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頑張り屋さんな貴方に愛を

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 クリストファーは、腕立て伏せをしながら、チラッと隣を見た。隣では、アロイスが、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、頑張って腕立て伏せをしている。アロイスが筋トレを始めて早1年。筋肉ムキムキには、まだまだ遠いが、それでもそれなりに筋肉はついてきた。

 腕立て伏せを終えると、次はスクワットである。その後は腹筋、背筋を鍛え、森に転移して走り込みをして、最後は柔軟体操をして終える。最初の頃を考えると、アロイスは本当に格段に進歩している。腕立て伏せも50回はできるようになった。クリストファーが来ない日も、殆ど毎日自主的に筋トレをしているそうだ。ついでに、うっかり流されてセックスしちゃった日から、アロイスは嫌いだった掃除をするようになった。掃除といっても、バラ撒いていたものを積み上げるみたいな、クリストファーからすると掃除とは言えないようなものだけど、アロイスなりに頑張っているのは、家の様子を見れば分かる。水回りも、以前程汚れなくなった。

 一通り、決めたメニューをこなした後。クリストファーが先にシャワーを浴びて、夕食を作っていると、上半身裸のアロイスがバタバタッと台所に駆け込んできた。


「クリストファー君! 見てよ! 力こぶ!!」

「おー。おめでとうございます。腹筋も割れてきましたねー」

「でしょ!? ここまでが長かった……もうちょい胸筋も育たないかなぁ」

「筋肉がつきにくい体質っぽいんで、地道にやっていくしかないですねぇ」

「ふっ……ここまで続けてきたんだ。何年だってやってやるさ!」

「がんばれー」

「うん」

「それはそうと、服を着てください。そろそろご飯できますよ」

「はーい」


 よい子のお返事をしたアロイスが、台所から出ていった。アロイスは、少しずつだけど、確かに成長していっている。特に最近は、目に見える変化があるので、クリストファーとしても地味に嬉しい。

 クリストファーが夕食を作り終えたタイミングで、アロイスが戻ってきた。ぎゅるぎゅると微かに腹の虫を鳴らしながら、キラキラと目を輝かせて夕食を見つめる姿は、ちょっと可愛いと思う。アロイスは、なんでも美味しそうに食べてくれるので、作り甲斐がある。クリストファーが来ない日は、なんとか頑張って自炊しているようだが、アロイスが納得できる料理は、まだ作れないらしい。筋肉を育てるには、バランスのとれた食事としっかりとした睡眠が必要不可欠である。そこらへんは、筋トレを指導し始めた最初期にアロイスにしつこいくらいに言い含めたので、アロイスなりに頑張っているようだ。

 規則正しい生活をして、運動をして、バランスのとれた食事をとり、毎日しっかり寝るようになったアロイスは、元々美しかったのに、更に健康美が増して、常に背後に華か光でもあるような、キラキラとした美しさになった。着痩せするタイプだったらしく、周囲に筋肉アピールはできないようだが、美しさに磨きがかかっていると評判になっている。

 ハグハグと美味しそうに夕食を食べていたアロイスが、口の中のものをちゃんと飲み込んでから、口を開いた。


「クリストファー君。最近、シャツの腕のところとか、ズボンの太腿のところとかがキツいんだ」

「おっ。また成長してますね。服を買った方がいいです」

「うん。……その、一緒に買いに行ってくれない? うっ、運動用の服と靴も欲しいから、見繕ってくれないかなぁと……」

「あぁ。特に靴はボロボロになってきてますしね。いいですよ。次の休みでいいですか?」

「うん! ありがとう!」

「いえ。身体を鍛えるのに、特に靴は重要ですから。ちゃんと足に合ったものでないと」

「うん。……この蒸し鶏のサラダ美味しい。豆いっぱいで。かけてあるのはクリストファー君の手作り?」

「はい。ドレッシングって、結構簡単に作れるんですよ」

「へぇー。家に常備したいくらいだなぁ」


 本当に気に入ってくれているのか、アロイスはサラダをおかわりした。蒸し鶏は2人で食べきってしまっているので、さっと茹でた温野菜だけになってしまったが、それでもアロイスは美味しそうに食べていた。ちょっと面映い。

