それこそ時間も関係なくね」
「御意」
マーサは必要な事を話すと、足早に出ていった。クリスは玄関でマーサを見送ると、再び寝室に足を向けた。
寝室のドアを開け、中に入ると、ニーファが穏やかな寝息をたてながら、ベッドから落ちそうになっていた。
慌ててベッドのど真ん中にニーファの身体をずらす。
食事はマーサに用意してもらうものを都度運ぶとして、タオルや飲み物くらいは、いちいち部屋から出なくていいように用意しておいた方がいいだろう。ニーファを1人で寝かせると間違いなくベッドから落ちるだろうから、クリスは急いでタオルと飲み物を用意して寝室に運んだ。
料理を運ぶときに使う大きめのお盆に、タオルを数枚と一度沸かしたお湯をヤカンごとマグカップと一緒にのせ、サイドテーブルの上に置く。
ニーファがまた布団ごと転がって落ちそうな感じだったので、ベッドの中央まで転がして、靴を脱いでクリスもベッドに上がった。
同じ布団にくるまって、眠るニーファを抱き締めながら、頭を撫でる。
クリスは、ニーファが自然に目覚めるまで、ずっとそうしていた。
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