 夕食を食べ終えると、アロイスと一緒に後片付けをする。生活能力がドン引く程無かったアロイスだが、この1年で、随分とマシになった。料理は簡単なものなら作れるようになったし、後片付けもできるようになった。掃除は、まぁ努力は認めようかなくらいにはしている。洗濯もちゃんと毎日しているみたいだ。風呂にも毎日入っているらしい。最初の頃を思い出すと、本当に格段に成長している。

 夕食の後片付けが終わったら、タオルで手を拭くクリストファーに、アロイスがつつっと近寄ってきた。


「クリストファー君。今夜、泊まっていかない?」

「シーツ洗ってあります?」

「ちゃんと洗ったし、替えのシーツもキレイなのがあるよ! 寝室の掃除もしてる!」

「じゃあ、泊まります」

「やった!」


 アロイスが華やいだ嬉しそうな笑みを浮かべた。
 アロイスとは、たまにセックスをしている。一度しちゃったし、二度も三度も変わらないかなぁと思い、アロイスから誘われたら、その日の気分で頷くことにしている。アロイスとのセックスは単純に気持ちがいい。恋人でもないのにセックスをするのもどうかと思うが、お互いに、お互いとしかセックスをしていないし、まぁいいか、と軽く考えている。キラキラと期待で目を輝かせて誘ってくるアロイスに、毎回流されている感はある。

 食休みも兼ねて、少しだけ酒を飲むと、寝室に移動した。アロイスの寝室は、本棚に収納できない本が床に積んであったが、脱ぎ散らかした服やゴミは落ちてないし、埃臭さも無い。本当にちゃんと掃除をしているようである。

 いそいそと服を脱ぎ始めたアロイスの隣で、クリストファーも服を脱ぐ。ベッドに上がって、ころんと布団に寝転がれば、ふわっと微かに洗剤の匂いとお日様の匂いがした。シーツの洗濯だけでなく、布団や枕もちゃんと干しているようである。最初の頃の不衛生極まりない駄目人間っぷりを考えたら、ものすごい進歩だ。人間って、ご褒美があれば頑張れるもんなんだなぁと、クリストファーは染み染み思った。そのご褒美がクリストファーだというのは、ちょっと微妙だが。

 仰向けに寝転がったクリストファーに、いそいそとアロイスが覆いかぶさってきた。ちゅっ、ちゅっと小さな音を立てて、顔中にキスをされる。唇にも、何度もキスをされた。キスをしながら、アロイスが股間をクリストファーの下腹部に擦りつけてきた。アロイスの見た目に似合わぬ大きさのペニスは、もう熱く硬く勃起していた。平凡極まりないクリストファーに欲情するなんて、アロイスは本当に物好きである。『国宝級の美人』と謳われるくらい美しいのだから、相手は選り取りみどりな筈なのに、アロイスはクリストファーが好きだと言う。クリストファーは、優しく唇を吸ってくるアロイスに応えながら、アロイスは本当に物好きな変な人だなぁと思った。

 アロイスに文字通り全身をベロベロ舐め回されまくって、しつこい程アナルを指で解された後。クリストファーは、アロイスの細身ながら引き締まった身体を跨いで、ぐずぐずに蕩けた自分のアナルにアロイスのペニスを咥えこんでいた。膝を立てて、アロイスの身体の両側に手をついて、尻を上下に振るようにして、腰を激しく小刻みに動かす。腹の奥深くに硬いアロイスのペニスの先っぽをぶつけると、脳みそが痺れるような強烈な快感が身体中に広がっていく。アロイスとセックスをするようになった最初の頃は、鋭い痛みも伴っていたが、今はただ気持ちがいいだけである。

 大きく喘ぎながら必死で腰を振るクリストファーの微妙に揺れる胸筋をアロイスが両手で揉みしだき、きゅっと両方の乳首を指で摘んで、優しく引っ張った。背筋がゾクゾクする快感に、堪らず、アロイスの硬くて太いペニスをアナルで締めつけてしまう。腹の中をみっちり満たしているアロイスのペニスの形が分かるような気がする。クリストファーの腹の中が、なんだか、アロイスのペニスの形にぴったりになってきたような気もしてくる。それくらい、アロイスのペニスをアナルで咥えこんで快感を貪るのに慣れてきた。今では、自宅でこっそり自慰をしても満足できなくなってきている。それくらい、アロイスとのセックスは気持ちがいい。

 クリストファーが、アロイスのペニスの根元近くまでアナルで飲み込んで、腹の奥深くを硬いペニスの先っぽでぐりぐりしながら、背をしならせて触れてもいないペニスから勢いよく精液を飛ばすと、アロイスも楽しそうに喘いで、クリストファーの腹の中に射精した。腹の中で、微かにぴくぴく震えて射精しているアロイスのペニスの感触すら、気持ちがよくて堪らない。

 クリストファーが、はぁー、はぁー、と荒い息を吐きながら、アロイスを見下ろせば、アロイスがうっとりと妖艶に微笑んだ。


「まだ足りないよね?」

「……まぁ」

「次は僕が動くよ」

「あ、はい」


 クリストファーがゆっくりと腰を上げて、射精したのにまだ硬いアロイスのペニスをアナルから引き抜くと、アロイスに促されて、ころんと仰向けに寝転がった。自分のアナルから、こぽぉっとアロイスの精液が溢れ出る感覚がする。クリストファーが、自分の膝裏をもって、足を大きく広げ、腰を少し浮かせると、アロイスが、すぐにクリストファーの身体に覆いかぶさり、キスをしながら、再びクリストファーのアナルの中にペニスを押し込んできた。舌を伸ばしてぬるぬると絡め合いながら、アロイスが腰を振り始める。ペニスのカリのあたりまで引き抜いて、アナルの入り口らへんをぐぽぐぽしてきたり、前立腺なるめちゃくちゃ気持ちがいいところをペニスでこねくり回すようにしてきたり、腹の奥深くを、トンッ、トンッ、と優しくノックしてきたりと、アロイスの腰使いは絶妙に気持ちがいい。あまりの快感に、目の裏がチカチカして、勝手に涙と涎と低い喘ぎ声が漏れてしまう。

 クリストファーは、今日も、2人とも満足するまで、快感を貪り、アロイスと熱を分け合った。

 翌朝。クリストファーが目覚めると、アロイスがクリストファーの盛り上がった胸筋に頬をつけて、ぐっすり眠っていた。なんとなく、サラサラのアロイスの長い銀髪を梳くように、アロイスの頭を撫でる。アロイスは、間近で見ても、毛穴が見つからないくらい肌がキレイだ。とんでもない美人だからだろうか。本人曰く、特に手入れはしていないらしい。アロイスがクリストファーを口説き始めるまでは、アロイスは、平気で何日も風呂に入らないような不衛生人間だったので、ある意味納得なのだが、世の中ちょっと理不尽な気もしてくる。肌の手入れに必死になっているご婦人達が聞いたら、発狂してアロイスを刺したくなるんじゃないだろうか。

 アロイスの頭を意味もなく撫でていると、アロイスが不明瞭な声を上げて、目を開けた。寝ぼけた半眼でも、アロイスの美しさは損なわれない。アロイスが、へらっと嬉しそうに笑って、クリストファーの唇に触れるだけのキスをした。


「クリストファー君。そろそろ、僕と恋人にならない?」

「いやー。どうでしょう」

「いいだろー。身体の相性は最高だし。筋トレだけじゃなくて、僕、掃除とか掃除とか掃除とか頑張ってるじゃない」

「それはそうですね。アロイスは、とても頑張っています」

「えへー。でしょ? だから、恋人になろうよー」

「えー。人としては普通に好きなんですけどねー」

「じゃあ、いいじゃない。そのうち、特別に好きになるよ」

「特別に好きになったら、恋人になります」

「むぅ。本当に手強いな。まぁいいや。気長に口説くから。クリストファー君。一緒にお風呂入ろうよ。髪、洗って。身体も。君に洗ってもらうと気持ちがいい」

「別にいいですけどね」

「やった!」


 ふわっと心底嬉しそうに笑うアロイスに、ちょっとだけ胸の奥がむずむずする。なんだこれ。
 クリストファーは、甘えて懐いてくるアロイスを好きにさせながら、もしや自分はちょっと絆されかけてるのか……? と首を傾げた。



ーーーーーー
 クリストファーは、今日も平和に城門の警備をしていた。明後日は休みなので、アロイスの家に行く。

 早いもので、アロイスの筋トレ指導役になって、1年半が経とうとしている。アロイスは、本当に努力家だと思う。初対面の時は、心底ドン引くくらい生活能力が無い、不衛生な駄目人間だったのに、今では、人並みやや下くらいには生活能力が向上したし、風呂にもちゃんと毎日入るようになっている。筋トレも本当にとても頑張っていて、ムッキムキにはなっていないが、細身ながら締まった身体つきになっている。胸筋もちょっと育ったし、腹筋は割れて久しい。指導役のクリストファーとしては、とても嬉しい成長である。

 アロイスは、どこまでも真っ直ぐだ。クリストファーを見る目はいつもキラキラしていて、甘えて懐いてくると、ちょっと可愛いと思ってしまうようになった。じわじわと絆されてきてるなぁとは思っていたが、ここ最近は特に、アロイスのことが可愛く見えるようになってきた。アロイスは、本当に頑張り屋さんだ。一生懸命頑張っている姿を見ると、全力で応援したくなるし、甘やかしてやりたくなる。

 クリストファーは、交代の先輩がやって来るまで、ぼーっとアロイスのことを考えた。ちょっと不本意な気もするが、多分、クリストファーはアロイスのことが好きだ。アロイスと一緒に筋トレをするのも、一緒に食事をするのも、他愛ないお喋りで笑い合うことも、セックスをして熱を分け合うのも、とても楽しくて、心地いい。男同士で恋人になっても、結婚なんかできないし、子供もできないし、ぶっちゃけ不毛なだけだが、アロイスは、クリストファーと同じ墓に入るつもりらしい。

 クリストファーは、小さく溜め息を吐いた。アロイスの好意は、嫌でも伝わってくる。頑張り屋さんなアロイスが、どうにも可愛い。クリストファーは、そろそろ自分の胸の奥に芽生えた感情を、認めてやろうかという気になってきた。
 交代の先輩が来て、引き継ぎをしてから帰り支度をすると、クリストファーは自分の家に帰り始めた。次の休みには、アロイスに『好きだ』と伝えてみようかと考えながら。
 帰宅して、下の子達の相手をしつつ、夕方の家事をしながら、クリストファーは、ふと思った。アロイスと一緒に暮らせたら、多分、今よりもっと毎日が楽しい。下の兄弟達のことは、本当に可愛いのだが、クリストファーの中での優先順位が、変わってしまっていることに気がついた。どうやら自分は、本当にアロイスのことを好きになってしまっているらしい。アロイスが、どこまでも頑張り屋さんで、真っ直ぐに好意をぶつけてくるからいけない。クリストファーは、ちょっと八つ当たり気味にそんなことを思いながら、アロイスの笑顔を思い浮かべて、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 休日の朝。クリストファーは、走ってアロイスの家に向かった。アロイスの家に着くと、アロイスが満面の笑みで出迎えてくれた。ちょっと胸の奥がむずむずする。アロイスと一緒に庭で柔軟体操をしてから、早速、筋トレを始める。
 最近、また少しだけ筋トレの回数を増やした。キツくて地味にひぃひぃ言いながらも頑張っているアロイスを横目に見ながら、クリストファーは、どのタイミングで『好き』だと言うべきか、頭を悩ませた。

 一通り筋トレをこなした後。今は、アロイスの魔術で転移した森の中を走っている。静かな森の中を2人で走っていると、なんだか、世界にはクリストファーとアロイスの2人だけしかいないような気がしてくる。
 クリストファーは、隣を走っているアロイスに、思い切って話しかけた。


「アロイス」

「はっ、はっ、なんだい?」

「好きです」

「はっ、はいっ!?」

「恋人になりましょうか」

「え、待って! ちょっと止まっていい!?」

「駄目です」

「走りながらじゃ話せないよ!」

「えー。じゃあ、走り終わってから話しましょうか」

「あ、はい」

「ちょっと速めにしようかな。速くしますから、遅れないよう、頑張ってー」

「あ、うん!」


 クリストファーは、走る速さを少し速めた。アロイスは、荒い息を吐きながらも、頑張ってついてくる。必死に走るアロイスを横目に眺めながら、これだからアロイスは可愛いんだなぁと、クリストファーはぼんやり思った。

 森からアロイスの家に帰り、庭でクールダウンの柔軟体操をしていると、荒い息がそれなりに整った汗だくのアロイスが、クリストファーに話しかけてきた。


「クリストファー君。本当に僕と恋人になってくれるの?」

「まぁ」

「本当の本当の本当に? 『いや、やっぱ嘘です』は無しだよ!?」

「嘘じゃないですよ。アロイスのことが好きです。若干、不本意ですけど」


 アロイスが真顔でじっとクリストファーを見つめた。アロイスの白磁の肌が、じわじわと赤く染まり始め、パァッと輝くような笑みを浮かべて、アロイスが勢いよくクリストファーに抱きついてきた。


「一生幸せにする!!」

「あ、はい」

「一緒のお墓に入ろうね! お墓の土地はもう買ってあるから!」

「気が早すぎる」

「えへへへへ。クリストファー君」

「はい」

「大好き」

「俺もですよ」


 クリストファーは、大喜びしているアロイスの身体を抱きしめながら、なんだか擽ったくて、小さく笑った。

 一緒にシャワーを浴びてから、クリストファーは手早く昼食を作った。アロイスも手伝ってくれる。余程嬉しいのか、アロイスはずっとニコニコして、そわそわしている。ちょっと可愛い。出来上がった昼食を食べながら、クリストファーはアロイスに提案してみた。


「アロイス。この家に住んでもいいですか?」

「勿論! 大歓迎! いつから住む? 今日?」

「いや流石に今日からは無理ですから。親に事情も話さないといけないですし」

「あ、そうだね。クリストファー君のご両親に挨拶しないと」

「え? 挨拶なんかするんですか?」

「するよ? クリストファー君を貰いますって」

「貰われるんですか。俺」

「うん。もう一生僕のものだもの」

「地味に重い。……それじゃあ、俺もアロイスのご両親に挨拶した方がいいですね」

「僕の両親は、常に国中を飛び回ってるから、今何処にいるかも分からないんだけど。まぁ、連絡したら帰ってくるかもしれないけどね」

「おや。じゃあ、連絡お願いします。アロイスが俺の両親に挨拶してくれるなら、俺もアロイスのご両親に挨拶しとかないと」

「そうだね。一緒の墓に入るんだし」

「何十年先の話ですか」

「ふふーっ。死ぬまで離してあげないから。死んだ後もずっと一緒」

「地味に重い。まぁいいですけどね」


 アロイスが、背後に大輪の薔薇でも背負ってるような、華やかな笑みを浮かべた。どうやら、本当にとても喜んでいるようである。クリストファーは、なんとも照れくさくて、誤魔化すように、珈琲を飲んだ。


「アロイス」

「なぁに?」

「お腹が落ち着いたら、イチャイチャします?」

「めちゃくちゃする」

「あ、はい」


 食い気味で即答したアロイスに、やっぱりなんとも照れくさくなる。クリストファーは小さく笑って、もりもりと美味しそうに食べてくれるアロイスを眺めた。

 2人で昼食の後片付けをした後。アロイスの寝室に移動して、ちょっとだけ昼寝をした。クリストファーにぴったりくっついてきたアロイスの頭をやんわりと撫でると、アロイスが嬉しそうに笑って、クリストファーの唇に触れるだけのキスをした。

 クリストファーが、心地よい微睡みに浸っていると、顔中に優しく柔らかいものが何度も触れた。のろのろと目を開けると、アロイスがご機嫌にクリストファーの顔にキスをしていた。


「あ、起きた。お腹落ち着いた?」

「落ち着きましたよ」

「じゃあ、イチャイチャしよう。イチャイチャ」

「いいですよ」


 クリストファーが頷くと、アロイスがふわっと嬉しそうに笑った。アロイスがいそいそとクリストファーの身体を跨いで、クリストファーに覆いかぶさり、何度もちゅっ、ちゅっと優しくクリストファーの唇を吸ってきた。クリストファーもアロイスの柔らかい唇を吸うと、アロイスの水色の瞳が、嬉しそうにキラキラと輝いた。クリストファーは、可愛いなぁと思いながら、舌を絡めつつ、やんわりとアロイスの頭を撫でた。

 アロイスがキスをしながら、クリストファーのシャツのボタンを外していく。シャツの下には何も着ていない。クリストファーの素肌に、いつもより少し温かいアロイスの手が優しく触れた。盛り上がった胸筋をやんわりと揉まれ、掌でくにくにと乳首を優しく刺激される。地味に気持ちがいい。でも、もっと気持ちよくなれることを、クリストファーは既に知っている。クリストファーは、唇を触れ合わせたまま、囁いた。


「舐めてください」

「喜んでっ!!」


 アロイスが鼻息荒く、むしゃぶりつくように、クリストファーの乳首に吸いついた。ふんすふんすと鼻息が荒くても、アロイスは一生懸命で可愛い。乳首を舌で優しく押し潰されたり、ちゅっちゅくちゅくちゅくと緩急をつけて吸われると、絶妙に気持ちがいいし、興奮する。クリストファーは、いつも以上に熱心に丁寧に乳首を弄るアロイスの頭をやんわりと撫でながら、口角を上げて喘いだ。

 身体中のいたるところを舐めまわされながら服を脱がされ、クリストファーは、今は四つん這いになって、アロイスにアナルを舐めまくられている。アナルを擽るように舌先でこちょこちょとされると、気持ちよくて、思わず腰をくねらせてしまう。気持ちがいいが、もう欲しくて欲しくて堪らない。
 クリストファーは、上体を伏せて、自分のムッキリした肉厚の尻肉を両手で掴み、大きく尻肉を広げた。


「アロイス、早く」

「ちょっと待って。解してから」

「早く欲しい」

「今日はビックリする程素直だね!? そんな事言われたら我慢できないんだけど!?」

「我慢する必要あります?」

「~~っ、ちょっと出ちゃったじゃないか! きっ、君に怪我をさせたくないから、もうちょっと待って!!」


 クリストファーが首を捻って顔だけで振り返れば、アロイスが真っ赤な顔で、自分のペニスを両手で押さえていた。ちょっと可笑しくて、クリストファーが小さく笑うと、アロイスが水魔術を発動させた。ぬるぬるした粘度が高い水で濡れたアロイスの細い指が、くちくちとクリストファーのアナルの表面を優しく撫でて、ゆっくりとアナルの中に入ってきた。敏感な腸壁を優しく指の腹で擦られる感覚が、気持ちよくて、背筋がゾクゾクする程興奮する。クリストファーは、熱い息を吐きながら、わざとアナルに力を入れたり抜いたりして、アロイスの指を更に奥深くまで飲み込もうとした。アロイスが興奮しきった顔で、いつもよりも性急にクリストファーのアナルを解し始めた。前立腺を指の腹で擦りながら、指を抜き差しされると、じわじわと身体の中に広がる快感が高まり、更なる快感への期待が膨らんでいく。

 ずるぅっと、アロイスの指がクリストファーのアナルから抜け出ていった。アロイスに促されて、ころんと仰向けになり、自分の膝裏を持って、両足を大きく広げる。クリストファーは、荒い息を吐きながら、小さく笑って、足先をちょいちょいと誘うように動かした。アロイスが、ごくっと唾を飲みこむのが、見ていて分かった。

 いつになく余裕の無い顔で、アロイスが自分のペニスの竿を片手で掴んで、ひくひくと勝手にひくつくクリストファーのアナルに、熱くて硬いペニスの先っぽを押しつけた。ゆっくりと、解しても尚狭いクリストファーのアナルを押し拡げながら、アロイスのペニスがアナルの中へと入ってくる。腹の中をみっちりと満たされる感覚に、クリストファーは間延びした声を上げた。自分のペニスを見れば、とろとろと白い精液が溢れだしている。まさか挿れられただけでイッてしまうとは。クリストファーは、なんだか可笑しくて、クックッと低く笑いながら、興奮しきって若干目が血走っているアロイスに向かって、口を大きく開けて舌を伸ばした。すぐにアロイスがガツンと一気に腹の奥深くを突き上げながら、クリストファーの舌を食らいつくような勢いで咥えて、めちゃくちゃに舐め回し始めた。そのまま、最初からクライマックスな勢いで、激しく腹の奥深くをずこずこ小刻みに突き上げられまくる。目の裏がチカチカして、頭の中が真っ白になる強烈な快感が堪らない。一生懸命腰を振っているアロイスが、可愛くて、可愛くて、クリストファーは、両腕をアロイスのほっそりした首に絡め、両足をアロイスの腰に絡めた。アロイスの動きが益々激しくなり、身体の中を暴れ回る快感が弾け飛ぶ予感がどんどん大きくなっていく。
 クリストファーは、唇を触れ合わせたまま、喘ぎ混じりに囁いた。


「すき」

「~~~~っ、もう! っ、あぁっ……」

「あ、あ、あーーーー……」


 アロイスのペニスが、腹の中で、ほんの微かにぴくぴくと震えている。射精しているアロイスのペニスの感触すら気持ちよくて堪らない。ゆるく口角を上げて喘ぐクリストファーの唇に、アロイスが噛みつくような勢いで吸いついてきた。見つめ合い、唇を触れ合わせたまま、アロイスが囁いた。


「素直な君は可愛いけど凶悪だ」

「可愛いのはアロイスでしょう」


 クリストファーがクックッと笑って、アロイスの後頭部をやんわり撫でると、アロイスが少しだけ顔を離し、濡れた唇をちょっと尖らせた。


「僕は一生君の尻に敷かれる気がしてきた」

「別に尻に敷く気は無いですけど」

「僕を振り回せるのは君だけだよ」

「そうですか。アロイス」

「なんだい?」

「早くお代わり」

「~~っ、そういうとこだぞーー!! もう! 好きっ!」

「俺も好きですよ」


 クリストファーが、へらっと笑ってアロイスの汗で濡れた頬を撫でると、アロイスが真っ赤な顔で、クリストファーの身体をぎゅっと抱きしめた。腹の中のアロイスのペニスは、射精した筈なのに、ガチガチに硬い。
 クリストファーは、満足するまで、何度もアロイスの熱を求めた。




ーーーーーー
 アロイスと恋人になって、二ヶ月後。クリストファーは、アロイスの家に引っ越した。

 アロイスを実家に連れて帰り、恋人だと紹介すると、クリストファーの両親は、腰を抜かす勢いで驚いていた。ちょっとした騒ぎになったが、クリストファーが恥ずかしくなるくらい、アロイスがクリストファーを如何に愛しているかを熱弁すると、最終的に、クリストファーの両親は、クリストファー達を祝福してくれた。実家を出て同棲することも認めてもらえた。

 クリストファーは、アロイスの両親にも、挨拶をした。アロイスの両親は、2人ともとんでもない美中年だった。この両親から生まれたアロイスが美しいのも納得するくらいの美中年だった。アロイスの両親は、アロイスがクリストファーを恋人だと紹介すると、諸手を上げて喜んだ。曰く、『人嫌いのアロイスにやっと春がきた』と。アロイスは美し過ぎて、色々と苦労してきた結果、自分の両親から『人嫌い』認定されるくらい、他人を寄せ付けなかったらしい。クリストファーは、アロイスの両親から、『一生、アロイスのことを頼む』と、若干重いことを言われた。一応、そのつもりなので、クリストファーは素直に頷いておいた。

 アロイスの家に住み始めてからは、一緒に家事をするようになった。ぶっちゃけ2人で分担してやった方が早いのだが、アロイスがいつも嬉しそうにしているので、まぁいいかと、好きにさせている。クリストファーも割と楽しいので、家にいる時は、いつも2人で何かしらしている。
 毎日、一緒に筋トレをして、一緒に食事を作って食べて、一緒に掃除や洗濯をして、一緒に風呂に入って、一緒に寝ている。

 アロイスは、何年も筋トレを頑張り続けたが、結局筋肉ムキムキとまではいかなかった。外に出れば、歳を重ねても美しいアロイスに、周囲の人間がキャーキャー騒ぐし、告白してくる猛者が男女問わず多いままだが、アロイスの愛は、ずっとクリストファーに注がれている。それが分かるので、クリストファーも精一杯アロイスのことを愛している。

 2人で筋トレをして、森の中を走った後。心地よい初夏の風に火照った身体を撫でられながら柔軟体操をしていると、アロイスがクリストファーの背中にくっついてきた。


「クリストファー君」

「なんです?」

「なんかね、すごい幸せ」

「そうですね」


 あまり代わり映えの無い日々だが、確かにクリストファーも幸せだった。たまーに、ちょっとした喧嘩をすることもあるけど、アロイスはいつだって一生懸命で、可愛くて堪らない。きっと、死ぬまでアロイスは頑張り屋さんで可愛いままだ。
 クリストファーは、アロイスを背中にくっつけたまま、小さく笑った。

 頑張り屋さんの愛には、同じくらいか、それ以上の愛で応えてやらねば。
 クリストファーは、アロイスをおんぶして、軽やかな足取りで風呂へと向かった。

 2人の穏やかで温かい幸せは、ずっと続いていく。


(おしまい)

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